表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
432/1145

416話 お父さんのチェック!

お父さんのいる部屋に戻ると、アーリーさんはいたがナルガスさんの姿はなかった。

机の上にあった、シャーミの姿もない。


「ナルガスさんは、どこに行ったのですか?」


ピアルさんが、机の上を綺麗に拭いてくれる。

さすがに先ほどまでシャーミが載っていたので、ありがたい。


「ナルガスはシャーミの解剖をしに行ったよ。それほど時間はかからないだろう」


「そうですか。えっと、お茶とお菓子です」


机にお茶と用意したお菓子を並べる。


「ありがとう」


お父さんがお茶を取るとアーリーさんもお茶を取った。


「何かわかるといいけど……」


ピアルさんの言葉に、アーリーさんが頷く。


「ただいま。あれ? お茶をしてた?」


ゆっくりお茶を飲みながらナルガスさんを待っていると、ジャッギさんが帰ってきた。


「おかえり~。団長はなんて?」


アーリーさんが手をプラプラと振ってジャッギさんを出迎える。


「急かすなよ。俺もお茶が欲しい」


まだそれほど暖かくないのに、ジャッギさんの額から汗が落ちる。


「走ったのか?」


「あぁ、急いで知らせた方がいいと思ったからな」


「そうか。ほらっお茶」


お茶を渡すピアルさん。

それを一気に飲み干す、ジャッギさん。


「団長に、シャーミが今回の森の騒動の原因だと話した。シャーミの事をよく知っているから、かなり困惑していたよ。それと団長も動物が魔力を使える事は初めて聞いたらしく、原因は不明。『ふぁっくす』で知り合いに訊いてくれている」


やはり動物が魔力を使うのはそうとう珍しい事なんだ。


「そう言えばアイビーさん、ソラたちが術を解くたびに元気になっているような気がすると、ジナルさんが不思議がってたよ」


それはお腹いっぱい食べられる嬉しさで、興奮しているからだろうな。


「元気でよかったです」


「人数が多かったから疲れないか心配だったけど、安心だな」


ピアルさんの言葉に頷く。

疲れよりも食べ過ぎの方が心配なんだけど……。

ソラの限界ってどこなんだろう。


「俺たちはこれからどうすればいいって?」


アーリーさんの言葉にジャッギさんが少し眉間に皺を寄せる。

何か大変な事でも言われてきたのかな?


「とりあえず待機だと」


「待機?」


ピアルさんが戸惑った表情を見せる。


「この一刻を争う時に待機なのか?」


「あぁ、そう聞いた」


アーリーさんが再度訊くと、ジャッギさんが煩わしそうな表情で答える。


「彼らも、何をすればいいのかわかっていないのだろう」


アーリーさんの言葉にお父さんが口を開く。

皆の視線がお父さんに向く。


「どんなに場数を踏んでいる冒険者でも、今回の問題は分からない事が多すぎる。だから彼らもどう動くべきなのか迷っているんだ。それに記憶の欠如も問題になっているだろうからな」


「……なんだか不思議だな。俺たちから見ると、いつも完璧な存在なので、団長もギルマスも」


ジャッギさんが困惑した表情を見せる。

他の2人もどことなく、ソワソワしている。


「彼らとて人だ。なんでもできるわけじゃない。お前たちと同じだ」


「そうですね。はい」


アーリーさんが何度か頷きお茶を飲んだ。

皆の表情に少し首を傾げながらお父さんを見ると、肩を竦められた。

お父さんはいつもと変わらない。

あっ、そうか。

私が落ち着いているのは、お父さんがいつも通りだからだ。

アーリーさんたちが困惑したり戸惑っているのは、団長さんやギルマスさんが混迷しているから。

上が迷うと下も迷う。

大丈夫なのかな、こんな状態でこの村は。


「大丈夫だから」


お父さんが、私の耳元で呟く。

それに驚くが、にこりと笑ってお父さんを見る。


「ふふっ、私は大丈夫。それにしても、上に立つ人は大変だね」


私の言葉に頷くお父さん。

なんとも言えない空気が流れる部屋に、ナルガスさんが戻ってきた。

部屋に入ってくると、アーリーさんたちの様子に気付いたのか、不思議そうな表情で仲間を見つめるナルガスさん。


「どうかしたのか?」


「いや、大丈夫だ。それよりシャーミについて、何か分かったか?」


何処か必死な雰囲気で訊くピアルさんに、ナルガスさんは首を傾げる。

きっと何か、動く切っ掛けが欲しいんだろうな。


「いや、何も分からなかった。体内にも魔力は無かったし魔石も無かった。まぁ、動物だから無くて当たり前なんだけどな」


ナルガスさんの返答に、ジャッギさんが項垂れた。


「なんなんだ?」


「団長たちがちょっと混迷してるせいで、彼らも困っているんだよ」


お父さんがナルガスさんにお茶を渡す。

それを受け取った彼も少し困惑した表情をした。


「団長が? 何かあったのか?」


ジャッギさんに訊くと、「待機」と言われたと話す。


「そうか、待機か」


ナルガスさんまで、なんとも言えない空気を醸し出した。

そう言えば、彼らはまだ上位冒険者になって日が浅い。

こうなるのも無理ないのかな?

お父さんを見ると、ナルガスさんたちをじっと順番に見つめている。

その視線がいつもと違うように見える。

何だろうと首を傾げると、お父さんと視線が合う。


「上位冒険者は、どんな時でも人を導く側にいないと駄目だ。誰かの指示を待っているようでは、覚悟が足りない。それに第三者の意見を無闇に聞くのもな」


小声で話すお父さんは、そっとナルガスさんたちを窺う。

あぁ、だからあんな不安を煽るような話をしたのか。

だって団長さんやギルマスさんが、本当に混迷しているかどうかなんてお父さんは知らない。

と言うか、ちょっとしか関わってないけど、そんな事で迷うような人たちに見えなかった。

団長に会ったジャッギさんは団長の様子を見逃したのかな?


「上位冒険者も大変だね」


「上に立つとはそういう事だよ」


お父さんの様子から、ナルガスさんたちはまだちょっと覚悟が足りないと思っているのかな?

それにしても待機か。

今、出来る事って何だろう。

魔法陣については団長さんに任せるから、私の出来ることは無い。

シャーミは、解剖しても何も分からなかった。

これ以上は調べる方法はないし。

……本当にないのかな?

そう言えば、私はシャーミの事を何も知らない。

もっと詳しく知れば、何か分かるかもしれないな。


「訊いてもいいですか?」


ナルガスさんたちに視線を向けると、戸惑いながらも頷いてくれた。

もしかしたら、これからの事を考えていたのかな?

それだったら申し訳ないな。

質問はなるべく簡単にしよう。


「シャーミについて教えてください。食べ物は何ですか? 春はこの村の周辺に来ると言ってましたが、春以外はどこにいるんですか?」


「シャーミについて? そうだな、小さい昆虫や花の蜜、木の実が主食だよ。シャーミにとって春は出産の時期で、この村周辺に生えている木の実や花をよく好んで食べに来るんだ。夏は、近くの洞窟で暑さをしのいでいるのを見た事があるな。秋は冬に備えて、まだ活発に動き回っているかな。春と違って、秋は少しピリピリしている。発情期もあるし、冬を越すための食糧確保もあるから。冬は奥が深い洞窟で、冬眠に近い状態で眠っているのが、確認されてるよ」


ピアルさんの説明に首を傾げる。

冬眠に近い状態ってどんな状態だろう?

聞いたことがないけど、今は特に気にすることは無いかな。

気になるのは、洞窟かな?


「シャーミのいる洞窟に、人が出入りすることはありますか?」


「それは無いよ。シャーミはこの村の人にも冒険者にも愛されている動物だから。そっとしておこうというのがこの村の総意なんだ」


誰も来ない洞窟?

それって、ゴミを捨てても誰にも気づかれないって事じゃない?

シャーミがおかしくなった原因はまだ不明。

でも、動物だと考えずに魔物だと考えると、ゴミの魔力が原因だと考えられる。

洞窟を確かめる事が重要だよね。


「洞窟はどのあたりですか?」


「洞窟は、村から30分ぐらい歩いたところにあるよ」


30分。

問題のシャーミがいる以上、近づくのは大変だよね。

お父さんを見ると苦笑しているのが見えた。

あっ、これは考えが読まれてるなと感じる。


「お父さん駄目?」


「ん~、シエル。森でもうひと暴れしてくれるか?」


お父さんの膝の上で寝ていたシエルがピョンと起き上がりプルプル揺れる。


「にゃうん!」


声も弾んでいるので、付き合ってくれるようだ。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
アイビーに、「駄目?」って言われたら「いいよ!」って返すしかないよ…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ