43話 凶暴な魔物?
座り込んだ私に顔を寄せるアダンダラ。
手を伸ばして首元を撫でる。
ふわふわの毛が気持ちいい。
ソラが治療したので大丈夫だとは思うが、手で体全体を撫でながら傷が無いか確かめる。
何処を触っても怒らないアダンダラ。
首の下あたりを撫でると、目を細めて気持ち良さそうだ。
……もしかして、アダンダラではないのかな?
本には、そうとう凶暴で手が付けられないレアな魔物だと、書かれていたような気がする。
確か、1匹に対して上位冒険者チームが5チーム以上は必要……だったかな?
グルルと喉を鳴らしている、アダンダラ……みたいな魔物。
他に書かれていた事ってなんだったかな?
あっ、視線があったら殺されるって書かれていたな。
……さっきからこの魔物とは、結構視線が合っているような気がする。
目の前のアダンダラみたいな魔物を見る。
ばっちり視線が合っている。
どう考えても、本で書いてあった内容と一致しない。
もしかしたら、似たような魔物が居るのかもしれない。
本をもう一度読んで、アダンダラの特徴を確かめておこう。
それにしても、ふわふわで気持ちがいいな。
色は黒で少し毛足が長め、なんというか風格がある。
……テイム出来たらうれしいけど、私の魔力の量では無理だな。
もっと魔力があったらよかったのに。
残念。
ソラを見ると満足そうにプルプルと揺れている。
あれ?
まただ。
食事中でもないのに泡が発生している。
何なんだろう、これって。
気になるけど誰かに聞けるわけもないし、様子を見るしかないよね。
ソラを気にしていると、数人がこちらに向かって来ている気配を感じた。
急いでいるのか、近づいて来る速度が早い。
「誰か来るみたいだから、行って!」
アダンダラ似の魔物のお尻を押して、森の奥を指で示す。
私の頭にすりすりと頭を擦りつけグルルと喉を鳴らしてから、森へ颯爽と走り去った。
「速い! ソラすごいね!」
ってソラも隠さないと。
慌ててソラをバッグに隠して、立ち上がろうとするが……まだ力が入らない。
少しここで休憩してから村へ戻ろう。
こちらに急いで来ていた人達は3人、どうやら見回りの人達だったようだ。
私の姿を見ると、周りを警戒しながら近づいて来る。
「大丈夫か?」
「はい。ちょっと疲れてしまって、休憩しているだけです」
森の中の何もない所で休憩……無理があるだろうな。
ぅわ~ドキドキする。
何かを言われるかと様子を見るが、周辺の森を調べている。
いつもとなんだか雰囲気が違う気がする。
何かあったのだろうか?
「問題ないな」
「何かありましたか?」
「この辺りに見た事のない魔物が現れたという情報があったので、確かめに来たんだ」
「何か見ていないか?」
見た事の無い魔物?
さっきのアダンダラ似の魔物かな?
「いいえ」
「そうか、情報では怒り狂っていたそうだが」
怒り狂う?
どうやら違う魔物が居たみたいだ。
そう言えばソラが治療する前は瀕死だったな。
あの怪我を負わせた魔物が、この辺りに?
慌てて周りを見回してみる。
「ハハハ、大丈夫だ。情報ではこの辺りだったが、どうやら移動したらしい」
「あぁ、もういないようだ」
「おい、血痕だ」
あっ、それあの魔物の血痕だ。
どうしよう。
「ここに来た時に怪我した動物か、魔物を見なかったか?」
「いいえ」
ぅ~ごめんなさい。
心臓に悪い。
「獲物を安全圏に持って行ったのか?」
「その可能性が高いな」
「しかし、結構な量の血痕だ。デカい動物か魔物だろう。それを持ち去ったのか?」
「間違いなく上位の魔物だろうな」
「獲物を追って、たまたまここに来ただけならいいが」
アダンダラ似のあの魔物だけだったけど。
狩られそうになって逃げて来ていたのかな?
それとも返り討ちにしたのだろうか?
少し体に力を入れてみる……どうやら立ち上がる事が出来そうだ。
「ありがとうございます。村に戻ります」
立ち上がって1つ頭を下げる。
此処で話を聞いていると、心がチクチクする。
見回りの人達は、もう少しこの周辺を調査するそうだ。
あの魔物はもう遠くに行っているはずだから大丈夫だろう。
村に向かって歩き出す。
それにしても、どうしてソラはあの魔物を助けたのだろう?
木の魔物の時は危険を知らせてくれた。
あのアダンダラ似の魔物は、襲わないと知っていたから助けたのだろうか?
……まさか、ただ傷が好きなんて言わないよね?
ソラの入っているバッグを見つめる。
よく分からないけど、ソラのしたいようにさせようかな。
意味があるのかもしれないし。
無いかもしれないけど……。