ラットルアさんへ2
「『2回目は頭を抱えてました』という事は2回、シエルは凶暴化した魔物相手に大暴れしたという事か。アダンダラは戦闘狂と言われるほど、戦いが好きだから。容赦なく襲ってきた全てを返り討ちにしただろうな」
「見てみたいな」
セイゼルクの言葉にヌーガが羨ましそうに言う。
「確かに、一度でいいからアダンダラの本気の戦いを見てみたいな」
俺の言葉に全員が頷く。
知能も戦闘能力も高いと言われている上位魔物の本気で戦う姿。
アイビーは本気のシエルを見たんだろうか?
羨ましいな。
「興味が無かったから聞き流していたけど、オール町の問題の解決に上位魔物が関わっているという噂があったよね。あれはシエルの事だったという事か」
シファルの言葉に、セイゼルクが頷く。
「そう言う事だったんだな。他に何が書いてあるんだ?」
全員が、俺が持っている『ふぁっくす』に視線を向ける。
「ラットルア、続きを読んでくれ」
ヌーガに促されてファックスを見る。
「『ラットルアさんはこめを食べた事がありますか?私にとっては、親しみのある食材なのですが、残念ながら家畜のエサとして有名です。でもどうしてもこめが食べたくなって、オール町で探して買いました。偶然なんですが、こめを購入したお店の店主さんがドルイドさんのお父さんでした。後でその事実を知って、本当に驚きました』すごい偶然だな。『ドルイドさんのお父さんと知り合った事で、ソース作りに初挑戦しました。嬉しい事に、オール町のソースの1つとして登録されたんです。もしよければ、焼きおにぎりに挑戦して欲しいです。こめを炊いて、丸めてギュッと握ってソースをぬって焼くだけです。ソースを購入すると、作り方を記した紙が一緒にもらえます。器用なシファルさんだったら、簡単に作れると思います。美味しい焼きおにぎりのコツは、力を込めてギュッと握らない事です。焼きおにぎりがオール町で広がってくれたので、食糧問題が解決できたとドルイドさんのお父さんが喜んでいました』食糧問題って確か、ここ数年問題になっていたあれか?この町からも少しだが援助してたよな?」
人が急激に増えた事で起こった食糧不足だったよな。
少しずつ改善してたはずだが……魔物が暴れた事で物資が届いてなかったのか?
「そのはずだが……俺たちは関わってないからよく分からないな」
セイゼルクが手を差し出すので、1枚目と2枚目の『ふぁっくす』を渡す。
ざっと目を通して、何度か頷いていた。
「しかし、すごいな。こめを食べたくなるように料理するとは」
ヌーガの言う通り、これはすごい事だ。
こめは家畜のエサとして有名過ぎて、食料とする事に嫌悪感を持つ者があまりにも多かった。
そのため食糧不足に備えて、こめを食料として普及させようとしても大失敗。
それが、まだオール町だけだが、広めることに成功したとは。
商人や冒険者たちを介して広がっていくだろうな。
というか、商人がこんな旨い話を見逃すはずがない。
しばらくすれば、どの町や村でもこめを食べるようになるだろうな。
「それにしても気になるな、この焼きおにぎり。こめを炊いて握ってソースをぬって……シファル、作れそうか?」
「セイゼルクは自分で作るとは言わないんだよね。まぁ、作れない事は無いだろうが……」
「手伝うよ」
「ラットルアは絶対に手を出すな。こめの団子が出来上がりそうだ」
セイゼルクの言葉にむっとするが、そうなる未来が想像できるのでこれ以上は何も言わないほうがよさそうだ。
「それにしてもソースはいいですね。アイビーに継続的な収入が出来た事になる」
シファルの言う通り、ソースが売れれば継続的な収入になる。
「3枚目だな。『オール町ではいろいろ知らない事をいっぱい勉強できました。魔石を使い切ると道端に転がっているような石になるんですね。捨て場でその石を沢山見ました。本当に石にしか見えなかったです。しかも、石に見える魔石に魔力を注ぐと元の魔石に戻るんですね。濃度の濃い魔力を持った人しか、石を魔石に戻せないという事も知りました。私は、まだまだ知らない事だらけですね。フレムもきっとそんな事は知らないんだろうなと思います。
ラットルアさんは、石から戻った魔石を見た事がありますか? きっと綺麗なんでしょうね。とっても「見たい」と思います。そうだ、ラットルアさんはスライムの能力を全て知ってますか? ドルイドさんも知らない能力があるそうです。フレムのこれからにドキドキです』……何か伝えたいみたいだが、1回読むくらいだと解読できないな」
「ふふっ。アイビーは本当に面白いな。それと、絶対に外に漏らしては駄目な情報が含まれてるよ、これ」
シファルが少し困った表情をしている。
もしかして、アイビーの言いたいことが伝わったんだろうか?
「シファル、もう理解できたのか?」
「それほど難しくないから、すぐにわかるはずだ。というか、アイビー考え過ぎて疲れちゃったみたいだね」
魔石について……使い切った魔石が石のようになることと、その魔石を元に戻す方法を知ったという事だよな。
そう言えば、どうしてここでフレムが出てくるんだ?
他に気になるのは、ドルイドも知らない能力という所だな。
それに、どうして綺麗だと思ったんだ?
見たい……スライムの能力?
「フレムが石になった魔石を元に戻した、とか?」
セイゼルクの言葉に眉間に皺が寄る。
そんな事があるか?
いや、ソラからフレムが産まれたように、ありえない事を起こすのがアイビーたちだ。
「あっ!」
「セイゼルク煩い」
「あぁ、悪い。それより上位魔物の他にもオール町からくる噂に魔石の事があったのを覚えているか?」
噂?
たしか……魔物の凶暴化を解決するのに魔石が使われたとか、奇跡のポーションを持っている者がいたとか……だったはず。
ありえない噂だと思ったけど……もしこの魔石が、フレムが元に戻した魔石だったら?
それに奇跡のポーション。
『ふぁっくす』に書かれては無いけど、これももしかしたら……。
「オール町の噂に、アイビーの名前は挙がってないよな?」
俺の言葉にセイゼルクが頷く。
「大丈夫だ。だが不安だから、もう少し詳しく調べてみる。あちらのギルマスが上手く隠してくれていればいいが……」
「そう言えば、『ふぁっくす』はそれで全部か?」
ヌーガの言葉に首を横に振る。
「まだあと少しある。『長くなってしまってごめんなさい。私もドルイドさんも仲間たちも、皆すごく元気です。そうだ、身長も髪の毛もちょっと伸びました。それと、少し太ったみたいです。ドルイドさんが問題ないと言っているので、多分大丈夫です。皆に、また会える日を楽しみにしています』この太ったって、もともと痩せすぎていたからな。普通になったって事だろうな」
栄養失調になっていないか調べてもらおうと思ったら、思いっきり拒否されたよな。
「それと『お久しぶりです。オール町のドルイドです。「炎の剣」とは以前に仕事をしたことがあるかと思います。以前の俺を知っているので不安でしょうが、何があっても守りますのでご安心ください』とわざわざ追加で書かれてる」
俺の最後の言葉に、セイゼルクが驚く。
「俺たちの知っている彼とはまるで別人みたいだな。誰かを気遣う事をするなんて。彼を変えるとは、アイビーはすごいな」
嬉しそうにシファルが笑う。
「それにしても、この町で犯罪組織に狙われて、オール町で魔物の問題に巻き込まれて。アイビーには何かあるのか? 嫌な感じだ」
セイゼルクが眉間に皺を寄せる。
「それにその度にポーションや魔石を使っていたら、やばい連中に目を付けられるかもしれないな。シエルの事やソラたちの事もある。守りがドルイドだけでは少し不安だ。貴族連中は屑が多いからな」
確かにヌーガのいう事も考えないと駄目だろうな。
「フォロンダ領主を巻き込もうか。彼はアイビーの事を気に入っているし」
確かに彼なら力になってくれるだろうが……大丈夫か?
「俺と契約でも交わしてもらおうかな。馬鹿な貴族ではないが、もしもの事があるし」
はっ?
全員がシファルを見る。
「ん? 何?」
シファルは俺たちを不思議そうに見つめる。
「いや、契約って……フォロンダ領主と?」
「そうだけど。何?」
そう言えば、シファルは気に入った者を守るためなら何でもしたな。
最近は守りたいと思う者がいないみたいで、その性格を忘れていたが。
「久々に、全力で生きている子を見たんだ。応援したくなるのは当たり前だろう?」
全力か。
確かに、応援というか出来る事があったらやってあげたくなるんだよな。
「フォロンダ領主には俺から連絡しておく。契約の事は言わないで、会った時に判断しよう」
セイゼルクの言葉に、シファルが仕方ないという表情をする。
「さて、疲れたな。飯でも食いに行くか?」
セイゼルクの言葉に、椅子から立ちあがって背を伸ばす。
あれ?
今日ってなんでわざわざここに集まったんだっけ?
「仕事の話は良いのか?」
シファルの言葉にため息が出る。
忘れていた。
「あ~、飯を食いながらでいいだろ」
「いいのか?」
ヌーガの言葉に、セイゼルクが嫌そうに頷く。
「面倒くさい王族からの、どうでもいい依頼だ。依頼を見る前にこの部屋を押さえたが、必要なかった」
「継承争いをしている王子からの依頼って事か。確かにどうでもいいな」
シファルが椅子から立ちあがる。
なるほど、名前が売れた冒険者を取り込むための依頼か。
「王位継承争いは賑やかになってきているな」
アイビーが巻き込まれなければいいが。