412話 これからの事
朝ごはんを食べ終わり、ソラたちをバッグに入れて団長さん宅へ向かう。
ギルマスさんたちは既に起き、話は済んでいるとのこと。
団長さんは、朝から庭を歩きまわってメリサさんに怒られたらしい。
まぁ、見た目ががりがりだから心配なんだろうと、アーリーさんが苦笑した。
「元気で何よりです」
「あぁ、ただこの外見がな。痩せすぎだから、ちょっと怖いよな」
「まぁ、確かに細過ぎてちょっと」
体も顔の肉もこそげ落ちたような状態。
ベッドで寝ていた時は、一瞬死んでいると錯覚するほどだった。
よくあの状態で生き延びたと感心したほどにその姿はひどい。
「だから団長! いい加減にしてください!」
団長さん宅に入るとメリサさんの怒鳴り声。
本当に元気に歩き回っているようだ。
何だか、いつかエッチェーさんに薬でも盛られそうだな。
いや、まさかそれは無いか。
「おはようございます」
「あぁ、おはよう」
……まさか、団長さんが椅子に縄でくくり付けられているとは思わなかった。
いったい、何をしたんだろう。
部屋の中を見渡すと、全員が苦笑している。
「元気そうだな、無駄に」
お父さんの言葉に「あははは」と笑う団長さん。
昨日より性格が明るいと思うのは、気のせいかな?
とりあえず椅子を勧められたので座ると、昨日は話が出来なかったギルマスさんと副団長代理さんが来た。
「話は聞きました。本当にありがとうございます。ギルマスをしているウリーガです」
「俺も聞きました。ありがとうございました。副団長の代理をしているジジナです」
「元気そうで良かったよ。ドルイドだ、こっちは娘のアイビー」
「初めまして。顔を上げてください。体は大丈夫ですか?」
見た感じ、特に問題は無いように見える。
でも、昨日聞いた魔法陣の怖さを考えると、どこか不安を覚える。
「大丈夫です。記憶を少し失っているようですが、それは他の皆も同じようなので」
そう言えば、記憶の方もいじられていたな。
碌な事をしないな、本当に。
「話をしてもいいかな?」
団長さんの声に視線を向けるが、どうにも縛られているので決まらない。
しかも団長さんの後ろにメリサさんがいつの間にか立っているのだけど、表情が怖い。
「構わないが。団長はメリサさんの許可が降りるまで家から出ない事。しっかり体を元に戻す事を考えてくれ。後ろが怖い」
ジナルさんが、ちらりとメリサさんを見ると、すぐに視線をずらした。
「あははは、仕方ないな。で、今日の予定なんだが、アイビーに色々協力を願いたい。あっ、その前にギルマスたちは契約書だ」
団長さんの言葉にギルマスさんと副団長代理さんから契約書を受け取り、中身を確認してから名前を記入する。
契約が終わったのでバッグから、ソラたちを出す。
ギルマスさんの目がちょっとキラキラしている気がする。
もしかしたらレア好きさんかな?
「アイビー」
「はい、なんでしょうか?」
団長さんの表情が、すっと引きしまる。
「こちら側の人間をもう少し増やしたい。この人数では少し心許ないんだ。それでソルとソラだったかな? 魔法陣による術の解放と核を癒せるスライムに協力を仰ぎたい。大丈夫だろうか?」
団長さんからの問い掛けに、お父さんとアーリーさんの膝の上で遊んでいるソラとソルを見る。
「ソラ、ソル。協力してくれる?」
「ぷっぷぷ~」
「ぺふっ」
「大丈夫です」
ふと気づくと、アーリーさんの隣にギルマスさんが来ているのが見えた。
「ありがとう。それと森の魔物だが、門にぶつかった形跡が見つかった。だが、門番たちはいつもと変わらない態度だったよ。それでアダンダラのシエルでいいのかな? その子に協力してもらい、少し時間を稼ぎたい。森の奥とはいかないだろうが、村に来ない程度に暴れてもらいたいんだ。大丈夫かな?」
「にゃあん」
シエルを見ると、ちょっと興奮している。
そう言えば、ここ数日は森に出られていないから暴れたいのかも。
「大丈夫です。シエルはやる気みたいだから」
「そうか、ありがとう。あっ、元に戻してほしい冒険者は上位の者数名と自警団の数名だ。この者たちには薬で眠ってもらっている間に、全てを終わらせてソラたちの事は全て伏せる事にしたい。あまり、多くの者にアイビーの事を広めないほうがいいだろうからな。すでにこの人数だし」
団長さんの提案に1回頷く。
それは嬉しい。
「ありがたいが、どう誤魔化すんだ?」
お父さんが団長さんに少し厳しい表情を見せる。
「上位冒険者の中には鋭い者がいる。不審感を持たれると厄介だ」
「分かっている。今日の朝方だが、フォロンダ領主様から『ふぁっくす』が届いた。彼は魔法陣の研究に資金を提供している貴族の1人だったようだ」
本当に?
「しかも資金だけでなく意見を言える立場でもあるらしく、ある研究をするように指示を出していた。それが魔法陣による術に嵌った人を救う方法だ」
団長さんからフォロンダ領主から来た『ふぁっくす』が手渡される。
読んでいくと、私とお父さんの身を案じる言葉。それと魔法陣の研究に資金を提供している事。なぜ資金を提供する事になったのか。そして力を入れさせている研究について書かれてあった。
「救う方法が見つかっているという事か?」
『ふぁっくす』を読んだお父さんが、団長さんをじっと見つめる。
「完璧では無いが、7割ぐらいで成功するらしい。その方法については悪いが話すことは出来ない」
「分かっている。話されても困るだろうしな」
7割。
少ないと感じるけど、方法があるだけましなのかな?
「上位冒険者たちには、その方法を取った事にするんだな?」
「あぁ」
一瞬だけど団長さんの表情が歪んだ。
もしかして救う方法は危ないんだろうか?
でも、この村の冒険者たちや自警団員の全員を助けるのは無理だから、何か方法があるのは嬉しい。
「分かった。そういう事なら」
「それと、アイビーに確認したいんだが」
「はい?」
「アイビーの魔力で、あとどれくらいの人数を元に戻せるだろうか?」
「はっ?」
私の魔力で元に戻す?
言っている意味がさっぱり分からない。
どういうこと?
「ぷっぷぷ~」
ソラの鳴き声に、視線を向ける。
そう言えばテイマーは、テイムした魔物に魔力を提供するんだっけ?
もしかして私の魔力で、ソラとソルが術の解放や癒しをおこなっていると思ってる?
「ぷぷ?」
ソラを見る。
テイムの印がある。
これは、勘違いされても仕方ないか。
「すみません。えっと誤解があるようです。ソラには魔力を供給してないです。なので、私の魔力は今回の事に一切かかわっていません。なのでどれだけの人数を元に戻せるのかは不明です。ただ、術の解放や核の癒しで体力が消耗されるという事はないみたいです」
昨日、やたら元気だったし。
今日も朝から機嫌よかったからね。
「えっと、テイマー……レアだからか? いや、聞いた事が……関係ないか」
団長さんが口元を押さえて何か言っているが、よく聞こえない。
しばらくすると団長さんはため息を吐いた。
「分かった。そういう事ならそうなんだろう」
ん?
「冒険者と自警団員で15人なんだが、問題ないか?」
「ソラ、ソル。15人もいるけど大丈夫? 無理なら無理でいいからね」
さすがにちょっと多い気がする。
「ぷっぷぷ~」
「ぺふっ」
ソラとソルを見ると、目がきらっきらしている。
それを見てちょっと顔が引きつる。
「ありがとう、助かるよ」
団長さんが感謝を言うと、2匹は少し体を傾ける。
その態度を見て「やはり」と思ってしまう。
2匹は感謝される意味が分かっていない。
なぜなら、「助けるぞ」ではなく、「食べるぞ」と意気込んでいたから。
まぁ、誤解させたままの方が良いかな。
お父さんを見ると、口元を押さえ笑いをこらえていた。
まぁ、一緒に生活してるからソラたちが何を思っているのか、だいたい分かるよね。