433話 怒ってます
「アイビー。魔法陣がある部屋に、なぜステンドグラスがあると思ったんだ?」
団長さんがじっと私を見つめる。
それに戸惑いながらも、ギルマスさんから聞いた話をする。
「教会という言葉を聞いた時に、昔見たステンドグラスから入ってきた光を思い出したんです。それがギルマスさんが言っていた『色とりどりの光』のようだなと思って」
今の私では1度だけ、スキルを調べる時に見た事がある。
でも、前世の私は何度かステンドグラスを見た事があるみたいで色々なステンドグラスを思い出した。
「そうか。確かにウリーガは言っていたな、魔法陣のある部屋に『色とりどりの光』があると。俺も何度か見た事がある。確かにウリーガの言う通り『色とりどりの光』だな」
良かった。
場所がこれで特定出来そうかな。
「ステンドグラスは、どこにあるんですか?」
特定が出来そうなわりには、困惑している雰囲気がする。
ステンドグラスのある場所に問題でもあるのかな?
「アイビー。ステンドグラスは、教会にしかない物なんだ」
えっ、教会?
つまり、魔法陣による術を掛けている場所は教会という事?
術を掛けている人は、聖職者?
「どうするんだ? 教会には、証拠がないと手が出せないぞ」
お父さんの言葉に、団長さんが眉間に皺を寄せる。
教会は独立した機関で、ギルドでも自警団でも無闇に手が出せない場所だと、冒険者の人たちが話していたな。
「はぁ~、どうするか」
コンコン。
「連れてきたぞ~って。どうしたんだ、この雰囲気は?」
部屋に入ってきたのはギルマスさん。
部屋に入った瞬間、嫌そうな表情で部屋を見渡す。
「アイビー、問題は無いか?」
私ですか?
「はい。大丈夫です。あっ、昨日話してくれた色とりどりの光がある場所が分かるかもしれませんよ」
「えっ? 本当か?」
「はい。教会のステンドグラスではないかと、今話をしていたんです」
ギルマスさんには言っていいよね。
関係者だし。
「教会のステンドグラス? …………あっ、一番奥の懺悔室だ」
「「「「はっ?」」」」
団長さんたちとナルガスさんたちが、ギルマスさんを見る。
ギルマスさんは、何度か頷くと団長を見る。
「思い出した。魔法陣がある場所だ。あれは、懺悔室のステンドグラスだ」
また、思い出したの?
魔法陣の術は強いはずなのに、切っ掛けがあると思い出すって何かおかしくない?
何だかもやもやするな。
「アッパスは術の解除の準備をしてくれ。俺が教会に行って、魔法陣を確かめてくる」
「待て。まだ証拠がない」
団長さんが焦って椅子から立ち上がる。
「証拠って、俺が覚えているんだから問題ないだろう」
「それはそうだが」
「それに時間がない。そうだろ?」
ギルマスさんの言葉に団長さんが悔しそうな表情をする。
門番さんが狂ったことを言っているのかな?
「はぁ。分かった。気を付けろ」
団長さんの言葉にギルマスさんがにやりと笑う。
その笑みを見て、ぞくりと背筋が寒くなる。
「もちろん気を付けるさ。今まで好き勝手してくれたんだ、そのお礼をしないと駄目だからな。そう、お礼をきっちり払わないとな」
うわ~、怖い。すっごく怖い。
笑っているのに、暗いというかなんか背中にドロドロしたものが見えるような……気のせいなんだけど。
そっと視線を逸らすが、ひしひしと感じる不穏な何か。
ナルガスさんたちの方を見ると、全員の顔色が悪くなっていた。
さすがの上位冒険者でも、今のギルマスさんは怖いらしい。
「さて、ナルガスたちにも協力してもらおうか」
「ひっ」
ギルマスさんの言葉に、ピアルさんが小さく悲鳴を上げた。
それにギルマスさんの笑顔が深くなる。
「行きます! 行かせてください」
ナルガスさん頑張れ。
心の中で応援だけしておこう。
さっきのしんみりした雰囲気より、こっちの方がいいはず……きっと。
「行くぞ」
「「「「はい!」」」」
ギルマスさんの後をついていくナルガスさんたち。
罪を犯して連行される犯罪者に見えるのは、きっと気のせいだよね。
うん、気のせいだ。
「連行されてるみたいだな」
団長さんの小さな声が、なぜか鮮明に聞こえた。
「ギルマスを行かせて大丈夫か? 犯人を殺しそうな雰囲気だったが。あれは、かなりやばいだろう」
お父さんの言葉に団長が苦笑を浮かべる。
「大丈夫だろう」
やはり団長さんとギルマスさんの間には、ちゃんと信頼関係があるのかな。
「たぶん」
「「…………」」
本当に大丈夫なのかな?
「さてと、こちらも準備しないとな……」
団長さんが、椅子から立ち上がると小さくため息を吐く。
術から解放するための準備だよね。
それはつまり、部下の自警団員もしくは冒険者の人に術を発動してもらう事になる。
必要なんだろうけど、つらいな。
そっと団長さんを見ると、苦々しい表情をしていた。
視線をずらして、ソファの上でプルプル遊んでいるソラたちを見る。
「ポンッ、ポンッ」
ん?
皆を見ていると、不意にソルが不思議な黒い魔石を口から2個吐き出した。
「ソル? どうして魔石を生んだの?」
不思議に思いソルに近付く。
ソルは私を見ると、魔石を私の方へ押した。
どうぞって言われているようなので、魔石を手に取り見る。
「うわっ、綺麗」
黒い魔石は、淡い白の光に包まれてとても神秘的に見える。
魔石をよく見ると、銀色の模様が刻まれているのが分かった。
「すごいな」
隣に来たお父さんが私の手元を覗き込む。
「そうでしょ? すごく綺麗」
魔石を親指と人差し指で挟んで持つと、上に翳した。
前にソルが作った魔石も黒かったけど、今回のように光ってはいなかったし模様も無かった。
「何が違うんだろう?」
まぁ、今は目の前の魔石をマジックバッグに急いで隠そう。
誰かに見られたら大変だからね。
2階に上がって来る様子は無いが、絶対に来ないとも言い切れない。
マジックバッグを開けて、ソルから貰った魔石を入れ――。
ピョン。
「ん?」
入れようとしたが、ソルが魔石を持っている手にぶつかってきた。
そして、少し怒った様子でプルプル震える。
「ぺふっ! ぺふっ!」
何だろう。
もしかして魔石をマジックバッグに隠しては駄目だったとか?
「マジックバッグに隠しては駄目?」
「ぺふっ」
魔石を隠すのは駄目らしい。
なら、この光っている魔石をどうすればいいのだろう?
「何かに使えと言っているんじゃないか?」
「ぺふ~!」
お父さんの言葉に、嬉しそうに飛び跳ねるソル。
なるほど、必要な魔石だから生んでくれたのか。
でも、何に必要なんだろう。
すっと視線を上げると、こちらを驚いた表情で見る団長さん。
「術の解放に使うの?」
今、考えられるのはこれしかない。
「ぺふっ!」
「えっ?」
理解された事が嬉しいのか、勢いをつけて腕の中に飛び込んでくるソル。
団長さんは、戸惑った表情で私を見た。
「そっか。術の解放に役立つ魔石だったんだね」
ソルを抱きしめて、手の中の魔石を見る。
綺麗な光を放つ黒い魔石。
団長さんの傍によって、手の中にある魔石を差し出す。
「団長さん。どうぞ」
私の行動に、驚愕の表情を見せた団長さん。
「いや、さすがにこれは」
戸惑う団長さんに、「おそらく、この魔石を使えば被害が減るはずだ」と、お父さんが言う。
その言葉を聞いて、じっと魔石を見つめる団長さん。
しばらくして、2個の魔石に手を伸ばした。
「この村の事が落ち着いたら、この代金はしっかりと払う」
そんなつもりは無かったのだが、あまりに真剣な目をして言うのでつい頷いてしまった。
事件が終わったら、無償提供だと言おう。