番外 ギルマスと団長
団長であるアッパスにシャーミの洞窟の話を詳しく聞く。
そして魔法陣を無効化するために、アイビーがテイムしているスライムのソルが洞窟へ向かったという事も。
「アッパス、まさか信じたのか?」
「ドルイドもアイビーも、特別な事ではなく普通に受け止めたんだよな」
どういう意味だ?
「ん?」
首を傾げる俺に、アッパスが呆れた表情をする。
「ウリーガ、お前。術に掛かって少し鈍くなったんじゃないのか?」
「煩い。ありえない事を聞いて、混乱しているだけだ」
スライムが魔法陣を無効化だぞ?
そんな話をどう信じろと言うのだ?
「で、アッパス自身はそれを信じたのか?」
「正直、自分の目で見ない限りは信じられないだろうな。だが、ドルイドたちの様子を見ていると、疑うのが馬鹿らしくなるぐらい、普通なんだ」
アッパスの痩せこけた顔を見る。
戸惑っている様子に少し驚く。
何事にも動じないこいつが驚いている?
「お前こそ、術に掛かって頭がおかしくなったんじゃないか?」
「すごい言われようだな」
「だって、そうだろう。あの非道なアッパスが迷うなんて」
こいつの過去は知らない。
前の団長がどこかから拾ってきたという事になっているが、まぁ嘘だろう。
間違いなく王家もしくはそれに関わりがある者だと思っている。
だが、そんな事はどうでもいい。
重要なのは、この村にとって利益になるか不利益になるかだけだ。
一緒に仕事をしていると気付くが、こいつは非情な部分が多々ある。
そして何事にも迷いがない。
それに随分と助けられてきたから、文句はない。
利益になるなら、過去などどうでもいい。
アッパスとは、いい関係が築けていると思う。
何より、王家の事に関わってもいい事はないしな。
「お前の中の俺はどうなっているんだ。あぁ、言わなくていい。何となくいい事でない事は分かる」
残念、貶したかった。
「話を戻すぞ。正直、戸惑っている。ありえないと思う反面、ドルイドたちの様子から信じていいのかもしれないとも思っている。……確かに術に掛かってから変わったかもな」
「本気で言っているんだよな?」
「……その疑いの眼差しは止めろ。少し自分でも驚いているんだ」
「そうか」
アッパスが信じるほどの何かを感じたという事か?
しかし、スライムが魔法陣を無効化?
もし出来るとしたら黙っていない奴らが……あぁ、だから契約書か。
「そう言えば、ドルイドは呪いの紙の事を知っているのか?」
「訊いてはいないが、知っているだろう。特に気にしていないようだったが」
ドルイドも只者では無いよな。
何処か人を突き放している様子があるし、あの剣。
普通の冒険者では、絶対に手に入らないモノだと分かる。
特に魔石。
かなり強い力を秘めた物だろう。
「なぁ、ドルイドはどういういう奴なんだ?」
「ドルイドか。あれはかなり場数を踏んでいる冒険者だろうな。隙があるようでない。仲間を大切にする一面もある。どこかのギルマスや団長だと言われても納得するだろうな」
アッパスはドルイドを認めているのか。
まだどんな人物なのか、俺にはよく分からないんだよな。
最初に出会った時、俺は術から解放されたばかりで少しふわふわした状態だった。
あの時の事で思い出せるのは、その部屋にいた者たちが誰だったかぐらいで、話した内容はうろ覚えだ。
ドルイドとも話したはずなんだが、記憶が微妙なんだよな。
「それよりウリーガ。ドルイドが持っている剣を見たか? あれは相当な代物だぞ」
アッパスが楽しそうな表情で、ドルイドが持っていた剣の話をする。
やはりこいつも気付いたのか。
「ちらっと見えた魔石。見た瞬間に目が離せなくなったな」
「そうだな。あれは見事だ」
アッパスに賛同すると、「見せてくれるかな?」と真剣に悩みだす。
いや、今そんな話はしていなかったと思うが。
……そういえば、こいつはこういう奴だったな。
何だかすごく懐かしい。
2年か。
その間、こいつは倒れ、俺は自我を失っていた。
その間に村の冒険者や自警団員が術に掛かってしまった。
「長いな」
「ん? どうした?」
「いや、2年は長いと思ってな」
俺の言葉に笑みを消し、じっと俺を見るアッパス。
「そうだな。ドルイドやアイビーが誰であれ、どういう人物であれ、俺たちの、そしてこの村の救世主だ。もし彼らが何か罪を犯していたとしても、変わることがない事実だ」
アッパスの言葉に1つ頷く。
それは絶対に変わらない。
「何かあれば、協力しようと思っている。たとえ、王家から誰が来たとしても。今までの仲間が情報を漏らそうとするなら、なんとしても止める」
アッパスを見つめる。
俺の視線をじっと受け止めて、ふっと笑みを見せる。
「分かっている。気付かれているとは思っていたが、どこまで?」
「さぁな、何の事だか俺にはさっぱり分からない。俺はただ守ると言っただけだ」
俺たちと、この村を助けてくれた者たちを。
「嘘つけ。今、王家の」
「知らん! 何か言ったか?」
聞こえません。
だから理解できません。
何も聞いてないぞ~。
アッパスから王家なんて言葉は一切、聞かない。
「ふっ、まぁ結構長い付き合いだからな」
「それより、これから俺たちはどう動く? 時間もないだろう?」
「あぁ、門番の様子がかなりやばいとナルガスから報告が上がっている。今日、術を解いた奴らは明日には動けそうか?」
「大丈夫だ。確認してきたが、動けるだろう」
ソルとソラ。
魔法陣の後遺症を残さず、日常へ戻すことが出来るスライム。
……そうか、魔法陣を無効化することに疑問を感じたが、術から解放しているのだから出来るかもしれないな。
というか、出来るのだろう。
「そうだ、ソルから魔石を貰った。正確にはアイビーがくれたんだが」
魔石?
アッパスを見ると、手に真っ黒な魔石を持っている。
「なんだそれ。魔石?」
あれ?
今、おかしな言葉を聞かなかったか?
……ソルから貰った魔石?
「ソルから貰ったとはどういう事だ?」
「そのままの意味だ。目の前でソルの口からこの魔石が飛び出してきた」
「…………」
「ちなみに、フレムは使いきった魔石を復活出来るそうだ。これはアイビーに聞いた」
「…………」
「大丈夫か?」
「なんとかな」
アッパスの言葉を頭でゆっくりと繰り返す。
「……そうか。まぁ、魔法陣の術から解放するスライムだからな。うん。そんな事も出来たりするんだろう」
何だろうな。
考えるだけ馬鹿らしくなってきた。
というか、分からない事を考えても無駄な気がしてくる。
「はぁ~、ここ3日ぐらいで、俺の知っている常識が音を立てて崩れていったよ」
「ふっ、まだこれからもあるかもしれないぞ」
ありえそうで嫌だ。
それにしても、話が進まない。
「ギルマス」
アッパスの呼び方が変わると、自然とすっと背筋が伸びる。
「自警団から5名、冒険者から5名。頼む」
アッパスの視線、言葉の中に覚悟が見える。
魔法陣の術を解放するためには、別の魔法陣の術を使う必要があると聞いた。
そして、魔法陣は使えば使うほど使用者を蝕む。
最後は狂うと。
目をギュッと閉じ、ゆっくりと開ける。
この地位に就いた時、全ての罪を背負うと決めた。
その罪がまた数個、増える事になるだけだ。
立ち止まる事も怯むことも、この地位に立つ者は許されない。
「分かった。すでに話はしてある。明日、答えを訊くことになっている」




