422話 食べるらしい!
「えっと、どういう事だ? 解決方法って?」
「ソルが魔法陣の解決方法を知っているようです」
団長さんの困惑した声に、はっきりと告げる。
ソルがそう言う以上、出来るのだから。
それより、解決方法はやはり無効化なのかな?
「ソル。洞窟の魔法陣を無効化できる方法を知ってるの?」
「ぺふっ」
やはりそうか。
どうやるんだろう。
……もしかしていつも通り?
それは、今のソルにはちょっと止めてもらいたいな。
「ソルがやるのか?」
「ぺふっ!」
「いつもみたいに?」
「ぺふっ」
お父さんの質問に元気に答えるソル。
やっぱりソルが魔力を食べて無効化するのか。
でも……ソルを見る。
「……それ以上食べたら、お腹壊すから……」
「「「「「…………」」」」」
「……いや、アイビー。そうじゃないだろう」
「えっ?」
お父さんの言葉に、視線をソルからお父さんに向ける。
あれ?
団長さんたちが、なんだか不思議なモノを見るような目で私を見ている気がするんだけど。
気のせいかな?
「まぁ、アイビーだからな」
お父さんの納得の仕方はどうなんだろう?
「ソルが出来るそうだ。団長」
「あぁ、話を聞いていたから。ただ、理解が追いつかない。スライムだよな?」
「間違いなくスライムだな。だが、ソルがそう言う以上、間違いなく出来るだろう」
お父さんの言葉に頷く。
ソルが出来るというなら、出来る。
となると、私はソルを洞窟へ連れて行けばいいって事だよね。
うん。
それなら私でも出来る。
でも……真ん丸。
絶対に食べ過ぎになる。
運動をさせるべきかな?
「いや、ソルが出来るといったのは分かったが、それは本当なのか? 魔法陣だぞ?」
団長さんが困惑した表情をして、お父さんを見た後私を見る。
「大丈夫ですよ。ソルが出来るといったので、きっと無効化できます」
「……そうか。うん。2人に断言されるとな」
団長が苦笑して、ジナルさんを見る。
ジナルさんが肩を竦めた。
「ソルを疑う事はしないのか?」
「しません」
ジナルさんの質問に断言する。
そんな事はしない。
今までの事を考えると、無駄だもん。
「そうか。あ~、まぁ、ソルを洞窟に連れて行ってみるしかないな」
「……それしかないな。さすがに自分の目で見ない事には……悪いな」
団長さんの言葉に笑みが浮かぶ。
それは仕方のない事だと、これまでの経験で知っているから特に気に障ることは無い。
だって私の仲間は、普通とは違うから。
それにしても気になるのはソルの体型。
絶対に食べ過ぎだと思う。
これに追加で食べたら、絶対体調崩すよね。
「よしっ! ソル、運動しよう。そのままだと何だか危ない気がする」
「ぺ~」
嫌がられた。
でも、食べ過ぎたから体型に出ちゃったんだよね?
それなのに、今以上に食べるなんて……絶対に危ない!
「食べ過ぎになって、動けなくなるよ」
「ぺ~」
「む~」
「アイビー、ソルと一緒に唸ってどうするんだ?」
そうだけど!
「ぺっ! ぺっ!」
あれ?
ソルの様子がおかしい。
何だかちょっと苦しそう?
「ソル? 大丈夫? お腹痛い?」
やはり食べ過ぎたのかな?
薬草……食べてくれないよね。
「ぽんっ! ぽんっ! ぽんっ」
「おぉっ! ソルもか。驚いた」
「本当だ」
「「「「「…………」」」」」
苦しそうに見えたソルから魔石が飛び出した。
さすがにフレムに続いての事なので、免疫が出来たのかちょっと驚いたけど最初の頃より驚かなくなった。
まぁ、真っ黒な魔石だったのは驚いたけど。
「ぺふっ」
「もしかして体型の事を言われたからか?」
確かに、魔石を3個作りだしたソルの体型は少し元に戻っている。
とは言え、まだ丸いけど。
「ん? まだ作り出すのか? 体に負担が掛からないようにな?」
「ぺふっ。ぺ~、ぽんっ! ぽんっ! ぽんっ」
新たに3つの魔石を作ったソル。
また少しだが、体型が元に戻った。
まぁ、これぐらいなら安心かな?
「ドルイド、ちょっといいか? それは魔石で間違いないのか?」
ジナルさんがお父さんの手の中の物を指す。
「あぁ、そうだ」
そう言って、差し出すお父さん。
恐る恐るそれを手にするジナルさん。
団長さんたちもジナルさんに近付き、魔石を見つめる。
「確かに魔石だな。魔石を作り出すスライム?」
団長さんがソルを見る。
「確認だが、知ってたのか?」
「ソルが魔石を作りだしたのは初めてだ。だが、フレムが普通に作るからな」
団長さんの質問にお父さんが答えると、いつの間にか一人掛けのソファーで熟睡していたフレムを見る。
「すごっ。俺、今すごい所にいる」
ナルガスさんがボソッと声に出すと、ピアルさんたちが何度も頷いている。
すごい所?
「まぁ、そうだろうな。最近は当たり前になりすぎたけど、団長たちの姿を見て思い出したな。最初は俺もそっち側だったから」
お父さんが、団長さんたちを見てしみじみ言う。
何だか懐かしがっているような。
そんな昔の事ではないのにな。
「はぁ~。魔法陣の事で悩んでいたはずなんだけどな」
団長さんの言葉に、周りから笑いが起きる。
何だか、先ほどとは違い空気が柔らかい。
さっきはギスギスしていたからね。
「魔法陣を無効化できる方法が見つかってよかったじゃないか」
フィーシェさんがソラの頭を撫でながら話す。
ソラは、フィーシェさんの手に頭をぶつけてぐりぐりしている。
きっと嬉しいんだろうな。
「そうだが、こう、ドルイドと関わってから緊張感が続かないよな」
ジナルさんの言葉に、苦笑を浮かべる皆。
「それは俺のせいではないだろう」
お父さんが不服そうに言うと、笑いが大きくなった。
「さて、時間もないし行くか」
団長さんが椅子から立ち上がると、ジナルさんが呆れた風に団長さんを見る。
「団長が行けるわけないだろう。その姿で村の中を歩くつもりか?」
「少しぐらいいいだろう」
団長さんは反論するが、きっと駄目だと思う。
ちょっと怖いなと思うほど痩せているのだから。
それにしては元気だけど。
「メリサさんとエッチェーさんの許可があれば、考えましょうか?」
ガリットさんの言葉に団長さんが、嫌そうな表情をする。
絶対に許可が下りないと思っているんだろうな。
まぁ、間違いなく下りないだろうけど。
「少し抜け出して」
「許可は取った方がいいと思うが」
ナルガスさんたちにも言われ、団長さんがいやいや椅子に座り直すとため息を吐いた。
「そんなにひどく見えるか?」
「あぁ、すごいぞ。特にこのあたり」
ジナルさんが顔を指して、頷く。
体は服に隠れているので、ある程度誤魔化すことが出来るが、顔は隠せないからね。
「寝ていたら死人だな」
フィーシェさんが言うと、周りが頷くのが見えた。
確かに、ベッドの上で眠っているのを見た時は一瞬死んでいると思ったもんね。
「血色は良いから死体には見えないのでは?」
アーリーさんの言葉に団長さんを見る。
確かに痩せこけて少し怖いが、血色は良い。
何だかそれがちょっと、気持ち悪……困った印象を強めている気がするけどね。
「それより、時間が惜しい。誰が森へ行く?」
「この周辺の森に詳しいので、俺たちが行きます」
お父さんの言葉に、ナルガスさんが手を挙げる。
確かに、何かあった場合森に詳しい人がいた方がいい。
「分かった。気を付けてくれ。先ほど以上にアイビーの安全を最優先に考える事」
「もちろんだ」
団長さんの言葉にナルガスさんが力強く頷く。
私が最優先されることに少し首を傾げる。
「さて、行こうか。アイビーは問題ないか?」
「はい。アーリーさんも疲れてないですか?」
「大丈夫。ありがとう」
シエルとソルが、準備をしだすと寄ってくる。
今回もシエルはついて来てくれるらしい。
「ありがとうシエル。ソル、お願いね」
「にゃうん」
「ぺふっ」
「団長さん、ジナルさん。ソラとフレムをお願いします」
私の言葉に、団長さんたちが私を見て「もちろん」と返事をしてくれた。
よし、もう一度森へ行こう。