447話 あっ、ギルマスだった
「悪いな。俺の分まで作ってもらって」
そう言いながら、サンドイッチにかぶりつくギルマスさん。
「いえ、簡単なので大丈夫ですよ」
私も、お皿に載っているサンドイッチに手を伸ばす。
今日は、白パンを使ったサンドイッチ。
お昼の話になった時に、久々に白パンが食べたいと言ったらギルマスさんが大量に買ってきてくれた。
なので、野菜とお肉を挟んだサンドイッチを作る事にした。
お菓子の食べ過ぎでそれほどお腹が空いてなかったはずだけど、久しぶりのサンドイッチは美味しい。
「これって、『さんどーも』か?」
「さんどーも」?
ジナルさんの言葉に首を傾げる。
「知らないか? この村に来る途中に寄った村で見かけたんだけど」
「いえ、知らないです」
「さんどーも」なんて名前は初めて聞いた。
「そうなのか? アイビーが作ったこれみたいに、パンに野菜と肉が挟まっていたけどな。ちょっと人気の屋台だったから、何を売っているのか確かめたんだ。まぁ、挟まれている肉の量が少なかったから、買ってはいないんだけどな」
もしかして、また名前が少し変わったのかな?
「これは、『サンドイッチ』です」
私が作るのは「サンドイッチ」です。
それにしても、「さんどーも」か。
ボロルダさんたちが広めた「さんどいもどき」がどうしてそんな名前になっているんだろう?
「そういえば、これに似た食べ物がオトルワ町では『さんどいもどき』と言う名前で売られているよな? 『さんどーも』に『さんどいもどき』に『サンドイッチ』か。似てるような、似ていないような……」
ジナルさんが首を傾げる。
確かに、似ているような、似てないような、微妙な変化を遂げてる。
それにしても、サンドイッチが載ったお皿を見る。
白パンを大量に買ってきてくれたので、大量にサンドイッチを作った。
残れば、マジックボックスに入れて好きな時に食べられるから。
そう思っていたんだけど……残りそうにないな。
「美味いよな~。中身の肉の味付けがいいよな」
ジナルさんの言葉に、食べながら頷くギルマスさん。
ジナルさんもギルマスさんも、肉の味が気に入ったようだ。
「こっちの肉はちょっとピリ辛みたいだ」
「こっちは、甘めだな」
ギルマスさんとジナルさんの口にどんどん入っていくサンドイッチ。
味が気に入ったのは嬉しいが、この2人はお父さん以上に食べた。
ジナルさんの食べる量にも驚くが、ギルマスさんはもっと食べた。
一番年上のはずなのに、すごい。
「ご馳走様です」
お菓子を食べていた事もあって、いつもより少しだけ少ないがお腹がいっぱいになってしまった。
「もう? もっと食べないと大きくなれないぞ」
ギルマスさんの言葉に、苦笑が浮かぶ。
ギルマスさんを基準に考えると、誰もが少食になりそうなんだけど。
「お昼の前に、お菓子を食べていたので。もうお腹がいっぱいです」
「そうなのか? でも、栄養面を考えると食事はしっかりとれよ」
ギルマスさんの言葉に頷く。
「これでもアイビーは食べられるようになったんだけどな」
お父さんの言葉に、ギルマスさんとジナルさんが私を見る。
確かに、前に比べると食べられるようになったと思う。
「前はもっと少なかったのか?」
「あぁ、今の半分ぐらいか?」
お父さんの言葉に、気まずい表情になるのが分かった。
森で生活していた時も、旅に出た後も満足に食べられる時は少なかった。
そのせいなのか、食べようと思っても量を食べる事が出来なくなっていたらしい。
その事を気付かせてくれたのが、ラットルアさん。
旅をしているわりに食べる量が少なく、同じ年齢の子供より背が低くて痩せていると言われて心配された。
「半分! よく、倒れなかったな」
ギルマスさんの手がすっと伸びてきて、手首を軽く握られた。
「……確かに、細いな。もっと、食え」
「今はお腹いっぱいですし、少しずつ食べられる量は増えているので大丈夫です」
ギルマスさんから解放された手首を自分で握ってみる。
細いかな?
「ぷっぷぷ~」
ソラの声に視線を向けると、用意したポーションを食べきったのか、満足そうにしているのが分かる。
フレムも、満足している様子なのでホッとする。
捨て場に行けていないので、ポーションの数がいつもより少なかった。
「お父さん、捨て場に行けるかな? もう、ポーションの予備もマジックアイテムも無いんだけど」
「あ~、行く事は出来るだろうが……」
操られたシャーミが暴れていたから、森へは出られなかったけれどそれも落ち着いた。
だから、捨て場に行く事は出来るはず。
ただ、捨て場に行っても必要な物が揃うかどうかが分からない。
森へ出ることを禁止されていたため、捨て場へゴミが捨てられていない可能性がある。
「捨て場に何をしに行くんだ?」
「ソラたちのご飯の確保が必要なんだ」
お父さんの答えにギルマスさんが少し考えこむ。
「それは森の中の捨て場ではないと駄目なのか? 村の仮置き場にもいろいろ揃っていると思うが」
村の仮置き場?
「森へ出られない場合、仮置き場を作ってそこに置いておくんだ」
「だが、そこは監視があるだろう?」
監視?
「あるが、俺はギルマスだからどうにでも出来る」
ギルマスさんの言葉に、彼を見つめる。
どうにでも?
あっ!
「あっ、そうか。ギルマスだったな」
お父さんも忘れていたみたいで、はっとした表情でギルマスさんを見る。
「ひどいな。この村では結構な力を持ってるんだが?」
ギルマスさんがお父さんを見る。
「まぁ、ははははっ。ギルマスとしての風格がな~」
お父さんの言葉に、肩を落とすギルマスさん。
「まぁ、仕方ないか。情けない姿ばかり見せているからな。それで、いつ頃人払いしておいたらいい? 明日でいいか?」
ギルマスさんの言葉に「はい」と頷く。
本当にいいのかな?
でも、森の捨て場より村の仮置き場の方が今は必要な物が揃ってそうだし。
「ギルマスさん、ありがとうございます」
「俺たちも助かるよ。ゴミを持って行ってくれるんだから」
そう言えば、この村のテイマーたちはどうなっているんだろう?
「この村のテイマーたちはどうなんですか?」
「ん~、よくないな。処理能力がかなり落ちている。それに自信を無くしててな」
「そうなんですか」
「1つ、確かめたいことがあるんだけどいいか?」
「はい、なんですか?」
ギルマスさんに視線を向けると、彼はソラたちがいる方を見ている。
それに首を傾げる。
「ソルにテイムの印があるような気がして」
「あっ、そうなんです。ソルが認めてくれたみたいで、テイム出来ました」
「……そうか」
ジナルさんもソルを見ている。
「テイムの方法って1つではないんだな」
「そうだな」
ギルマスさんが面白そうに笑うと、ジナルさんもつられたのか笑った。
「どうしたんだ?」
「この村には有名なマーシャというテイマーがいたんだが、彼女の言葉を思い出した」
ギルマスさんの言葉に首を傾げる。
「彼女の言っていた事は誰にも理解されなかったんだが、彼女は亡くなるまで『魔力を必要とするテイマーは二流だ。力で抑えつけるのは外道だ!』そう言っていたんだよ」
「えっ?」
「彼女は10代の頃からこの考えを変えなかった。周りからは随分と馬鹿にされていたのにな」
今の言葉って。
「マーシャは、能力が高かったから王都でテイマーをしていたんだ。だが、テイム方法に真っ向から逆らったために、追い出されたんだよ。その当時は、まだテイマーたちの価値は今ほど重要ではなかったから」
「すごいテイマーさんですね」
周りに馬鹿にされても、王都から追い出されても自分を貫き通すなんて。
本当に強い人だったんだろうな。
「この村に来てからも、その考えは変えてなかったよ。だからすごいと言われる割には、他のテイマーたちに忌避されていた。だが、今思えば、もっと話を聞いていればよかったんだろうな。今のアイビーを見ると彼女が正しかったのだとわかる」
私も会ってみたかったな。
「この村のテイマーたちに、マーシャの言葉を伝えるつもりだ。遅いかもしれないが」
「遅い事はないと思います。そうだよね? 皆」
「ぷっぷぷ~」
「てっりゅりゅ~」
「ぺふっ」
「……にゃ?」
あっ、シエルは話を聞いてなかったな。