表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
462/1142

番外 ギルマスさんの決意

ピアルの様子を見る限り、かなり緊張をしているのが分かる。

無理はさせないほうがいいだろう。


「大丈夫です。お守りがあるので」


そう言えば、お守りがあると言っていたな。

なんの事だ?

もしかしてアッパスに何か貰って来たのか?


「アッパスに何か渡されたのか?」


魔法陣の力を制御できる物でも、持ってきたのか?

それだったら、かなり助かるんだが。


「いえ、違います。アイビーさんからソルの魔石を貰いました」


「そうか……ん? ソルの魔石?」


「はい。団長からアイビーに何かあると大変だから『警護に行け』と言われたんです。で、ギルマスの家に行ったんですが、ドルイドさんとアイビーさんに大丈夫だと言われてしまったような……言われたんです。はい。それで家を出ようとすると、アイビーさんが『ソルが魔石を作ってくれたのでどうぞ』と。どうやら俺がギルマスさんの家に着く少し前に、ソルが作ったみたいで……あれ?」


こいつ大丈夫か?

今、おかしなところが多々あったよな?

まぁ、だいたいの話は分かったが。

少し後ろを歩くピアルをそっと窺う。

さっきより顔色が悪いな。


「あの……ソルの魔石って、すごいレアな魔石ですよね?」


「あぁ、今まで聞いた事がない力を持っているからな」


「そうですよね。それを俺は、5個も持っているんですけど……どうしよう。5個も持ってる」


もしかして緊張しているのは、魔法陣が発動している事ではなく魔石を持ってるからか?

まぁ、確かにすごい魔石だからな。

それが5個……。


「5個!」


「はい。ギルマスが持っていてくれませんか? ジャッギにも半分は渡したんですが」


という事は全部で10個の魔石を渡されたのか。


「渡していいですか?」


必死な声に視線を向けると、バッグをぐっと押さえている姿。

恐らくそこにソルが作った魔石が入っているんだろう。


「ぷっ、くくくっ」


「なんで、笑うんですか!」


「俺はてっきり魔法陣の発動で緊張してるのかと思ったから」


ピアルはバッグを見てため息を吐いた。


「確かに最初は魔法陣に緊張したんですが、アイビーさんから預かった魔石の話をしていると、その魔石の事を話している団長を思い出して。そうしたら、俺が持っている魔石がすごい物だと実感したというか、あの、この魔石っていくらぐらいになりますか? 何かあったら弁償ですかね?」


「値段か? あ~、金板を何枚積んだからといって、手に入るかな? 魔法陣の力を吸収する魔石なんて、聞いた事ないからな」


「あの」


「ん?」


「貰った魔石ですが10個中2個は光ってました。ジャッギに渡そうとすると、ものすごく拒否されて」


……えっ。

それって魔法陣を発動させている時に役立っている魔石と同じ物か?


「そのまま持っててくれ」


「嫌ですよ!」


必死なピアルの表情に苦笑を浮かべる。

確かにいつもなら、俺が持っていた方が安全かもしれない。

だが今は、ピアルが持っていた方が安全だ。

俺は、魔法陣の術に掛かっている間の記憶を徐々に思い出している事を隠していない。

そろそろ敵や裏切り者にも届いているだろう。

そうなれば、自分たちの身を守るために動き出すはずだ。

全ての記憶が戻る前に。

もちろんやられるつもりはないが、もしもという事がある。

そんな俺が魔石を預かれるわけがない。

ポケットに入っている魔石についても、襲われた時はどうしようかと考え中なのに。


「今は、持っていてくれ」


「……はい」


ピアルたちは、薄々俺のしようとしている事に気付いている。

だからだろう、今もどことなく不安そうに俺を見た。

悪いなと思うが、奴らをおびき寄せるにはエサをちらつかせるのが一番だ。


「大丈夫か? 無理ならここで待っていてもいいぞ」


俺の言葉にピアルは首を横に振る。

顔色は先ほどより随分と落ち着いた。


「大丈夫です」


地下の廊下に続く階段前で一度、立ち止まる。


「見張りはどうしたんですか?」


「もしもの事を考えて、牢屋の中と此処の見張りはしなくていいと言っておいた」


魔法陣が発動したらと通常より離れて警備にあたらせていたが、まさか本当にこうなるとは。


「行こう」


ゆっくりと階段を下りていく。

地下にたどり着いた瞬間、牢屋の1つから淡い光が見えた。


「魔法陣は動いているようですね」


ピアルの言葉に頷く。

あの光は恐らく魔法陣を発動した時に生まれる光だろう。

一定間隔で光が牢屋から漏れる。


「あつっ」


後ろから聞こえた声に、慌てて振り返るとピアルがバッグから何かを取り出していた。

バッグから出した手には魔石。

その魔石は、淡い白の光に包まれている。


「あれ? 熱くない?」


「大丈夫か?」


「はい、熱いと感じたから出したけど、熱くない……どうなっているんだ?」


ピアルは魔石を持って首を傾げている。

熱くなったのに、熱くないか。

その現象を俺は知ってるな。


「俺が持っている光らないほうの黒い魔石も同じ反応をしたことがある。そのまま持っていても大丈夫だろう」


「分かりました」


牢屋に2人で近付く。また牢屋から光が溢れるとその一部分がふわりとこちらに飛んでくる。

背中にひやりとした汗が伝う。


「あっ」


少し後ろから聞こえた声に振り向くと、魔石が飛んできた光を吸収していた。

やはり同じ反応だ。


「うわっ」


魔石の様子を見ていると、ピアルの手の中から魔石が落ちる。


「どうした?」


「くるくると回りだして……」


これは違う反応だな。

落ちた魔石が、ころころとまるで意思があるように光があふれる牢屋に近付く。

そして、牢屋から溢れる光を吸収しだした。

こちらまで光が飛んでこない事に気付いたので、そっと牢屋の中を窺う。


「あれが、サリフィー司祭ですか?」


ピアルの言葉に少し戸惑いながら頷く。

どう見ても正気ではない表情で、牢屋の中をうろうろと歩きまわっている。


「なんだか、憑りつかれたような気持ち悪さがありますね」


ピアルの言う通り、うつろな目をして牢屋の中を歩き回るサリフィーは気持ち悪いというより不気味だ。

くるくる回って光を吸収する魔石。牢屋の中を空ろな表情で歩きまわるサリフィー。

サリフィーの様子を見ていると、何かが思い出される。

あれは、何処だった?

何度も、何度も見たはずだ。

思い出せないな。


「あっ、サリフィー司祭だったのか」


「どうした?」


「夜中に仕事が終わって帰ってきた時に、広場の中を歩き回るサリフィー司祭を見た事があります。あの時、なぜか異様な雰囲気だったので、すぐに広場から離れたんですが」


「広場……歩き回る?」


ピアルの言葉を繰り返すと、頭の中にどこかの場所がふっと思い出された。

あれは、何処だった?

とても馴染みのある場所、あっ……広場だ。

そうだ、でもどうして広場を思い出したんだ?

確か、……広場で何かがあった、とか?

それとも、何かを見てた?

牢屋の中に視線を向けると、うつろな表情でこちらをじっと見るサリフィー司祭。

……駄目だ、思い出せそうで思い出せない。


「悪い、役に立てないようだ」


諦めて首を横に振る。

ドサッという何かが倒れる音に牢屋の中を見ると、サリフィー司祭が倒れていた。


「どうしますか?」


傍によって状態を確かめたいが、魔法陣はいまだに発動しているのか光を発している。


「近付くのは危険だ」


「そうですよね」


コロコロコロコロ。

牢屋の前で止まっていた魔石がくるくるとサリフィー司祭に近付く。

本当に魔石に意思があるように見えるな。

何が起こるのか様子を見ていると、光が生まれた瞬間に魔石の中に吸収されていく。


「もう少し傍によっても大丈夫そうですね」


「そうだな」


牢屋の鍵を開けようと鍵を取りに行くと、上からイイリャの声が聞こえた。


「問題ありませんか?」


「大丈夫だ」


「グピナス司教の方は問題ありませんでした。少し話をしたんですが、気持ち悪かったです」


「降りてきても大丈夫だぞ」


「あっ、はい」


イイリャが地下に降りてくると、こわごわ周りを見渡す。

牢屋の1つが微かに光っているのを見ると、体をびくつかせた。


「そこまで怖がらなくても……」


「もう、嫌ですよ。自分が自分じゃなくなるなんて!」


まぁ、そうだろうな。

昔の記憶を思い出すが、まるで他人のような気がして気持ちが悪くなる。

俺なのに、俺ではない。

判断も仕事に対する意欲も、まるで違う。


「ふ~、俺も二度とごめんだ」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[気になる点] あー、司祭が広場を歩き回って洗脳してたのかな?
[一言] ついにインテリジェンス・ブラック・マジックストーンに進化したソルの魔石が凄すぎる。
[一言] >あれは、何処kでだった?
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ