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439話 教会

「回避か……出来るか?」


お父さんの言った言葉に、私も悩んでしまう。

知らない間に巻き込まれているのは回避のしようがないもんね。


「まぁ、頑張れ」


ジナルさんが苦笑するのを見て、お父さんが肩を竦めた。


「それで、ジナルはどうしてここに来たんだ?」


「だからアイビーたちの護衛だよ」


「事件に関わった者たちは、ほぼ確保したと言っていたのに?」


お父さんの言葉に、ジナルさんが一瞬だけ動きを止めた。


「俺、それだけ言った?」


「あぁ、そう聞いた」


お父さんの言葉に、ジナルさんが項垂れる。


「悪い。ちょっと疲れているみたいだ。ほぼ確保したけど、1人重要な人物が逃げているんだ。自警団員なんだが、もしかしたらドルイドの事を知られた可能性があって。だから俺がここに護衛としてきたんだよ」


まだ短い時間しか関りは無いけれど、重要な事を忘れるような人ではない事は知っている。

それだけ疲れているという事だろうか?


「大丈夫ですか?」


なぜか私をじっと見るジナルさん。

何だろうと首を傾げると、肩をぐっとジナルさんに掴まれた。


「アイビー、何か面白いスキルを持ってたりする?」


面白いスキル?

意味が分からず、お父さんを見る。

お父さんも、首を横に振っている。


「いえ、持ってませんけど。どうしてですか?」


「俺は確かに疲れているが、今の状態で気を緩めるような事はしない。なのに、度忘れした。考えてみると、アイビーの前だとどこか気が緩むというか、落ち着くというか。いや、けっして自分の失敗をアイビーのせいだと言っているわけでは……何を言ってるんだ、俺は。悪い」


ジナルさんは、肩から手を離して首を傾げる。

それは、本当に悩んでいるようで私も困惑してしまう。


「私のスキルはテイマーだけですよ」


「そうだよな、悪い。自分で思っているより疲れているのかもしれないな? 本当に悪い。そう言えば、自分のスキルはどうやって知ったんだ?」


教会以外で知る方法はないと思うけどな。


「教会で調べてもらいました」


「教会? もしかしてアイビーが星なしだと教会は知ってるのか?」


「えっと、はい。私の生まれたラトミ村の教会の人なら知っていると思います」


そう言えば、ラトミ村はどうなっているんだろう?

村の人たちが捕まった後、村がどんな状態なのか聞いたことが無いな。


「アイビー、教会の奴らをけっして信じるな。ドルイドもだ」


ジナルさんの表情が険しくなり、少し怖い。


「俺は、信じていないから問題ない」


「えっ? そうなの?」


そう言えば、お父さんは教会に行こうとは一度も言わなかったな。

冒険者の中には、旅の安全を祈る人もいるのに。


「冒険者になりたての頃に色々あってな。それからは一切の関係を断っている」


「だが、ある程度までは関係があったんだな?」


「あぁ。確かに関係は少しあったな。問題があるのか?」


「ある。ギルドの隠し玉と言われていたドルイドの情報だ。調べられていた可能性がある。今回の事件に関わっていると知られたら、接触をしてくる事だって考えられる」


「まさか……」


「その『まさか』があるんだ。接触してきても絶対に無視しろよ。俺たち『風』は調査員の仕事もしているが、裏の仕事もして――」


「待て! それは極秘だろう」


「そうだが、別に2人になら構わないと思っている。情報を漏らすことは無いと信じているしな」


ジナルさんの真剣な表情にお父さんと私は、頷く。


「裏の仕事で知った様々な情報の中に、教会関連や関係者のモノも多くあった。正直、教会を放置している王家に不信感を持つぐらいの情報もあった。だから言い切れる、教会には関わるな。あそこに属している連中は人を人とも思っていない。自分たちの利益のためなら簡単に人を殺す連中なんだ」


自分自身を拒絶された場所だから苦手だったんだけど、想像以上に危ない所みたい。

それにしても「簡単に人を殺す連中」だなんて。


「分かった」


お父さんが私を見たので、頷く。


「ジナル」


「ん?」


「教会がアイビーを狙うとしたら星なしが原因だと思うか?」


「あぁ。言い方は悪いが、奴らは珍しい者たちを集めているんだ。星なしなんて、相当珍しいだろう。今まで、よく無事だったな」


えっ?

そんなに危なかったかな?

教会で蔑んだ目で見られてたから近寄らないようにしてたけど、探されたような事は無かったと思う。


「集められた者たちは、どうなった?」


お父さんの質問に首を横に振るジナルさん。


「その先は不明だ」


まぁ、きっと悪い事が待ち受けているんだろうな。

ん?

珍しい……それはスキルも?


「ジナルさん。珍しいスキルを持っていても、目を付けられる可能性がありますか?」


お父さんのスキルもかなり珍しいというか、知られたら絶対に利用されてしまいそう。


「あるだろうな。教会が一番気にしているのはスキルなんじゃないかと、裏の仕事をしている連中で盛り上がったことがある。まぁ、真意は分からないが」


お父さんを見ると、眉間に皺を寄せて何か考えている。

もしかして、思い当たる事でもあるのだろうか?


「そうだ、前のギルマスは見つかったのか?」


ん? 前のギルマス?

あっ、事件の事か。

急に話を変えたから、分からなかった。


「いきなり話が変わったな。まぁいいが。奴は既にこの村には居なかった。あとテイマーのマトーリは捕まえた」


テイマーは捕まったんだ。

ギルマスさんの話では、元ギルマスさんと一緒にいたような感じだったけど、どうして逃げなかったんだろう?


「マトーリは既に狂った状態らしい」


あっ、逃げられなかったのか。


「そうか。そう言えば手紙に載っていた中位冒険者の3人はどうだったんだ?」


「奴らも全員、捕まえる事が出来ているから大丈夫だ。この3人が狂ったマトーリの見張り役というか世話係だったみたいだ。世話係が付いた事で、狂っても生きていたらしい」


見張り役? 世話係?

魔法陣で狂ってしまった人は元に戻らないと言っていた。

最後は体が弱って死ぬと聞いた。

世話係を付けたという事は、マトーリさんを死なせたくなかった?

何か重要な仕事でもしてたのかな?

だったら魔法陣を発動させたりしないか。


「……もしかして、そのテイマーは……」


お父さんが、言葉を濁しながらジナルさんを見る。

ジナルさんはその質問に神妙な表情で頷いた。

どういう事?

テイマーのマトーリさんに何か重要な事でもあるの?

彼女は魔法陣の術で狂ってしまって……。

あっ、この村は確か魔法陣の実験に使われていたって……マトーリさんは実験のために生かされてたとか?


「ふ~」


外れて欲しいけど、当たっている気がする。


「大丈夫か?」


お父さんが、心配そうに私を見る。


「大丈夫。ちょっと色々考えちゃって」


「そうか」


お父さんの手が労わるように、ゆっくりと私の頭を撫でる。

それに、少しだけ気分が落ち着く。


「ありがとう」


教会の実態とか、私が狙われる可能性とか……色々と衝撃があるな。

それに事件は解決したような、してないような感じだし。

でも、この村の事件は解決なんだよね。

どうも、すっきりしない。


「すっきりしないな」


「そうだな」


私の言葉に同意するお父さん。

そう言えば、お父さんの事に気付いたかもしれない自警団員が逃げ出したんだよね。

どんな人なんだろう。


「あの、ジナルさん。逃げた自警団員の人の名前や見た目は分かりますか?」


見た目がどんな人なのか知っておかないと。


「奴の名前はチョルシ。年は31歳で、奥さんと娘さんがいる」


奥さんと娘さんがいるの?

そんな人が、どうして村を裏切るようなことをするんだろう。


「赤茶色のショートの髪に目は薄緑色だ」


赤茶の髪に薄緑の目。


「右手の親指の付け根部分にほくろが2つあるらしい。俺も実際にチョルシにあった事はないからな」


ほくろが2つ。


「ありがとうございます」


「いや、あまり役に立ちそうにないな。あとで団長たちと合流するから、詳しく聞くといいぞ。まぁ、その前に確保されるのが一番だけどな」


「そうですね」


「あとは……、とりあえずこれぐらいかな。団長とギルマスが、落ち着いたら顔を出すと言っていた。おそらく、今日の夜か、もしかしたら明日になるかもしれないな」


団長さんもギルマスさんも忙しそうだな。

こちらから、2人に会いに行ってもいいけど。


「団長さんたちのもとへは、私たちの方から行きましょうか? 私もお父さんも時間に余裕があるし」


「いや、それは止めておこう。村人の中に教会と繋がっている奴がいるかもしれないから」


「既に手遅れのような気もするが」


それは言える。

頻繁に団長さん宅に出入りしたよね。


「あ~、そうかもしれないが。今、団長の家に行ったら事件を詳しく知っていると公表するようなものだろう。関係者以外立ち入り禁止なんだから。それに村の捜索前なら、何とかなる」


なるかな?

団長さんたちに期待しておこう。


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― 新着の感想 ―
[一言] >教会と繋がっている奴がいつかもしれないから いるかも
[一言] 誤字報告 「裏の仕事で知った様々な情報の中に、教会関連や関係者のモノも多くあった。正直、教会を放置している王家に不信感を持つぐらいの情報もあった。だから言い切れる、教会には関わるな。あそこ…
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