ラットルアより
「は~、疲れた」
冒険者ギルドの簡易休憩場所に置かれている椅子に腰を下ろす。
王子の依頼だかなんだか知らないが、本当に面倒くさい仕事だった。
なんせ、オトルワ町の中での護衛なのだから。
犯罪組織が捕まった今のオトルワ町は、犯罪者が一掃されてかなり安全なのにだ。
しかも守るのは王都から来た貴族。
彼らは独自で護衛を引き連れている。
なのに、『自分の護衛たちだけでは不安だから、お前達も護衛をしてくれ』だと。
「10人も護衛をつけて何が不安だ。くそが。しかも断れないように王子の名前で依頼してくるしな」
まぁ、本当の目的は俺たちを王子側に懐柔すること。
だから、断れないようにしたんだろうが。
しかも、懐柔するには話す必要があるため、護衛する場所は貴族の傍。
この2日、本当に地獄だった。
護衛の日数を引き延ばそうとした貴族を見るシファルの表情がすごかったよな。
今思い出しただけで、寒気が……。
あれ?
そう言えば、貴族の名前って何だっけ?
……忘れたというより、最初から覚えてないな、これ。
「あ~もういいや。それより、アイビーへの返事がようやく書ける」
護衛の仕事でささくれ立っていたから、書くのを止めてたんだよな。
そのせいで2日も返事が書けなかった。
「さてと、何を書こうかな」
気持ちを切り替えて、貰った『ふぁっくす』の紙を机の上に置く。
「まずは『久しぶりだな。元気そうで安心した。それと仲間が出来たと聞いて嬉しかった。オール町のドルイド』……呼び捨てで問題ないよな? さん付け?」
周りを見るが、仲間の姿はまだない。
残念。
「手紙なんて書かないからどうするのがいいんだ? いいか、いつも通りで『オール町のドルイドとは1度だけだが一緒に仕事をしたことがある。彼はかなり強いので心強いよ。いい人と』俺が知っているドルイドは、けっしていい人ではないよな。このいい人は止めよう。『一緒に旅が出来る人と会えてよかったな。シファルが渡した紹介状の事は気にしなくていい。シファルも気にしていないから』と」
後はこちらの近況を書けばいいかな。
あっ、その前に、
「『太ったと書いてあったが、もともとが痩せすぎ。だからドルイドが問題ないと判断しているならそのままで大丈夫だと思うぞ。だから、気にせずしっかり食事をするように! 体の基本は食べる事、寝る事だからな』ほっとくと、簡単な食事で済ませてしまっていたからな」
1人で食事をしているところを見た事があったが、あれは驚いた。
干し肉1枚、果物1個で終わるんだから。
俺たちに料理を作ってくれていたから、まさか1人の時があんな状態だとは考えもしなかった。
お金の心配があったためなんだろうが、旅を続けるならあれでは駄目だとシファルと色々頑張ったよな。
まぁ、アイビーの料理は美味かったから俺たちも美味しい思いをしたけど。
「そうだ『アイビーが作ったソースで焼きおにぎりをシファルが作ってくれた。俺が手伝うと言ったら、すごく反対されたので残念だ。そうそう、おにぎりの形なんだが三角にはなっていなかった。丸い団子のような出来上がりで、シファルが言うには、三角にするのは難しかったそうだ。悔しがっていたので、今度オトルワ町に来た時には教えてやってくれ。俺にも頼むな。味は美味しかった。周りの奴らも最初は驚いていたが、気に入ってくれていたよ』なんせ必要経費として貴族の金で多めに買って配ったからな」
シファルはシファルで、焼きおにぎりを作って貴族の護衛たちやメイドたちに配って宣伝してたな。
上手くいったようで、護衛やメイドの中にソースを買いに行っている者たちがいた。
微々たるものだが、少しずつ広がっていくだろう。
「あとは『フレムという、新しい仲間が増えたんだな。きっとアイビーの事だからいい関係が築けているだろう。良かったな』」
フレムについてはあまり触れないほうがいいか?
魔石の事は絶対に触れないほうがいいだろうな。
「『ふぁっくす』って何気に難しいな」
また会う時に詳しく聞けばいいし、誰が読んでも大丈夫なようにしておくか。
そうなると、俺たちの事を書くか。
「まずはセイゼルクか『ここ最近の出来事だが、セイゼルクがまた振られた。人気があるのに、振られる確率が高い、これはきっと性格に問題があるんだろうな。可哀そうに。振られるたびに酒を飲んで絡んでくるのは、止めてほしいよ。シファルは、10日ほど前から女性とまた同棲を始めたみたいだ。今度はどれくらい続くか、セイゼルクと賭けをしている。俺は3ヶ月。セイゼルクは1年。たまたま賭けを知ったボロルダと、リックベルトは半年と賭けた。賭けで勝ったらオトルワ町で一番高い酒を奢ってもらう約束だ。3ヶ月でとっとと別れてくれないかな? すごく期待しているんだ。自分では絶対に買わない酒だから。という事でアイビーも、3ヶ月で別れるように祈っておいてくれ』よしっ!」
そうだ、後はヌーガだな。
「『ヌーガだが、この間、魔物の1匹食いというのに挑戦して2日寝込んでいた。心配はいらない。ただの食べ過ぎなんだけど、さすがにセイゼルクに怒られていた。まぁ、懲りた様子は全く無かったから心配はいらないよ』あの時は、さすがの俺たちも驚いたもんな。いきなり倒れて、原因が食べ過ぎとか」
「アイビーに何を暴露してんだ。ラットルア!」
いきなり後ろから声が聞こえて、肩が跳ね上がる。
『ふぁっくす』に集中し過ぎていたらしい。
「暴露って、本当の事だろう? セイゼルクは終わったのか?」
「あぁ、ギルマスに報告は済んだ。あと、二度とこんな馬鹿な仕事を入れるなって言っておいた」
ギルマスが悪いわけではないんだけどな。
「それより、ドルイドの情報が入ったぞ。怪我の事を気にしていただろう?」
さすが、仕事が早い。
「あぁ、大怪我と書いてあったからな」
「右腕を魔物に喰われたそうだ」
右腕が無いのか?
そんな大怪我だったのか。
「それと、その時にたまたま居合わせた子供がドルイドを助けたらしいんだが、奇跡が起こったそうだぞ」
子供は恐らくアイビーの事だろうな。
「奇跡?」
ソラの事がばれたのか?
「子供の話では混乱して、何をすればいいのかわからず、近くにあったポーションを種類を考えずに全てドルイドに使ったらしい」
「はっ?」
混乱?
アイビーが?
「ポーションを組み合わせると不思議な作用があるって聞いた事があるだろ?」
「聞いた事はあるが、そんな事が本当にあるのか疑問視されているだろ?」
「そう。だが、今回はその不思議な作用が起こったらしい。だから奇跡だと」
セイゼルクが肩を竦める。
つまり、誰かが意図的にそういう事にしたということか。
恐らくアイビーとドルイドだろうな。
ここは周りに人がいるから、ソラたちの事は話せないな。
「そうか。すごい事が起こったんだな」
恐らく怪我を治したのはソラだろうな。
アイビーもすごい治癒力だと言っていたし。
アイビーだけではなく、ドルイドにとってもいい出会いとなったのかもしれないな。
「それより、性格に問題があるとか、可哀そうってなんだ?」
セイゼルクが『ふぁっくす』を読み終わると、睨みつけてくる。
「素直な感想をアイビーに伝えただけだ。これでも抑えた表現なんだが」
もっと色々やらかしているからな。
俺の言葉に、少し嫌そうな表情をしたセイゼルクは何かを考えると、どこかへ行ってしまう。
姿を追うと、『ふぁっくす』の紙を貰っていた。
どうも、セイゼルクはセイゼルクでアイビーに返事を出すようだ。
絶対に何か余計な事を書くつもりだな、あれは。
後で絶対に読んでやる。
「ふぁっくすお届けします」はここまでです。
読んで頂いて、ありがとうございまいた。