番外 団長さんとギルマスさん2
「それは、俺が聞いてもいい話か?」
ウリーガが少し警戒しながら俺を見る。
聞いていいかと言われると……どうだろうな。
既に今回の事件で、魔法陣と教会の問題にどっぷり巻き込まれている。
「手遅れじゃないか?」
俺の言葉に「あ゛~」と言いながら頭を抱えるウリーガ。
こいつは俺の事をある程度予測したうえで、関わらないようにうまく回避していたからな。
何というか。
「ご愁傷様?」
「……ムカつくな」
一応と言うか、俺の方が年上なんだが。
まぁ、立場は対等か。
「王家と教会の因縁はかなり昔からだ。俺が知っているだけでも数百年前からだ。詳しく調べてもその原因はよく分からなかったが、王家は教会から力を削ごうとしている。教会は王家から全てを奪おうとしている。覇権争いなのかと思っていた時期もあるんだが、根はもっと深そうだ」
「さらっと巻き込みやがるし。はぁ、覇権争いじゃないならなんなんだ? それに魔法陣がどう関係してくる?」
おっ、覚悟を決めたか?
ウリーガを見ると、苦々しい顔をしていて笑ってしまった。
「その顔、ムカつくな」
仕方ないだろう。
話が出来る仲間が出来て嬉しいのだから。
「何代前かは知らないが、教会の奴らが王の弟を魔法陣で洗脳して王を殺そうとしたんだ。ただ、その情報はかなりあやふやなところが多くて、実際に起こった事件なのか俺では調べきれなかった。途中で上から止められたしな。ただ止めたという事は、ある程度は真実なんだろうと思っている」
あれは危なかったよな~。
余計な事を調べたら本気で消されかねないと震えたからな。
「教会が魔法陣を復活させたのか?」
「それについてはまったく分からない」
「そうなのか?」
「あぁ、俺もそう考えてたんだが、王城の地下に魔法陣を見つけたんだ。それもかなり古い物だった。魔法陣の全貌を見るのが難しいほど大きくて、そして今思い出してもかなり複雑な文字が使われていた。もう少し調べることが出来たら、その魔法陣について何か分かったかもしれないが、見つかりそうになって逃げたからな~」
「逃げた?」
「そう、ぎりぎりだった」
あと10秒、判断が遅かったら見つかって処分されていたよな。
「そのあと、何気なくその場所に行こうとしたんだが、警護が強化されていて危ない感じがしたから諦めたんだ」
もう1度見たかったよな。
古い印象は受けたが、綺麗だったし。
「……アッパス。お前、よく今まで生きてこられたな」
「あはははっ。運が良かったよ。昔は若かったから、調べたい欲求が我慢できなかったんだ」
俺が笑って言うと、ものすごい大きなため息を吐かれた。
「それで、これからどうするんだ?」
「魔法陣だけならまだしも、教会が関わってきた以上は王が指示を出すことになる」
「そうか。めんどくさいな」
その通り、王が指示を出すと色々めんどくさい。
今の王は、頭が切れる。
そんな時間ばかりがかかって成果が上がりにくい方法を取るとは思えないが、少し様子見だな。
「彼らの事はしっかり隠せそうか?」
「それは大丈夫だ。呪いの契約書は、破れば話した者も聞いた者もそして指示を出した者にも罰が下る。愚かな王でない限りは、わざわざ呪いを受ける事はしないだろう」
あの呪いの契約書は、かなり恐ろしい物だからな。
「ジナルたちは、なぜあの契約書を使ったんだろうな」
それは俺も疑問に思っている。
それなりの枚数を持っていた事も不思議だが、迷いなく呪いの契約書を使用した事も気になる。
この村に来たのは、息子が上位冒険者になったからその祝いだと聞いたが、それは本当なんだろうか?
何だか釈然としないんだよな。
「ジナルたちの事か?」
お茶を飲みながら訊くウリーガに、1回頷く。
「調べた時、何も出なかったんだよな?」
「怪しいところは無かった」
俺の質問にウリーガは前と同じ答えを返す。
「そうだよな」
「アッパス。俺の答えを簡単に信じたのはどうしてだ? 俺が調べたとしても、いつもはもう少し疑うだろう?」
「…………あ~」
「なんだ? はっきり言え」
「アイビーが、『ジナルさんたちは大丈夫』と言うからかな。はははっ、なんとなく信じてしまった」
あんなまっすぐに目を見て言われるとな~。
俺の返答に、なるほどと言うような表情をするウリーガ。
「アイビーは何者なんだろうな。彼女の言葉にはどこか力を感じる」
「……ただの可愛い女の子じゃないだろうな。見た目以上の冷静さに加え判断力もある。年相応に見える事もあるが、何か違和感を覚える。ただ、敵だとは思わないんだよな」
不思議な感覚だ。
違和感は強い。
いつもの俺だったら、まず疑っていただろう。
たとえ、命を救われた存在だとしてもだ。
なのに、その気持ちが全く浮かんでこない。
「1つ分かっている事は、王家にも教会の奴らにもアイビーという存在を気付かせない。それだけは絶対だ」
アイビーは、彼女が持っている力のすごさに気付いていない。
かなり貴重なスライムを従え、上位魔物で伝説のアダンダラさえ従えているのにだ。
状況判断が出来、そして警戒することが出来るにもかかわらず「すごい力を持っている自分」には、なぜか気付かない。
それが不思議でならないが、言い聞かせても本当の意味では理解しないだろう。
ドルイドの様子を見る限り、今までも色々注意を受けているようだし。
彼女も言葉では理解を示している、ただ、本当の意味で理解していないだけで。
こればっかりは本人が気付かない限り駄目だ。
「あんな簡単に自分の手の内を見せるのは異常だよな」
ウリーガの言葉に苦笑が浮かぶ。
確かに、ソラたちの事やシエルの事。
あっさり話してしまうから、俺たちの方が困ってしまった。
「まぁ、話しても無駄になるかもしれないが、今度会った時は注意してみるか」
「理解は示してくれそうだよな」
そうなんだよな。
こちらの話に理解は示してくれるだろうけど、多分それだけだろうな。
「あれ? なんの話をしてたっけ?」
「ん? ……あっそうだジナルが信じられるかって話だったか?」
確かそんな話だったな。
「ジナルとは一度、きちんと話をした方がいいんじゃないか?」
ウリーガの言う通りだろうな。
彼らの本当の目的を知っておく必要がある。
本当にジナルの息子のためなのかどうか。
「アッパス。ドルイドとアイビーにはどこまで話したらいい? 多分家にいると思うんだが」
「そうだな」
俺の正直な気持ちは、これ以上巻き込みたくない。
だが、それは間違いだ。
どの村や町にも教会がある。
あそこに無闇に近付かないように注意するにしても、説明が必要だろう。
ならば全てを話す……事は無理だな。
俺にも分からない事が多すぎる。
「ウリーガは、自分が分かった事だけを話してくれ。俺は王と話をして、情報を聞き出しておく」
「大丈夫か?」
「何とかする。ドルイドたちには、この村を出る前に分かった事を全て話そうと思う」
さて、どうやって王から情報を聞き出そうかな?
別の方面からも、突いてみるか。
今回の事で昔の知り合いとも全て連絡がついているし、ここは昔のようにちょっと……。
「危ない事はするなよ」
「……少しぐらいは大丈夫だ。その辺りの調整は出来るようになっている」
昔はやりすぎて危ない事もあったが、今は場数を踏んだおかげで相手の様子を見ながら引き際を見極められるようになった。
ここは、それを使ってもいい所だろう。
「アッパス、楽しそうだな。団長職に就いた頃のような表情になってるぞ」
「そうか?」
「あぁ、あくどい事を考えている時の表情だ」
別にあくどくはないだろう。
ちょっと、昔の事をほのめかして突くだけだ。
若い頃にやった事って、年を取ってから見返すと痛いよな。
ふふっ。
「こわっ」