444話 ソルの真実
団長さんの家からエッチェーさんを連れてくる事になったので、ジナルさんとはギルマスさんの家の前でいったん別れる事になった。
「大丈夫ですか? エッチェーさんが来たら目立ちそうですけど」
彼女が団長さんの家で働いている事は有名だから、そんな人がギルマスさんの家に来たらきっと目立つ。
「大丈夫。彼女と分からなければいいだけだから。任せてくれ」
ジナルさんの言葉に首を傾げる。
「分からなければいい」とはどういう意味だろう?
「じゃ、また後で」
行ってしまったジナルさんを見送ってから、ギルマスさんの家の鍵を開ける。
「アイビー、少し話を纏めよう。どうも、俺たちは知らない間に術に掛かっていたようだしな」
「うん」
ソルに術を解いてもらったから大丈夫だと思っていたんだけど、そうではなかったという事だよね。
ただ、術を解いた後にまた術に掛かる心配をした時「大丈夫」だとソルは判断していた。
あれは、どういう事だったのか色々考えてみたが、情報が少なすぎて分からなかった。
ギルマスさんの家に入ると、すぐにソルたちをバッグから出す。
「ソル、色々聞いて大丈夫?」
「ぺふっ」
「ありがとう」
食事をする部屋に入ると、小さくため息を吐く。
「お茶を用意してくるから」
お父さんの言葉に、慌てて後を追う。
「疲れているだろう? 座っていていいぞ」
「疲れているというより、頭が混乱してるかな」
私の言葉に、お父さんが頷く。
お茶の用意と、少し甘めのお菓子の用意をして食事をする部屋に戻る。
シエルが元の姿に戻って小さくなっていた。
まぁ、一回許されたのだから問題ないだろう。
「ぺふっ」
座ってお茶を飲んでいると、机の上にソルが乗って来る。
そして、私とお父さんを見上げる。
「今日は、ありがとう。ソルがあの石を壊してくれたから術から解放されたよ」
しっかりと目を見てお礼を言う。
本当にソルがいなかったら、どうなっていたか……考えると怖い。
「ぺふっ」
「ソル、色々聞きたい事があるんだけどいいか? 『はい』の場合は返事をしてほしい。『いいえ』の場合は、無視してくれ」
「ぺふっ」
「ありがとう」
とりあえず、何を聞けばいいのかな?
「えっと、ソルはあの魔法陣がどんな影響を及ぼすのか知ってたのかな?」
まぁ、知らなければあんなに壊す事はないよね。
「……」
「「えっ?」」
ソルの無言の返答に、お父さんと驚いてしまう。
知らない?
知らないのに、あんなに怖い雰囲気で壊したっていう事?
「えっと、知らないって事だよね?」
確認する意味で問いかける。
「ぺふっ」
そうか、知らなかったのか。
では、なんであんな怖い雰囲気であの石をあんなに攻撃したんだろう?
さっきは「どんな影響」と、聞いたんだよね。
「どんな影響を及ぼすのかは知らないけど、私とお父さんに悪い影響を与えると思ったとか?」
「ぺふっ」
なるほど、だからあんな風に豹変したんだね。
いつから知っていたんだろう?
というか、知っていたら絶対に知らせてくれるはずだから……。
「あの魔法陣が俺たちに影響を及ぼすと知ったのは、あの場所で魔法陣を見た時か?」
「ぺふっ」
魔法陣を見るまで知らなかったのか。
そうだ、ずっと気になっていた事を聞いてみようかな。
「ねぇ、ソル。私とお父さんから離れようとしてるよね?」
時々、窓から外をじっと見つめているソル。
あの雰囲気を見て、別れが近いのではと考えていたんだけど……。
ソルを見ると、不思議そうに私を見つめている。
えっと、私の勘違い?
それだと、その事を真剣に悩んでいた事とか、ソルの決めた事だから応援しようと一生懸命思い込もうとしていた私が恥ずかしいんだけど……。
「…………」
返事は無しか、私の勘違いだったんだね。
だってね、後ろから見たら哀愁みたいなのを感じたような……あれも気のせいだったのか。
「でも、だったらどうしてあんなに真剣に外を見ていたの? 魔力を感じたとか?」
「ぺふっ」
ん?
魔力を感じたから外を見てたの?
「ソルは……どう訊けばいいんだ? あ~、遠い場所にある魔力を感じられるのか?」
お父さんが迷いながらソルに訊く。
「ぺふっ!」
「……そうか」
なぜか嬉しそうに答えたソルに、首を傾げるお父さん。
私も、ソルの気持ちがちょっと分からない。
興味はあるけど、今は他の気になる事を聞いておこう。
「ソル、広場で術を解いてくれた事があったでしょ?」
「ぺふっ」
「その時に、もう術には掛からないって言ってくれたよね?」
「ぺふっ」
「でも、石に刻まれた魔法陣の術に掛かったよね?」
「……ぺふっ」
あっ、すごく落ち込んでしまった。
これは、ソルも予測できなかったって事かな?
「術に掛かったのは予想外だったの?」
「ぺふ~」
あ~、本気で落ち込んでいる。
でも、聞いておかないと駄目だし。
「ごめんね、ソル。落ち込まないで、ソルのお陰で助かったんだから」
「ぺ~」
ソルの頭をゆっくり撫でる。
それでもなかなか気持ちが復活しないのか、目が悲しそう。
「てりゅ」
フレムの声が聞こえたと思ったら、机の上に飛び乗ったフレムがソルにそっと寄り添った。
ソルも、フレムにプルプルと甘えだす。
「ん?」
スライムには雄雌の区別ってあるのかな?
お父さんを見ると、お父さんも驚いた表情でソルとフレムを見ている。
どうも、知らない様子。
まぁ、2匹をそっと見守っていこう。
「フレム、ありがとう」
ソルはフレムにお任せして、ここまでで分かった事は。
ソルは遠くの魔力を知ることが出来て、石に刻まれた魔法陣はソルですら予測できなかった。
あの魔法陣が相当な規格外って事になるよね。
それに、異の国の記憶持ちとスキル持ちを狙っている魔法陣だったことを考えると。
私たちのような存在がいることを、知っている人がいるという事になる。
しかも、邪魔に思っている。
そして最悪な事に、知らない間に排除されそうになっていること……。
何だろう、巻き込まれないようにしてきたのに、最初から中心に立たされている気分だ。
これって逃れようがないよね?
「ソル、この村で魔法陣が使われていた事を、この村に来る前から知っていた?」
「…………」
お父さんの質問に、ソルは無言でお父さんを見つめている。
「…………」
ソルの冷たい目にお父さんが慌ててソルの頭を撫でる。
「悪い、ソル。えっと、ただの確認だから」
疑うような聞き方するから、ソルに冷たい目で見られるんだよ。
「ふふっ、ソル。1つ1つ疑問を潰しているだけだから許してね」
「ぺふっ」
えっと、ソルの事で今わかっていることを纏めると。
ソルは魔力に興味があるし遠い魔力を感じる事が出来る。
でも、その魔力がどんな種類の物かは分からないって事だよね。
「ソルは魔法陣を見たら、危ないものかどうかは確認できるんだよね?」
「…………」
えっ、無言?
あれ?
魔法陣を見た時ってさっき……魔法陣じゃないとしたら……魔力?……魔法陣の魔力?
「魔法陣の魔力で、良いものか悪いものかを判断してるの?」
「ぺふっ」
なるほど、本当に魔力だけで判断してるのか。
何だか、話を聞けば聞くほどソルって不思議な存在だよね。
遠くの魔力を感じて、窓から外を見つめるソル。
魔力を食べるソル……ん?
「……遠くに感じる魔力を、美味しそうとか思っていたりして」
「ぺふっ!」
「「…………」」
なるほどね。
そりゃ、哀愁も漂うよね。
魔力を感じても、遠いんだもん。
あっ、いや~まさかね……。
「ねぇ、ソル。感じた魔力が食べたくて、私たちから離れようと考えた事ある?」
「………………ぺふっ」
あはははっ、今のところ食欲より私たちが勝ってるみたいだね。
443話のタイトルが抜けていました。
申し訳ありません。