451話 洞窟の中の魔物
「お父さん、あれはいいの? 危なくないの?」
「ぷ~!」
「りゅ~!」
「……ふ」
視線の先には3匹のスライムと動く木の根。
一見うようよ動く木の根がソラたちを襲っているように見えるけど、実際は遊んでいる。
シエルも特に警戒することなく、ただ遊んでいる姿を見つめているだけ。
助けに行こうとしていないので、きっと大丈夫なんだと思う。
でも、木の魔物は襲われた経験があるため、ちょっと怖い。
「あ~、洞窟の中をはい回る木の魔物なんだけど……あんな姿を見たのは初めてなんだよな。どうなっているんだ?」
「ぷ~!」
「……ふ」
「りゅ~!」
うようよ動く木の根を滑り降りたり、よじ登ったり。
動く根っこを受け止めたり、転がされたり……かなり楽しんでいるのが見ていて分かる。
「そうなんだ」
お父さんでも知らないのか……まぁ、ソラたちの様子から大丈夫だとは思うけど。
襲ってきた木の魔物と、洞窟にいる木の魔物は別の種類って事なのかな?
「どうした?」
「前にね。木の魔物に襲われて大怪我負った事があるから、ちょっと……」
ソラたちの遊ぶ姿を見ていると大丈夫と思うんだけど、近付けない。
「襲われた事があるのか?」
「うん。ソラがいなかったら死んでいたと思う」
「そんな大怪我を?」
お父さんがかなり驚いた表情で私を見る。
「うん。その時に初めてソラの能力を知ったから」
あの日から、私がソラへ向ける気持ちは色々と変わった。
それまでは、「私が守らなくちゃ死んじゃう」という思いが強かった。
それが、あの日からは違う。
お互いに守りあっていく存在なんだと思えた。
今は守られているなと思う。
ポンと頭に乗る温かさに笑みが浮かぶ。
「そうだ。洞窟の木の魔物と外にいる木の魔物とは種類が違うの?」
まぁ、襲ってこないんだから違うんだろうけど。
「一緒のはずだ」
そうか、一緒……?
「一緒なの? えっ? でも」
視線の先には、さっきより多くの木の根がソラたちと遊んでいる。
「増えてる」
「そうだな。木の魔物は一種類しかいないと言われているから、アイビーを襲った木の魔物とソラたちと遊んでいる木の魔物の種類は同じはずだ」
「洞窟にいるから、変わったとか?」
「いや、洞窟で警戒する魔物の一種類が木の魔物だ。音もなく近づいて襲ってくる事で有名だからな」
お父さんの言葉に、そっと2人で後ろを確認する。
同じ行動をしたお父さんと視線が合うと、2人で苦笑を浮かべた。
「いないね」
「いなかったな」
良かった。
「ぷっぷ~」
「ぺふっふ~」
ソラとソルが木の根の先にくるくると巻き付かれ、ポイっと放り投げられた。
綺麗に着地すると、楽しかったようですぐに木の魔物に近付いて、プルプルと震えて訴え掛けている。
木の根はそれに気付くと、再度ソラたちをくるくるっと木の根の先で包み込んだ。
「面倒見のいい木の魔物か」
「そうだね。あっ、また行った。気に入ると何度も何度もさせられるんだけど、大丈夫かな?」
途中で木の魔物が怒ったりしないかな?
やっぱりちょっと不安だから、すぐに動けるようにしておこう。
「それにしてもこの洞窟はすごいな。あんなに守り石が岩にびっしりだ」
お父さんの視線の先には宝石に守りの魔力が宿った特別な石がある。
洞窟でたまに見つかる守り石なのだが、この洞窟の木の根がいた場所には沢山あった。
それも色とりどりの守り石が。
「こんなに色々な色があるんだね。あっ、金色だ。こっちは紫。色が混ざっているのもあるよ」
私が守り石を指すと、お父さんの視線が順番に追っていく。
「色が混ざっているのは珍しいな」
そうなんだ。
「ぷ~」
少し大きなソラの声。
慌てて視線を向けると、木の魔物の本体になるのかちょっと不明だが木の魔物の顔が洞窟の岩から出てきた。
「洞窟の中で、木の魔物の本体を見るのは初めてだな」
お父さんが少し警戒して、剣に手をかける。
その様子を見て、少し緊張感が増す。
「…………大丈夫か」
「そうみたいだね」
視線の先では、木の魔物の本体に飛び乗るソラ、フレム。
ソルは飛び乗ろうとして、本体の枝にぶつかって地面に転がった。
「ソルが失敗するなんて初めて」
「確かに。ソルは、なんでもそつなくこなす印象があるな」
テイムしてから、なんとなく前よりもっと近くにソルの存在を感じる。
それはすごく嬉しい事なんだけど、同時になぜか抜けている印象も増えた。
なぜだろう?
「ん? こっちに近付いてないか?」
お父さんの視線の先にいる木の魔物が、ずずっと私たちの方へ近づいて来る。
ソラたちの様子から、何度も大丈夫だと確認するけど、やっぱりちょっと怖い。
「ぎゃう」
体をくねっと小さく右に傾ける木の魔物。
「「…………」」
なぜか、挨拶をされたような気がしたので軽く頭を下げてみる。
すると目の前の木の魔物が体を上下に動かす。
喜んでいるように見えるが、上下に動くたびに洞窟がぴしっ、ぴしっと音をたてるので、背中がひやりとする。
「お父さん、洞窟が崩れたりしないですよね?」
何となく丁寧な言葉になってしまう。
「たぶん、大丈夫」
「ぎゃう?」
ん?
何か疑問に思う事があったようだけど、さすがに分からない。
「ごめんね。何を伝えたいのか分からない」
何となく目の前にいる木の魔物が可愛く見えてくる。
おかしいな。
さっきまで怖いという印象が強かったのに……。
「ぎゃぎゃ」
木の魔物が1本の枝をすっと私の前に持ってくるので、さっと掴んでしまった。
「あっ」
とっさの事だったので掴んだけど、大丈夫だろうか?
目の前の木の魔物を見ると、くねくねしていた。
「面白いな」
「うん。なんだか可愛く見えてきた」
「それは違う」
なぜかお父さんにすぐ否定された。
可愛いと思うんだけどな。
いまだにくねくねしている木の魔物は。
「ぎゃ!」
ぴたりと止まった木の魔物は、枝を守り石の方へ伸ばしてバキバキと岩から守り石を採ってしまう。
そしてそれを私とお父さんの前に持ってきた。
「ぎゃっ」
目の前にある色とりどりの守り石。
どうぞというようにずいっと前に持ってくる木の魔物。
「えっと、悪いしいいよ」
遠慮してみるが、グイっと枝がもっと体の近くまで来る。
これって絶対に受け取らないと諦めないって感じかな?
「ありがとう」
隣でお父さんがお礼を言うのが聞こえた。
視線を向けると、枝から守り石を貰っている。
「アイビー、せっかくだから貰っておこう。マジックボックスにはまだ余裕があるし」
あっ、やっぱりマジックボックス行きか。
「ありがとう」
枝から守り石を受けとる。
貰った石をちゃんとみると、全て色違いで3つの色が混ざった守り石もある。
確実にマジックボックス行きだ。
「ぎゃ! ぎゃ!」
一度は下がった枝が、今度は木の実を乗せて私の前に来る。
木の魔物を見ると、ジーっと私を見つめている。
これは期待されているのかな?
「ありがとう」
そっと枝から木の実を受け取る。
それを目の高さまで持ってくると、木の実を観察する。
特に普通の木の実でこれと言って特徴は無い。
「お父さん、これが何か分かる?」
「ん? いや、さっぱり」
お父さんとじっと木の実を見る。
見ていると木の実がころころと手の中で小さく転がる。
「えっ! 何?」
何が起こるのかわからず、手の中の木の実から目が離せなくなる。
「ぎゃ!」
目の前にいる木の魔物が鳴いているが、視線が向けられない。
ころころ。
ころころ。
ころころ。
ぴしぴしっ。
「ぴしぴし?」
木の実にヒビが入り、それがどんどん大きくなっていくので腕を伸ばして木の実を出来る限り遠ざける。
ぴしぴしっ。
ぱん。
木の実が割れたのが掌から伝わってくる。
そっと手の中を見る。
……木の魔物の子供?