411話 ふぁっくす?
ベッドに並べられた男性が2人。
ギルマスさんと副団長代理さん。
既に術も解けて、核の癒しも終わっている。
「少し量が多かったみたいね」
「そうね。もっと鍛えているかと思って」
つんつん突きながら話すメリサさんとエッチェーさん。
エッチェーさんの手には紙があり、何か書き込んでいる。
あの2人は、実験体だったんだろうか?
「ごめんなさい、団長。ちょっと多かったみたいだわ。明日にならないと起きないと思う」
エッチェーさんのちょっと悔しそうな声に、団長が苦笑する。
「そうか。今日はここまでにしておこう。明日も動き回る事になるしな」
団長さんの言葉で、ジナルさんたちとナルガスさんたちが帰る準備を始める。
窓から外を見ると、既に真っ暗。
「アイビー、広場に戻ろう」
お父さんの言葉に頷いて立ち上がる。
ソラたちのバッグを肩から下げると、ソラたちは腕の中に飛び込んでくる。
それを順番に捕まえてバッグに入れる。
「手慣れてるな」
「毎回こんな感じなので」
ジナルさんが腕の中に飛び込んできたシエルの頭を撫でる。
そしてじっと見る。
「アダンダラね~。分からん」
それはそうだろう。
何処からどう見てもスライムになっているのだから。
模様はアダンダラのままだけど。
準備を終わらせて、団長さんたちに挨拶をする。
「お休みなさい。また明日」
「今日はありがとう。疲れただろうから明日はゆっくり来てくれていいから。ギルマスたちには俺たちで説明しておくし。あっ、それと起きたらギルマスたちにも契約書を書かせておくから、よろしくな」
団長さんの言葉に苦笑が浮かぶ。
本当にこの村では契約書がよく集まるな。
「はい。では」
お父さんと団長さん宅を出ると広場に向かう。
歩いているとため息が出た。
やはり疲れているかもしれない。
「たった1日で色々ありすぎたな」
「うん。でも、少しだけど、いい方向へ行ってるね」
おそらくまだ微々たるものだけど。
それでも、魔法陣の事も少しだけ分かったし。
「色々訊きたかったのに、訊けなかったな」
お父さんの手が頭にポンとのる。
「俺もだ。団長の話を聞いていると色々考えてしまって、訊こうと思った事の半分も訊けなかった」
お父さんにしては珍しいな。
まぁ、魔法陣については考える事がありすぎたもんね。
明日、時間があったらまた訊いてみよう。
広場に戻りテントの中に入る。
「ただいま~」
ソラたちをバッグから出して、ポーションを並べるがソラとソルが食べない。
フレムはそれを横目にいつも通り勢いよく食事を始めてくれた。
「どうしたの? ソラ、ソル、いらないの?」
「ぷっぷぷ~」
「ぺふっ」
いらないってどうして?
もしかして術の解放や核を癒す事で、疲れて食べられないのかな?
「疲れて食べられない?」
「「…………」」
ソラとソルは無反応。
つまり疲れて食べられないわけでない。
「お腹が空いてないとか?」
「ぷっぷぷ~」
「ぺふっ」
お腹が空いてない?
お昼に団長さん宅にあったポーションを貰ったけど、それ以外に何も食べていないよね。
もしかして、
「術の解放や核の癒しはソラとソルにとってご飯になったりするの?」
「ぷっぷぷ~」
「ぺふっ」
なるんだ。
そうか。
並べたポーションをバッグへ仕舞う。
「なら、もう寝ようか」
「ぷっぷぷ~」
「ぺふっ」
「にゃうん」
「てっりゅりゅ~」
フレムの声に視線を向けると既に食べ終わっている。
最近ますます食べるのが早いな。
「あれ? もう食事は終わったのか?」
広場周辺の様子を見て回っていたお父さんが、テントに入りながら首を傾げる。
「ソラとソルは術の解放と癒しで、お腹が膨れたみたい」
「へ~、あれは2匹にとって食事だったんだ。だから嬉しそうだったのか?」
なるほど、目の前に並んだご飯。
もしかして美味しいとかあるのかな?
「ソラ、ソル、フレム。彼らは美味しかった?」
「ぷっぷぷ~」
「ぺふっ」
「てっりゅりゅ~」
美味しかったんだ。
「アイビー、その言い方はちょっと駄目だろう。くくくっ」
「えっ?……あっ、そうだよね。ギルマスさんたちを食べちゃったみたいに聞こえる」
見た目そのまんま食べられているけど。
お父さんが笑っているのでつられて笑みがこぼれる。
疲れているからかな、なんだか笑いが止まらない。
「さて、寝るか」
笑いが収まったのか、寝床を整えたお父さんが寝っ転がる。
「うん。お父さん、なるべく早めに解決できるように頑張ろうね」
体を横たえながら、団長さんとお父さんの会話を思い出す。
ソラたちを守るためには必要な事だと理解している。
でも、中途半端だと絶対に後悔する。
なら、出来る事をやってからこの村から出ていく。
「そうだな。俺も中途半端なのは気になる。だが、アイビーとソラたちの安全が一番に大切な事だ。これは誰に何を言われようと譲れない」
「ありがとう。私もお父さんの安全を守るからね」
「ふっ、ありがとう。おやすみ」
「おやすみなさい」
明日になればギルマスさんも動けるようになっているはずだし。
もしかしたら何か分かるかもしれない。
そう言えば、ギルマスさんを補佐する人の事を聞いてないや。
……色々あって、興奮してるのかな?
寝られない。
でも、寝ないと明日がしんどくなるよね。
ふ~…………。
………………
あれ?
部屋の中の明るさに、今が朝だという事が分かる。
寝られないと思ったけれど、やはり疲れてたのかあの後の記憶がさっぱり無い。
起き上がって、部屋を見渡す。
ソラたちが、起きた私の傍に来て体をプルプルと揺らす。
「おはよう。お父さんはどこだろう?」
服を着替えようとすると、1枚の紙が置いてあるのが分かった。
手に取るとお父さんの文字。
「団長から『師匠から、ふぁっくすが届いている』と連絡があったので取りに行ってくる。アイビーを1人にすると俺が不安なので、テントの外にアーリーを残していくから。すぐに戻る」
師匠さんからファックス……あれ?
ふぁっくす?
ここではこの文字なんだ。
確か、前の私の世界ではカタカナだった。
「考えないようにしてきたけど、なんなんだろう」
前世の私がいた世界と似た名前、少し違う名前。
入れ替わっている物もあったりして、考えても分からないから無視してきた。
それに最近では気になる事がもう1つ増えた。
それは、私が行く先々で問題が起こっている事。
普通はそんな事ありえない。
まるで誰かに誘導されている気分だ。
「はぁ~」
「ぷ~?」
ソラの声に項垂れていた顔を上げると、ソラたちが心配そうに私を見ている。
「大丈夫。ちょっと、色々考えすぎちゃっただけ。ありがとう」
もし、誘導されているなら、それって人ではないよね。
私は神に見放された存在ではなかったのかな?
「それこそ、考えても仕方ない事かな」
……うじうじするのは性に合わない!
よしっ!
誘導するなら誘導すればいい、受けて立つ!
負けるもんですか!
ざまぁみやがれ……これはちょっと違うかな?
「てりゅ~」
「ふふふっ。本当に大丈夫だよ。今日も頑張ろうね」
「てっりゅりゅ~」
お父さんが帰ってきたら師匠さんの『ふぁっくす』の内容を聞かないとね。
あとは、ギルマスさんたちの様子を訊いて、団長さんに今日の予定を教えてもらわないと。
やる事はいっぱいあるんだから、とりあえずお腹空いたな。
昨日の夕飯は、合間に少し食べたけど少なかったからね。
あっ、やばい。
お腹すき過ぎて気持ちが悪くなってきた。
「アイビー、起きてるか? 朝ごはん買ってきたけど食べられるか?」
「食べる!」
お父さん、なんていい時に!