オグト隊長より
「隊長お疲れ様です。報告書は明日までに出しますので」
「あぁ、頼んだぞ」
証拠の押収も終わったし、急ぎの用事は無いな。
あっ、昼間に出来なかった書類が残っているか。
……面倒くさいな。
ヴェリヴェラに半分押し付けられないかな。
無理だよな、さすがに。
「仕方ない、やるか。あっ、そうだ。アイビーへの返事を書かないと。それにドルイドからも、アイビーの後に一言あったんだよな。他人に一切興味を示さなかったのにな」
俺の知っている、ドルイドではないという事なんだろうな。
まさか「アイビーと共に旅をする事になりましたドルイドです。色々と聞いているでしょうから不安を感じるかもしれませんが、必ず守りますので。アイビーは私にとって恩人であり光なので」なんて書いてくるとはね。
恩人とはどういう意味だろうね。
光は、生き方を変えるきっかけでもアイビーが与えたかな?
まぁ、想像の域だから正解なのかは分からないが。
しかし光か。
ふっ、アイビーはいったい何をしたんだろうな。
今度会ったら、絶対に訊こう。
それにしてもギルドの隠し玉が、旅のお供か。
アイビーは、頼もしい守りを手に入れたな。
「さて、返事を書くか」
椅子に座り『ふぁっくす』の紙を用意する。
最初はお礼からだろうな。
「『アイビーへ、気に掛けてもらえたようで嬉しいよ。ヴェリヴェラと、心配していたから元気だという便りにとても安心した。それと、旅でいい人たちと巡り合えたようでよかったよ。オール町のドルイドだが……』」
ギルドの隠し玉として有名だと書くべきか?
もしアイビーが知らなかったら?
ん~、書かないほうがいいかな?
2人の問題だろうしな。
「えっと『強いと聞いているから、これからは安心だ』が無難だな。そうだ『アイビー、大まかな話は恐らく理解できたと思っている。色々工夫してくれてありがとう』……嫌味になってないよな? 言い方を変えるか? まぁ、大丈夫だろう」
「何をぶつぶつ言っているんです。気持ちが悪いですよ」
「ヴェリヴェラは時々本気でひどいよな」
「自業自得です。それで、あ~手紙の返事ですか。心配しているでしょうから、さっさと送ってあげた方がいいでしょうね」
確かに、返信が遅かったら、忘れてしまったのかと悲しむかもしれないな。
「ヴェリヴェラも何かアイビーに言う事があったら書くぞ」
俺の言葉に思案するヴェリヴェラ。
「後で自分で書きますので、いいですか?」
「分かった、なら後で渡すよ。『ソラとシエル、フレムとはとてもいい関係が築けているようで、特にシエルには驚いた。本当に』魔物の種類には触れないほうがいいよな」
「その方がいいでしょうね」
ヴェリヴェラを見ると、俺がするべき書類を少し持っていってくれた。
助かるが、もう少し持って行ってほしかった。
机の上に積みあがっている書類を見る。
本当に、うんざりするぐらいある。
「『ふぁっくす』を早急に仕上げて、書類に取り掛かってくださいね。早急に!」
「分かった」
逃げられそうにないな。
後は何を書こうかな。
あっ、そうだ。
「『ソラは寝床を探すのが得意らしいが、珍しい特技だな。初めて聞いたよ』これで気付くだろう。アイビーが分からなくても、ドルイドが」
まぁ、名前だけなら問題ないが、ソラがスライムと分かる部分は隠した方がいい事だからな。
「『森を自由に歩き回っているようだが気を付けるように。かなり凶暴な魔物もいる』これって隠さなくていい事か?」
「まぁ、それぐらいなら大丈夫でしょう。これからも、きっとそんな内容になるでしょうし」
確かに、シエルが案内する森を楽しんでいるみたいだからな。
きっとこれからも、村道を逸れて森の中を歩き回るだろう。
「そうだ、オトルワ町の犯罪組織の件を調べたんですが」
「あぁ、アイビーの『ふぁっくす』でほとんど触れてなかった町の事か。書かなかった理由を知りたいんだが、何か分かったか?」
「幼い子供が狙われて、オトルワ町の上位冒険者2チームがその子を守りながら領主と一緒に犯罪組織を潰したそうです。噂ですが、組織に狙われた子供が囮になっていたとか」
「……その囮、まさかアイビーか」
「えぇ、知り合いを脅し……ちょっと協力してもらって調べましたが、間違いなくアイビーですね」
ヴェリヴェラは、相変わらず情報を集めるのが上手いな。
「そいつからアイビーの名前が出たのか?」
もしそうなら、もっとうまく隠す必要がある。
彼女の存在は、俺が思っていたより危うい気がする。
「いえ、背格好ぐらいですよ。それに男の子だと思われていますから、その辺りは大丈夫でしょう」
「そうか」
星なしという珍しい存在なんだ、あの連中に目を付けられるわけには……。
ん、待てよ。
アイビーは自分のスキルを知っていたし、星なしだとも知っていた。
つまり教会で調べた。
そうだとすると、既に連中にアイビーの事が知られている可能性がある。
いや、だがおかしい。
もし連中が知っていたら、既にアイビーは連れ去られているはずだ。
「ラトミ村の教会の連中は信用できたりするか?」
「隊長、頭の中が腐りました?」
「おい。なんで、そうなるんだ」
「馬鹿な質問をするからです。教会の連中は誰1人信用することは出来ませんよ。なぜです?」
「アイビーは自分のスキルが星なしだという事を知っていた。つまり教会でスキルを調べたという事だ」
「確かにそうなりますね。でも、アイビーは捕まっていない。連中にとって、星なしはいらなかった?」
珍しいモノをなんでも集めるあの連中が、星なしをいらない?
いや、なんでも集める奴らだ。
他に何か理由があるような気がする。
「教会……あれ、ラトミ村の教会……確か、数年前に司教と連絡がつかなくなったと言って、この村の司教が調べに行きませんでしたか? 忽然と司教が消えたと結構な噂になってましたよ」
司教が消えた?
あぁ、そう言えばあったなそんな事が。
あれはいつの事だったかな確か……。
「4年前だな。司教が消えたのは。アイビーは7歳ぐらいだろうから、関係ないか」
「いえ、アイビーは今9歳ですよ。だから消えた司教がアイビーのスキルを見た可能性が高いです」
「9歳? あの見た目で?」
「ラトミ村の村長がギルドに依頼を出した時に、彼女の年齢を調べました。間違いなくあの大きさでも9歳です。きっと満足に食べられなかったんでしょうね」
きっとそうだな。
9歳と言われても、違和感しかない。
「『体を作るのは基本食べる事だ、しっかり食べるように』これで良し」
「……思い付きで書くのは駄目ですよ。読んだアイビーが困ります」
「大丈夫だろう。それにしても消えた司教は偶然なのか?」
「さぁ、どうでしょうね」
興味がなさそうだな。
「気にならないのか?」
「まぁ、少し気にはなりますが、特に調べようとは思いませんね」
まぁ、確かにそうだな。
その結果、アイビーが捕まらずに済んだわけだし。
しかし故意の場合は、目的は何だったんだろうな。
「『ふぁっくす』、書きました?」
「まだだ。『オトルワ町の事だが、だいたい把握している。無事でよかった。そしておめでとう』こう、書いておけば色々知っていると伝わるだろう。『オール町でも大変だったようだが、良い人に巡り合えてよかったな。ソースについては、興味があるから買ってみるよ』後は俺たちの事でいいか『俺とヴェリヴェラは、相変わらず元気だ。仕事が溜まって、面倒くさいよ。代わりにやってくれる人が欲しい』」
「いったい何を書いているんですか!」
「ん? 現状?」
「はぁ~、もういいですか?」
「あ~『また会える日を楽しみにしている。ドルイド、色々話は聞いているが、君がアイビーの旅のお供で嬉しく思う。会ったら一緒に飲もう』こんなもんだろう」
「無難ですね。まぁ、そんなもんですね」
『ふぁっくす』の紙をヴェリヴェラに渡す。
「何を書くんだ?」
「特には。元気だと知らせるだけですよ。『お久しぶりです。隊長ともども、いつもと変わりなく過ごしております。何も気にせず元気な姿を見せに来てくださいね。待っています』……9歳の女の子に手紙を書くのは初めてです。書き出すと何を書いていいのか迷いますね」
「そうなんだよ。結構難しいんだよ」
「えぇ。実感しました」
ヴェリヴェラから『ふぁっくす』の紙が戻ってくる。
今日の帰りにでも、送信しておこう。
「そうだ、犯罪組織を潰すのに関わった領主ってフォロンダ様か?」
「えぇ、そうですが。あの方で良かったですよ」
ラトミ村の現状は良くない。
このままいけば潰れる可能性が出てきている。
あの村には、アイビーが星なしだと知っている人物がいるはずだ。
彼女の事を隠すなら、貴族の手が必要だ。
連絡を取ってみるか。
オトルワ町の連中と、繋がっておくのも悪くないな。
アイビーの年齢がまた間違っていました、すみません。
只今アイビーは9歳です。