427話 違い
広場からギルマスさんの家に着き、食事をする事になったのだが机に並ぶ料理に苦笑が浮かんでしまった。
「だから考えてくださいと、言っておいたのに」
お父さんが呆れた表情でギルマスさんを見る。
その原因は机に所狭しと並べられた、3人前以上の料理の数々。
それを見ながらギルマスさんに許可をもらったので、シエルたちをバッグから出す。
「悪い。気付いたら買いすぎていた」
苦笑いしたギルマスさんを見ると、団長さん宅にいた時より落ちついている。
奥さんの事はまだ色々と考えているだろうけど、少し余裕が戻ったのかもしれない。
ソラたちは珍しそうに、部屋の中をぴょんぴょんと飛び回りだす。
「こらっ! 静かにしないと」
「アイビー、大丈夫。自由にさせてあげていいから」
ギルマスさんの言葉に頭を下げる。
「ソラたちはほどほどにな。俺たちは、食事にしよう」
団長さん宅でも思ったけど、お父さんの話し方が砕けたような丁寧なような微妙なモノになっている。
気付いているのかな?
「どうして同じ料理が5個もあるんです?」
「全部、違う屋台だぞ」
あっ、お父さんの顔も引きつった。
「食べよう、お父さん! お腹がぺこぺこ」
「そうだな。アイビー、何が食べたい?」
お父さんが小さくため息を吐くと、料理を順番に見せてくれる。
どれも美味しそう。
「これにする」
お肉と野菜を炒めた料理を取る。
パンに乗せて食べると美味しいらしく、パンも一緒に買ってあった。
「ギルマスさん、いただきます」
お父さんとギルマスさんも、それぞれ料理を選び食べ始める。
2人から少しずつ料理を分けてもらったけど、どちらも美味しかった。
食事が終わると、大量にあるお菓子から今食べる分を選んだ。
「すごく贅沢だね」
「そうだな」
「残りはマジックボックスに入れておくから、好きな時に食べてくれ」
ギルマスさんが残った料理とお菓子をマジックボックスに入れる。
時間停止機能は本当にありがたい。
「今日は色々あったから疲れただろう? 大丈夫か?」
ゆっくりお菓子を楽しんでいると、ギルマスさんが心配そうに訊いてくる。
「大丈夫です。でも、確かに色々ありすぎましたね」
「そうだな。アイビー、この家を見てどう思った?」
ギルマスさんの質問に部屋の中を見渡す。
借りる部屋に荷物を置かせてもらった時も思ったけど、全体的に物が少ない。
そして、何処を見ても女性の物が1つもない。
「男性の1人暮らしの家ですね。1人で住むには広いですが」
「そうか」
ギルマスさんがお菓子を口に運び、すぐにお茶を飲んだ。
甘いものが苦手なのかな?
なら、どうして手を出したんだろう?
「これ、甘すぎないか?」
ギルマスさんの言葉にお父さんがお菓子を口に入れ、首を横に振る。
私ももう1つ食べるが、決して甘すぎることは無い。
「さっぱりした甘さですよ?」
「えっ、本当に?」
ギルマスさんが首を傾げる。
それを不思議に思いながら、もう1つ口にお菓子を入れる。
さっぱりした甘さが口に広がって美味しい。
「アイビー、今日の事を整理しないか?」
お父さんの言葉に少し姿勢を正して頷く。
「まず分かった事は、シャーミの洞窟の魔法陣。テイマーの孫の名前と姿の記憶の欠如。あとギルマスの奥さんだな。これで間違いないよな?」
お父さんがギルマスさんと私を見る。
「間違いないよ。シャーミの洞窟の魔法陣は解決でいいよね?」
「あぁ、明日最終的に調べる事になるが大丈夫だろう」
「ぷっぷぷ~」
「てっりゅりゅ~」
家の中を探検していたソラたちは私たちがいる部屋に戻ってくると、ぴょんとそれぞれの膝に飛び乗る。
私の膝の上にはソラとソル。
お父さんはフレム、ギルマスさんがシエル。
「……すみません」
私の謝罪に、ギルマスさんは嬉しそうな表情をする。
「まったく問題ないよ。この可愛い子がアダンダラだとはね」
そう言えば、ギルマスさんはまだシエルの本当の姿を見ていないか。
いつか、本来の姿を紹介しよう。
「話を戻すけどいいか?」
お父さんの言葉にギルマスさんも私も頷く。
「孫の事なんだが、メリサさんたちに聞けばよかったんじゃないか? 彼女たちは術に掛かっていないだろう?」
お父さんの言葉にギルマスさんが「しまった」という表情をする。
「その通りだね。すっかり混乱していて、忘れてた」
私の言葉にお父さんも「俺も」と言って、苦笑いした。
本当に、物事を考える時は冷静にならないと駄目だな。
「そう言えば、メリサさんたちは元冒険者さんなんですよね?」
「あぁ、二人とも治癒スキルを持っているんだ。かなり活躍した人たちだよ。まぁ、そのうちの1人は裏方だったけどな」
きっとエッチェーさんだな、それは。
「何か気になるのか?」
「二人の手伝いをした時に、ある薬草の在庫の話をされていて『商業ギルドで買って来る』という話をしていたんです。商業ギルドには魔法陣があるはずなのに、二人は術に掛かっていなかったのが気になって」
「そう言えば、そうだな。エッチェーの扱う薬草は特殊なものが多いから、大量には購入できないはずだ。特に団長の体を維持させるための薬草は本当に貴重なモノだと聞いた。何度も商業ギルドに足を運んだはずだが……」
ギルマスさんの話から、商業ギルドには魔法陣がない可能性があるよね。
というか、両ギルドに魔法陣があると思い込んでしまったのは失敗だったかも。
でも、あれだけの冒険者たちや自警団員たちに術を掛けるには、ギルドを利用するのが効率的だと思ったんだけどな。
「魔法陣のある場所さえわかれば、敵も見えてくると思うんだが」
ギルマスさんが、机の上を指でトントンと叩く。
初めて見るそれに、じっと視線を送る。
「ん? 悪い。子供の頃からの癖なんだ」
見られている事に気付いたギルマスさんが、机から手を下ろす。
「気にしないで下さい」
癖なのに初めて見た。
団長さん宅では、していなかったよね?
「癖はなかなか抜けないからな」
お父さんの言葉にギルマスさんが何度も頷く。
「注意されても、治らなくて。奥さんに良く怒られたよ『煩い!』って」
ギルマスさんが懐かしむような表情をする。
そう言えば、ギルマスさんって術でおかしくなっていたんだよね。
ジナルさんたちが言うには、「まるで人が変わったようだ」と言っていたな。
おかしくなっている間、奥さんの事は覚えていたのかな?
……いや、知らない女性を奥さんと紹介していたのだから、忘れていた可能性の方が高いか。
「あれ?」
今、何か……。
「どうした?」
「いえ、今何かが引っかかったような……」
何を考えたっけ?
ギルマスさんがおかしくなっている間……違うこれじゃない。
ジナルさんたちが「まるで人が変わったようだ」と……。
あっ、どうしてギルマスさんだけバレたんだろう?
術に掛かっている他の人たちは、少し話したぐらいでは気付かないのに。
ギルマスという地位にいたから?
でも門番さんたちは、森で問題が起きた時には人数を増やしていた。
そう、違和感を覚える態度はとらなかった。
術に長くかかっていたから?
それはあるのかな?
ここ数日の門番さんたちの態度は、あきらかにおかしくなってきている。
でも、ギルマスさんだけ早すぎない?
他の人とは違う何かがある?
「アイビー?」
「団長さんもだ!」
「えっ?」
そうだ!
団長さんも他の人と違う。
術を掛けたらいいのに、どうして毒を盛った?
ギルマスさんと団長さん、この2人と他の人の違いは?
「ん?」
何かを感じて前を見るとお父さんとギルマスさんの心配そうな顔。
あっ、考えに没頭し過ぎたみたい。
話数が間違っておりました。
教えていただきありがとうございます。