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414話 シャーミ?

ナルガスさんたちが門から出てしばらくすると、門番さんたちは各自の仕事に戻っていった。

まだ後ろ姿が見えるので、そのまま見送る。

しばらくすると、森の木々がざわつくのが分かった。

何かが動き回っている気がするが、やはり気配は感じない。

師匠さんからの『ふぁっくす』では、気配を感じさせない魔物については不明だと書かれてあった。

ただ、知り合いに訊いてくれるとあったので、期待している。


「かなりの数がいるようだな」


「分かるの?」


「気配ではないが、なんとなくな。前の時より感じやすくなっているかもしれないな」


前の時より?

それって数が多くなったから?

気配を感じない魔物か。

どんな姿なんだろう?

動きが素早くて、まだ目撃者がいないんだよね。

いや、冒険者や自警団が目撃しても、恐怖を感じないなら報告しないかもしれない。

そう言えば、森の噂を聞いた気がするな。

何だったかな?

えっと、確か春に姿を見せる動物を今年は見ない、だったかな。

まぁ、これだけ魔物が溢れていたら、その動物も姿は見せないよね。

どんな動物だったんだろう。


「動き出したな」


お父さんの言葉を聞いて、森に集中する。

シエルの気配が動き出し、魔力の揺れを感じた。

でも、シエルが追いかけているだろう魔物はさっぱり感じられない。


「木々の動きで何かが起きているのは分かるけど、やっぱり気配は読めないね」


木々の動きから結構激しく動き回っていることが分かる。

それなのに気配が全く掴めないなんて……。

以前、近付かないと気配や魔力の揺れを察知できない魔物に何度か襲撃された事がある。

でも、あの襲撃で私の気配を掴む力が格段に良くなり、最後の襲撃では近づく魔物の気配を微かにだけど掴むことが出来た。

それなのに、今は何も掴めない。

隠そうとしても、動きまわれば気配も魔力も揺れを起こすのに。

まるで森の気配が、魔物を隠しているみたい。


「お父さん、森の気配が魔物を隠すことはあるかな? 森の気配に似た気配を持っているとか」


「魔物が? 聞いたことは無いな。森の気配に近いと言えば、小型や中型の動物だろう」


動物の方か。

確か魔物のいる森で生き延びる為に進化して、森と同化するような気配を持てるようになったんだよね。


「にゃ~」


シエルの鳴き声に、ドキッと心臓が鳴る。


「にゃ~!」


もう一度シエルの声が森に響き渡る。

そこに焦りの響きは感じられない。

どちらかと言うと、


「楽しんでないか?」


「うん。そう聞こえた。鬱憤(うっぷん)でもたまってたのかな?」


「まぁ、ずっとスライムの状態で過ごしていたし、ソラたちは褒められたのにシエルは出番がなかったから」


出番?


「やる気になって、やりすぎないといいな」


……私、なんて言って送り出したっけ?

煽るような事は言ってないよね?

どうしよう、さっきとは違う心配になってきた。


「加減の出来る子だから大丈夫だろう…………多分」


「説得力無いよ、お父さん」


「言ってて、無くなったから」


それもそうだろうね。

森がすごい揺れてる。

何というか、嵐が来たみたいに。

そして、逃げていく何かが見えた。

あれがきっと、問題になっている魔物なんだろうけど。

逃げる姿を見ていると、不憫に思ってしまって……。


「にゃ~、にゃ~」


「ナルガスさんたち、大丈夫かな?」


シエルの勢いに、驚いてないかな?


「あっ、シエルに1匹魔物を仕留めてきてもらえばよかったな」


そうだ。

そうすれば、魔物の正体が掴めたのに。

でもまさか、ここまで一方的な状態になるとは思わなかったから。

時々シエルの姿が木の上に飛び上がるのが見えるが、尻尾が楽しそうに揺れている。


「どうしたんですか? 今の声は?」


数人の門番さんが、私の隣から森を見る。

今、シエルの姿は森が隠してくれている。


「さぁ、上位魔物がいるようですよ」


お父さんの言葉に、少し驚いた表情の門番さんたち。

でも、それも次の瞬間にはどんな魔物なのか見たいという話になっていく。


「問題ないみたいですね。では」


しばらく森をみて、上位魔物が姿を見せないと分かると、門番さんたちは戻っていく。

その姿に悲しさと悔しさが湧き起こる。

私がいる場所は、森を一望できる少し高い場所。

その建物の壁には、この森にいる魔物の種類や強さや対策など細かく書かれた紙がびっしりと貼られている。

筆跡は1人ではなく色々あったから、皆で作り上げた物なのだろう。

それが今では、ほとんど仕事をしていない。

確かに門番として最低限の仕事はしているが、ただ門の前に立っているだけの様子。


「悲しいね」


「そうだな」


森を見る。

少し静かになっている。

ナルガスさんたちが森へ行ってまだ1時間もたっていない。


「早いな」


「うん。やっぱりシエルって強いね」


話には聞いていたし、前に戦っている姿も見たけど、日々の生活の中のシエルを見ていると可愛い印象が強くて、強い印象が薄れちゃうんだよね。


「戻って来たぞ。怪我か?」


森から出てくるナルガスさんたちの姿を見て、息を飲む。

ナルガスさんとピアルさんの服が真っ赤になっている。


「ポーションが効いたみたいだな」


「うん。よかった」


真っ赤になってはいるが、2人の歩みに不安定な所はなくしっかりとこちらに向かって歩いてくる。

それにほっとするが、やはり赤く染まった服に不安が募る。


「お~い!」


アーリーさんが私たちを見つけたのか、手を振ってくる。

そして大きな丸を腕で作った。

作戦は成功したみたいでほっとする。

まぁ、あれだけ暴れ回るシエルを見ていたら、成功するだろうとは思ったけど。

門から村に入るナルガスさんたちを迎える為に、移動する。

門が開くと、ナルガスさんたちが姿を見せた。

かなり真っ赤に染まっている服に門番さんたちが驚いている。


「大丈夫だ」


ナルガスさんが少し硬い声を出して門番さんたちに答え、その場をすぐに移動しだした。

何かあったのだろうか?


「ちょっと急いで共有したい情報があるんだ。場所を移動しよう」


アーリーさんの言葉に門番さんたちにお礼を言って、ナルガスさんたちの後を追う。


「行き先は?」


「俺たちの家に行きます。ジャッギ、団長に伝えてくれ」


「解った。あとで」


ナルガスさんの指示でジャッギさんが、道を変えて駆けていく。

何だかちょっと嫌な空気が流れているな。


「どうぞ」


ナルガスさんの家に着くと、ナルガスさんとピアルさんが血を洗い流してくると離れた。

アーリーさんからバッグを受け取り、中を開けるとスライムに変化したシエルが飛び出してくる。

元気そうでよかった。


「お疲れ様。怪我はない?」


「にゃうん」


「いや、その心配は一切しなくていいぞ。すごかったから。本当にすごかったから」


アーリーさんがちょっと顔を引きつらせながら、すごいと連呼する。

何をしたんだろう。

聞かないほうがいい気がする。


「お役に立ててよかったです」


「あぁ、すごい役に立ってくれた。シエルのお陰で、森の中にいたモノの正体がわかったので」


「そうなのか? さすがシエルだな」


「にゃうん!」


シエルの嬉しそうな声に、お父さんがシエルを撫でる。


「分かったのですが……」


アーリーさんが言葉を詰まらせると、マジックバッグから1匹の小型より少し大きめの何かを出す。

机の上に乗ったそれは、魔物にしては何か違和感を覚える。


「魔力を感じない?」


「えぇ、魔物ではないので。この村の周辺に住み着くシャーミと言う動物です。ただちょっと姿が変わっているのですが……」


「えっ? 動物?」


まさか動物が?

それにシャーミって確か、噂されていた動物だよね。

春先に姿を見ないって……。

まさかの動物……。


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― 新着の感想 ―
シャーミは怪しかったけど、動物の凶暴化? シエルはやっぱわ強いわ
[一言] あー、やっぱりシャーミが凶暴化したのかぁ ……けど動物も凶暴化するのか……
[一言] シエルがやっと活躍出来て良かったですね。
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