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424話 急には駄目

「えっと、終わりか?」


ナルガスさんの戸惑った声が洞窟内に小さく響く。

あまりのあっけなさに、全員がソルを見つめて固まっている。


「そうだろうな。すごいな。あの悩んだ時間は何だったんだろうな」


お父さんの言葉に、ナルガスさんがため息を吐きながら頷いた。

洞窟に着くまでに、問題が起きた場合の対処法などを話し合っていたので、それの事だろう。


「さすがにこんなにあっけなく終わるとは……誰も考えないですよ」


ピアルさんが、近くにある大きなマジックアイテムの上に座ると、洞窟内を見渡す。

ほんの数分前と変わっていないように見える洞窟内。

ただ、変わったことがある。


「風が吹いてますね」


私の言葉に誰かが「そうだな」と相槌を打ってくれた。

魔法陣の線が黒から白に変わりしばらくすると、洞窟内に風が流れた。

最初は驚いたが、先ほどまでがおかしかったのだと気付いた。


「なんだか力が抜けたな」


ナルガスさんがその場にしゃがみ込むと、ジャッギさんもそれに続く。

アーリーさんは壁に背を預け、お父さんも私の隣で地面に座り込んだ。


「何が起こってもやりきる覚悟で来たからな」


ピアルさんの言葉に、ナルガスさんたちが苦笑する。


「キュー! キュー!」


洞窟内に大きな鳴き声が響き渡った。

ナルガスさんたちが立ち上がり、武器を手にする。

お父さんは、剣を鞘から出すと私を背に庇うようにして立つ。


「シャーミが目覚めたようだ」


ジャッギさんが上を見ながら弓を構えた。

慌てて上を見ると、シャーミの無数の目が私たちを見下ろしているのが分かった。

数はよく分からないが、かなりの数のシャーミがこちらを向いて威嚇している。


「キュー! キュー!」


「キュー! キュー!」


「キュー! キュー!」


「キュー! キュー!」


ゆっくりゆっくり動き出すシャーミ。

緊張感が増していく。

私は邪魔にならないように、足元に来ていたソルをそっと抱き上げると、洞窟の出入り口へと視線を向ける。


「に゛ゃ~!」


シエルの威圧感のある鳴き声が洞窟内に響き渡る。

その声に飛び上がったシャーミたちが、鳴き声が聞こえた逆方向に向かって逃げていった。

その逃げる姿を見て、恐怖で硬くなった体からゆっくりと力が抜けていく。

さすがに怖かった。

ついでにシエルの鳴き声にも慄いてしまった。


「シエルが来てくれたみたいだな」


お父さんがシエルに向かって手を挙げると、シエルは私たちの傍まですぐ来てくれた。

シャーミを刺激しないために、洞窟の外で待機してもらっていたが、シャーミの鳴き声が聞こえて来てくれたのだろう。


「シエル、ありがとう。助かった~」


「にゃうん」


洞窟の奥をみると、シャーミたちが固まってこちらの様子を窺っている。

何だかちょっと可哀そうになってくる。


「どうしますか?」


ナルガスさんに訊くと、彼はシャーミたちを見る。


「シエルがいるから、襲ってくることはなさそうだな。少し洞窟内を調べたいのだけど、どうするべきか」


「とりあえず、いったん全員外に出よう。シャーミたちを刺激しないほうがいいだろう」


お父さんの提案にナルガスさんが賛成してくれたので、シャーミたちを警戒しながら外に向かう。

シエルが、後ろに向かって何度か威嚇してくれたおかげで、襲われる事なく洞窟から無事に脱出できた。


「ここまで離れたら大丈夫だろう。シャーミたちもシエルを警戒しているはずだ」


洞窟の出入り口が見えるギリギリまで離れ、お父さんが立ち止まる。

ナルガスさんたちも洞窟を気にしながら、各々(おのおの)座って休憩を取りだした。


「ほっとした後のあの緊張感は疲れるな」


アーリーさんの言葉にピアルさんが苦笑いする。


「あの場所で緊張を緩めたのが、そもそも間違いなんだけどな」


ピアルさんの言葉に、アーリーさんだけでなくナルガスさんも小さく笑みをこぼした。


「どうする? 洞窟に戻って調べるのか?」


「シャーミがあれほど興奮しているので、少し時間をおいてから調べた方がいいと考えてます。あの……いえ、なんでもないです」


お父さんの質問に、ナルガスさんが少し考えながら返答する。

シャーミの興奮状態を思い出すと、確かに時間を置いた方が安全だろう。


「何か気になる事でもあるのか?」


「いえ、大丈夫です。落ち着いたら村に戻りませんか?」


ナルガスさんがもう一度、洞窟を見るのでつられて私も洞窟へ視線を向ける。

シャーミが洞窟から出てくる様子は無く、少し離れた場所から見る限り危ない雰囲気も感じない。


「そうだな、戻るか」


お父さんがそう言うと、立ち上がって私に手を差し出す。

その手を借りて立ち上がると、シエルが隣でぐっと背を反らして体をほぐしているのが見えた。

私が見ているのに気付いたシエルが、頭をすっと差し出してくる。

その頭をゆっくり撫でる。

気持ちよさそうに目を細めて、グルグルと鳴いているシエル。

この顔を見ると洞窟に飛び込んできた、あの目が血走った表情が嘘だと感じてしまう。

一瞬、シエルを見て体が硬直したのは内緒にしておこう。


「シエル、ごめんね。ありがとう」


「にゃ?」


シエルの不思議そうな表情に、つい笑みがこぼれる。

やっぱりこっちの方が好きだな。


「ありがとう。帰ろうか」


「にゃうん」


…………


団長さん宅に着くと、団長さんがなぜかベッドの上でエッチェーさんに怒られていた。

無理をしたため、少し熱が上がってしまったようだ。

ベッドの近くの椅子に座っていたギルマスさんは、呆れた表情でそんな2人を見つめていた。

時々、団長さんが助けを求めるようにギルマスさんを見るが、ギルマスさんは肩を竦めるだけで助ける気は無いらしい。

2人の様子を見る限り、険悪な印象は受けない。

団長さんとギルマスさんの仲が悪いという噂があったけど、あれは嘘だったのかな?

いったい、誰が流した噂なんだろう。


「はぁ、怖かった。危うく薬を盛られるところだった」


団長さんが、安堵の声を出して、ベッドに寝そべる。


「悪いな。みっともない所を見せて」


「本当に」


団長さんの言葉にギルマスさんが頷く。


「それよりお疲れ様。大変だっただろう?」


団長さんの言葉に、ナルガスさんたちが微妙な表情をする。

それを見た団長さんとギルマスさんが、顔を見合わせた。


「あ~、失敗しても気にする必要はない。何か別の方法を考えるよ」


ん?

失敗?


ギルマスさんの言葉に首を傾げると、団長さんとギルマスさんも不思議そうな表情をする。


「魔法陣は無事に無効化できたので問題はない。覚悟したより簡単だったんだ。なんせ、無効化までに5分くらいしかかかっていないからな」


「「はっ?」」


お父さんの言葉に、団長さんとギルマスさんが同時に眉間に皺を寄せる。


「どういう事だ? 5分? そう言えば、帰ってくるのが早かったな」


ギルマスさんが戸惑ったように、時計を確認する。


「本当に、そんな短時間で無効化できたのか?」


団長さんの質問に、ナルガスさんが「はい」というとギルマスさんも一緒に驚いていた。


「そうか。……『蒼』のメンバー全員に命令だ。今日、経験したことは決して口にするな。仲間内でもだ」


「「「「えっ」」」」


団長さんの急な命令に、驚くナルガスさんたち。

隣にいた私も驚いて、団長さんを凝視してしまった。


「どれほどの規模の魔法陣なのか、正直なところは分かっていないが、かなりすごい事が行われた事は理解できた。ソルの事もだが、アイビーの事も隠す必要性を強く感じる。だから仲間内でも話すことは禁止する。気を付けていても、話すことでバレる可能性があるからな。命令だ、分かったな!」


団長さんの言葉にナルガスさんたちは、はっとした表情を見せるとすぐに団長さんの命令を受け入れた。


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― 新着の感想 ―
シエルの威嚇はやっぱりヤバいヤツ…
[気になる点] 言うべきか迷っていた。 もしも、エッチィーさんとか誤字った場合、みんながゴフッ!ってなる。(誤字ってません)
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