オグト隊長さんへ2
「続きは? あと2枚ですか? 何かちょっと怖く感じてしまいますね」
ヴェリヴェラの言葉に手元を見る。
確かに1枚目が終わって2枚目になるところだ。
「そうそう、何かがあるわけではないだろう。…………多分」
なんで断言できないんだ?
小さく溜息を吐いて、2枚目を読む。
「『すみません。なんだか伝える順番が滅茶苦茶になってしまいました。テイムした子たちの名前もまだでした。スライムはソラで次はシエル。次がスライムのフレムです』フレム?」
「1枚目に出てない子ですよね? スライムのフレム? また崩れスライムと出会ったんでしょうか?」
1枚目をざっと読み返すが、登場するスライムは1匹だ。
色々と衝撃の内容だったから、読み忘れでもあるのかと思った。
「スライムのソラは、1枚目に出会った崩れスライムの事でしょう。次のシエルはなぜ魔物の種類が書かれていないのでしょうかね? 3匹目はまたスライムと書いてあるのに」
確かにそうだな。
アイビーが書き忘れをするとは思えない。
「ここでは書けない魔物という事か」
「そうなりますね」
「1枚目で仲間になったアダンダラ……それは無いか」
アダンダラは伝説の魔物だ。
かなり強大な魔力を持った。
「『テイムした子たち』とありますからね。アダンダラは星5つでも難しい魔物です。仲間にする事は出来ても、テイムは……。特に俺たちの読みが正しければ、アイビーは星なしです」
「アダンダラを仲間にする事も、すごい事だけどな。でも、そうなるとこのシエルはなんだ?」
シエルがどんな魔物なのか、書き忘れた?
ん~?
「もしかしたら、アダンダラが違った可能性があるな。もしくはアイビーが星なしではなく星5つとか?」
アイビーが星なしだと、シエルはアダンダラではない?
シエルがアダンダラだとすると、アイビーの星なしが間違い?
いや、アイビーが星なしじゃないと、崩れスライムがテイム出来るわけがない。
やっぱりシエルはアダンダラではない……。
分からなくなってきた。
「こんがらがってきました。あとでゆっくり考えましょうか」
「あぁ、そうするか。とりあえず続きを読むな。フレムも気になるし」
分かりやすい説明だといいな。
「『ドルイドさんと一緒にいるようになってから、丸い果物を半分に綺麗に分けて食べてます。最近はこの方法がとても気に入っています。最初、丸い果物が綺麗に半分になったので驚愕しました。1つが2つになると、嬉しさ2倍です。そうだ、フレムもこんな感じで出会ったんです。ドルイドさんと出会った場所で。フレムの最近の楽しみはソラと一緒で崩れる事です。みんな最初は、崩れる事が好きなんですね。可愛いですよ』え~、アイビーもっと分かりやすく頼む」
ドルイドと仲良くやっているという事かと思ったが、フレムの説明だよな?
「難しいですね。丸い果物を半分。1つが2つ……。分からない」
「ここで分かる事は、フレムも崩れスライムだという事だな」
「そうですね。『ソラと一緒』だとありますし。『半分』と『1つが2つに』が重要なんでしょうね。1つが2つ?」
「ソラが2つになったとか? それは無いか」
スライムが分裂したとか聞いた事無いしな。
あ゛~、難しい。
「無いでしょうか?」
「ん?」
「『丸い果物が綺麗に半分』と『1つが2つに』は同じことを指していると思います。それによってアイビーはかなり驚いた。そしてこの部分で出てくる魔物はソラだけです。ソラが2つに綺麗に半分になったためアイビーはかなり驚いた」
フレムがソラから分裂したスライム?
そんな非常識な事が?
「アイビーが伝える事だけに集中すると、常識からはかなり外れますね」
「そうだな」
今までの常識が覆るな、間違いなく。
「ドルイドと出会った場所で何かが起こり、ソラが分裂してフレムが産まれた?」
ヴェリヴェラの言葉を、どこかで納得している自分がいる。
あの、1日保たないと言われている崩れスライムをテイム出来るアイビーだ。
常識を忘れた方が正解に近付けるかもしれないな。
「とりあえず、ドルイドに何かがあったようなので探っておきます」
「そうしてくれ。それが分かれば、何かが掴めるかもしれないからな」
頭を悩ますだけかもしれないが。
まぁ、知ることは大事だからな。
「続きを読むぞ」
こんなに中断する『ふぁっくす』なんて初めてだな。
普通はもっとさらっと読めるものなんだが。
「『ドルイドさんの住んでいたオール町で、彼の師匠さんに会いました。師匠さんの仲間にも紹介してもらって、ギルマスさんとも仲良くしていただけました。でも、オール町に行った時は魔物が凶暴化して暴れている時で、ちょっと大変でした』アイビーは、ちょっと巻き込まれ過ぎだと思うんだが、気のせいか?」
「気のせいではないですね。それにしても、師匠ですか……間違いなくギルドの隠し玉ですね。アイビーと一緒にいるのは」
オール町で師匠と呼ばれる人はたった1人だからな。
それにしても、凶暴化した魔物が暴れ回っている時に行ってしまったのか。
「怖かっただろうな。『オール町ではドルイドさんのお父さんと一緒に料理に使うソースを開発したんです。商業ギルドに登録してくれたので、もしよかったら味を確かめてください』すごい事してるな」
「そうですね。今日にでもオール町で登録された新しいソースを調べますね」
「あぁ、『やきおにぎりを作って、皆に配って食糧難を解決です』おいおい、本当にすごい事をしてるじゃないか」
「あはははっ、その事は正直に書けるんですね。そう言えば、あの凶暴化の解決に珍しい魔石が利用されたという噂が流れてましたね。それと、かなり強い魔物が手助け……」
ヴェリヴェラが言葉を切って俺を見る。
確かに噂が来ていたな。
ほとんど人前に姿を見せない魔物が、まるでオール町の人を助けるように現れたって。
「ん~、やっぱりアダンダラか?」
「先を読みましょう」
「考えるのを放棄したな。『オール町の周辺で暴れている凶暴化した魔物は、オール町の冒険者たちの覚悟で解決しました。初めてその覚悟を見て震えてしまいました。ちょこっとですが、大切な仲間の手助けが役立ってくれたので、嬉しいです。ギルマスさんも笑ってくれました』ちょこっとね~。何かしでかしてそうだな」
「確かに。今のオール町を探っても、情報は取れないでしょうね。あそこのギルマスは、色々上手ですし。今は師匠が戻ってきているらしいので」
ギルマスと師匠か、無理だな。
「下手な事はしないほうがいいだろうな」
2枚目が終わりだ。
1枚目に続き、色々あったな。
人生が濃すぎないか?
「3枚目だ。『仲間が増えたからなのか、旅がかなり楽しくなりました』いいね。『特にシエルの案内で森の中を歩く時は、その先に何があるのかワクワクします』ん? 『シエルはすごいんですよ、色々な洞窟を見つけて案内してくれます』……もしかして、村道をかなり外れてるのか?」
シエルの案内で森の中って、そう言う事か?
洞窟?
洞窟にはかなり凶暴な魔物がいるはずだが。
「『ソラは寝場所を探すのが得意です』……スライムだよな? えっ? スライムにそんな能力あるのか?」
「その部分を隠してないという事は、アイビーには当たり前すぎて隠す必要を感じなかったんでしょうね」
あっ、これについては注意しておかないと駄目だな。
「『そうだ、ヘビの魔物は大きくなるとサーペントという魔物になるとドルイドさんに教えてもらいました。すごく大きくて優しくて可愛かったです』何処を突っ込めばいいんだ?」
「ん~、楽しそうな旅ですね」
「完全に考えるのを放棄しやがったな」
「そのままを受け止める事にしました。難しく考える必要はないですよ。アイビーは楽しそうなんですから」
「まぁ、そうだな。えっと、『アダンダラは大きくてふわふわです! 森で偶然に出会って、テイムして、テイムじゃなくて仲間です』……これ、テイムと書いてしまって慌てて誤魔化そうとしているけど……誤魔化せてないよな」
2枚目までだとちょっと魔物の種類の断定がしづらかったから追加してくれたんだろうけど、最後に全部書いちゃったよ。
「そうですね。予想はしてましたが、アダンダラだと名前が出るとやはり衝撃ですね。伝説の魔物ですから。しかもテイム……テイム!」
そうだ、テイムしたって!
「確かに衝撃だな。俺たちが知っているテイム方法とは違う方法があるという事になるな」
それに、伝説のアダンダラが星なしにテイムされたなんて事が世界に知られたら、誰に目を付けられるか分かったもんじゃないな。
この『ふぁっくす』も厳重に管理……いや、燃やした方がいいか?
いや、勿体ないな。
厳重に管理しておこう。
「最後は挨拶だな。『心配掛けましたが、私は元気に旅を続けています。ラトメ村に行ったら、お礼がしたいです。読んでくれてありがとうございました。アイビー』」
「アイビーの『ふぁっくす』を読む時は、常識という物を忘れないといけないですね。それにしても、最後に名前を出してしまいましたね」
「もうどうやって伝えたらいいのか、分からなくなったんだろう」
脈絡がなく「アダンダラは大きくてふわふわです!」だからな。
まぁ、不意打ちだから『ふぁっくす』の内容をしっかり読まない限りは大丈夫だろう。
「それにしても疲れたな」
「そうですね。ただ『ふぁっくす』を読んだだけなんですが」