429話 孫? 奥さん?
「はい。お茶どうぞ」
「あぁ、ありがとう。一瞬溺れるかと思った」
ギルマスさんが笑って膝の上にいるソラを突く。
「ぷっぷぷ~」
「痛みは?」
お父さんの言葉に首を横に振るギルマスさん。
「ソラに包み込まれた瞬間に消えた。すごいな、ソラ~」
ギュッと抱きしめられたソラはちょっと嬉しそうにしている。
何だか、よく分からないけどよかったのかな。
「ソラのお陰なんだろうな。3年前だ。マーシャの孫に会ったのは」
マーシャさんの孫?
何の話?
「俺と結婚したという女性が、マーシャの孫だ」
「本当に?」
「あぁ、テイマーとしてなかなか上手くいかないからと相談に乗った事も思い出したよ」
まさか、ギルマスさんの奥さんになった人がマーシャさんの孫だったとは。
という事は、孫は確実に関わっていると思っていいのかな?
「全て思い出したのか?」
「いや、断片的だな。マーシャの孫に相談があると言われて、その後何かがあったはずなんだが記憶が飛んで、どこかの部屋でマーシャの孫と向かい合っているんだ」
断片的でも、今回の問題の解決には役立つ。
今まで何も出てこなかったんだから。
「それとアイビーが言ったとおりだ。何度も魔法陣の中に入れられた記憶があった。魔法陣だと分かるんだが、模様はぼやけてしまって分からないんだがな」
何度も魔法陣に入れられたという事は、何回も入る必要があったという事だよね。
「どうして何度も入る必要があったのか分かりますか?」
私の質問にギルマスさんが首を横に振る。
「それは、分からなかった。ただ、あの窓をどこかで見た記憶があるんだが」
「窓?」
「あぁ、記憶の中にある魔法陣のある場所なんだが、窓が見えたんだ。おそらく魔法陣の中から見たんだと思う」
「そうか」
「魔法陣がある場所の特徴とか分かりますか?」
「特徴か~、色とりどりの光があった気がする、それと窓だな。悪い。他には何も。ただ、冒険者ギルドでも商業ギルドでもなかった」
そうか。
両ギルドは無関係かもしれないのか。
あると思い込んで調べたのが失敗なんだろうな。
探して無かったのだから、それを信じればよかったんだ。
それにしても、色とりどりの光?
窓から光が入っても、色は一色だよね。
これが分かれば場所が特定出来そうなんだけどな。
「あと、冒険者に何かを渡した記憶がある。マーシャの孫も一緒にいた。おそらく魔法陣のある場所に俺が指示を出して、彼らを行かせたんだと思う」
苦しそうな表情で話すギルマスさん。
「マーシャの孫が今どこにいるか分かるか?」
「テイマーだからな、仕事はしていると思うが。最近の記憶の中にマーシャの孫がいないんだ」
「そうか。既に逃げた可能性があるな」
あれ?
「冒険者ギルドも商業ギルドにも魔法陣は無い可能性が高いんですよね?」
「明日中に調べるが、おそらくないだろう。なぜだ?」
ギルマスさんの質問に、眉間に皺が寄る。
「お父さん、私たちはどこで術に掛かったの?」
冒険者ギルドだと思った。
だから考えた事も無かったけど……。
「おかしいな。ギルマスに初めて会ったのは、術を解く時だからな」
あと、可能性のある場所はどこだろう。
広場?
「広場は調べたよね?」
「あぁ、見張りがいた時の事を考えて、極秘にだったが魔法陣らしきものは無かった」
洞窟の魔法陣を思い出す。
一部分しか見えていなかったが、かなり巨大な魔法陣だった。
サーペントさんを襲った魔法陣も大きかった。
この2つの大きさの魔法陣なら、すぐに見つかるはず。
見つかっていないという事は、もっと小さい魔法陣なんだろうな。
門の所の詰め所?
あそこなら……いや、周りは壁だった。
一部の壁には、連絡事項などを書いた紙が貼ってあったが、壁がむき出しだった。
魔法陣を隠せる場所は無いはずだ。
でも、魔法陣が想像より小さかったら?
「魔法陣って、どれくらいまで小さく出来るんだろう?」
「ん? 何?」
「魔法陣の大きさです。お父さんと見つけた魔法陣は大きい物ばかりだったけど、小さい魔法陣もあるのかなって思って」
「俺は聞いたことが無いな。そもそも魔法陣は調べる事が禁止されているから、知っている情報が少ない」
ギルマスさんの言葉に苦笑が浮かぶ。
この問題の大きな壁はそれだな。
禁止されていたから、魔法陣についての情報が少なすぎる。
そのため、知っている事に無理やり当てはめるから、正しい答えに行きつかない。
「魔法陣については団長に訊くしかないな。どこまで知っているかは不明だが、おそらくかなり知っているだろう」
お父さんの言葉にギルマスさんが頷く。
「そろそろ寝ようか。明日も早いだろうから」
「そうだな」
お父さんが私の頭をポンと撫でると、ギルマスさんも膝の上のソラの頭をポンと撫でた。
ソラが気持ちよさそうに、目を細めてプルプルと体を揺らす。
「色々危ない状況だから気持ちが焦るんだが、ソラたちといると落ち着くな。冷静にもなれる」
ギルマスさんの言葉が嬉しかったのか、ソラの揺れが激しくなる。
「癒されるんだよな」
「そうなんだよ」
ギルマスさんとお父さんが、しみじみソラを見て呟く。
そうとう疲れが溜まっているのかな。
…………
「おはよう」
「おはようございます」
ギルマスさんの家から直接門まで行くと、既にナルガスさんたちが待ってくれていた。
「さて、行こうか」
ジャッギさんが先頭になって歩き出すので少し驚いた。
昨日はナルガスさんだったけど、今日は違うらしい。
ナルガスさんを探すと、私の後ろにいた。
「どうしたの?」
後ろを気にしたからか、ナルガスさんが不思議そうな表情をしている。
「今日はジャッギさんが先頭なんだなって思って」
「あぁ、その場その場で結構入れ替わるんだよ」
そうなんだ。
ラットルアさんたちは、いつも決まっていたような気がするな。
チームごとに違いがあるんだね。
「歩きながら聞いてくれ。情報を共有したいから」
お父さんが昨日分かった事実をナルガスさんたちに伝える。
そう言えば、ナルガスさんたちはギルマスさんの奥さんを見たけど、2年前の記憶は無くて、マーシャさんの孫は覚えていなかったよね?
奥さんを思い出して、孫を思い出さないなんてあるのかな?
何だか不思議な記憶の消し方だな。
「あの女性が、マーシャの孫?」
話を聞き終わると、ピアルさんが戸惑った声を出す。
「ピアル、気付かなかったのか?」
「何か関係があったのか?」
アーリーさんの質問に、お父さんがピアルさんを見る。
「あの、少しの間ですが付き合っていた事があって。でも、ギルマスの奥さん……顔を思い出しているけど、マトーリだとは思えないんだが……。本当にマトーリがギルマスの奥さんだったのか?」
マトーリ?
そう言えば、マーシャさんの孫と言っていて名前は聞いてなかったな。
……なんでだろう?
普通は、すぐに名前を訊くのに。
「マトーリ?」
孫の名前を口にすると、ナルガスさんが立ち止まる。
しばらくそのまま、何かを考えているとハッとした表情をした。
「あ~! そうだ、マトーリだ! ピアル、間違いない! なんで忘れていたんだ? 紹介されたのはマトーリだ」
いきなり思い出した?
そんな事があるの?
ナルガスさんだけでなく、ジャッギさんとアーリーさんも思い出したようだ。
「名前が切っ掛けか?」
お父さんの言葉にナルガスさんたちが「おそらく」と答える。
「俺は? まだマトーリと奥さんが繋がらない」
ピアルさんが困惑した表情をして皆を見る。
そうだ、どうして彼だけ記憶が思い出せない?
「深く関わっていたからじゃないか? ピアルが何かの拍子で名前を言えば、ナルガスたちの記憶が戻る。だから、ピアルにだけ違う術を掛けてあるんだろう」
なるほどね。
立ち止まっていた足がゆっくりシャーミの洞窟へ向かう。
ピアルさんは衝撃を受けたようで、少し視線が下がっていた。
そうだ。
「あの、1年半前の事なんですけど、ギルマスがおかしく感じたと言いましたよね?」
「あぁ、言ったな。団長に相談して、団長が毒を盛られた。もっと慎重に動くべきだったよ」
アーリーさんが悔しそうに言う。
ジャッギさんも頷いている。
「どうして気付いたんですか? 何かきっかけでもありましたか?」
「切っ掛けというか、王都の仕事から帰ってきて報告しに行ったらおかしかったんだ。そう言えば、マトーリがいたな、ギルマスの隣に」
あっ、村にいなかったのか。
だから術に掛かっていなかった。
なるほど。
「いたな」
アーリーさんが少し嫌そうな表情をすると、ジャッギさんが苦笑した。
「どんな風におかしかったんだ?」




