409話 拒否します!
ジナルさんたちが団長さんのお願いで、ギルマスさんと補佐の人を確保するために部屋から出ていった。
確保が無理な場合は、周りの状況などを調べてくるらしい。
ナルガスさんたちには、副団長代理の確保が言い渡された。
団長さん曰く、副団長代理に就いた人はちょっと単純な所があるから簡単だろうとの事。
ナルガスさんたちも同じ意見なのか、苦笑いしていた。
メリサさんとエッチェーさんも、ギルマスさんたちをもてなす準備を始めた。
どんなもてなしをするのかは怖くて訊いていない。
ただ2人で「薬の量は少し多くても、頑丈そうだから大丈夫よね」と、楽しそうに話していた。
「とりあえず、魔法陣について詳しい人物と連絡を取ります。その間にフォロンダ領主様へ送る『ふぁっくす』を用意していただけますか?」
「はい、分かりました」
あれ?
フォロンダ領主のいる場所が分からないけど、緊急用を使ったら、すぐに届くのかな?
それでも少し時間が掛かるよね?
何か居場所が分かる方法とかないかな?
「あの、フォロンダ領主の居場所が分からないのですが大丈夫ですか?」
「それは大丈夫です。特別な方法があるので」
なんでも王家にとって重要な人たちには、特別なマジックアイテムが配られているそうだ。
そしてそのマジックアイテムの一番すごいところは、場所など関係なくすぐに連絡が取れる事らしい。
「まぁ、これ内緒なんだけどね」
「えっ?」
ならどうして私に話したんですか?
「もっと言うとね……」
「いえ、聞きたくないです! というか駄目でしょう?」
「アイビーさんならいいかなっと?」
いえ、意味が分かりません!
そしてすごく嫌な予感がするので止めてください。
「寝込んでいたくせに、油断も隙も無いな」
隣にいたお父さんが団長さんを睨みつけながら凄む。
「団長、余計な事は言うな、するな」
「守りが堅いですね」
「当然だろ。大切な娘だ」
お父さんの不愉快そうな声が、本気で怖い。
そっとお父さんを窺うと、団長さんを睨みつけている。
「ほら団長。紙」
そして、一気にぞんざいな扱いになっている。
「しょうがないですね」
苦笑した団長から紙を受け取ると、部屋を出て隣の部屋に行く。
用意してもらっていた机に座ると、フォロンダ領主へのファックスを書く。
最初は挨拶から次に急にファックスを送った事を謝って、現状を書いて……団長さんの紹介。
読み直すと、なんともそっけない内容になってしまった。
挨拶と連絡事項のみ。
「なんだか寂しい『ふぁっくす』になっちゃった。ここ数日のソラたちの活躍を書きたいな。お父さんいいかな?」
フォロンダ領主にはソラたちの事を紹介してあるから問題ないよね。
私のスキルの事は、ばれていたし。
おそらく実の父関係でだろうなと思っているが、詳しくは訊いていない。
「まぁ、いいだろう。ただ、誰かの目に触れる可能性があるから気を付けろ」
「うん、わかってる」
えっとソラとソルは「内緒の術が空に溶けていきました。黒い子供も大活躍です」と。
魔法陣を内緒と表現したけど、大丈夫かな?
フレムは……「団長さんが真っ赤に染まって元気になりました」でいいかな。
シエルは、「力持ちはこれから扉の外で大暴れです」。
……こんなものかな。
真っ赤に染まっては少し怖いな。
と言っても、他には何も思い浮かばない。
……これでいいか。
「お父さん、これでいいかな?」
「……まぁ、大丈夫かな。ちょっと団長が死んでそうな表現だけどな」
あっ、やっぱり?
染まってではなく、包まれてにした方がよかったかな?
「用意が出来ましたが、どうですか?」
修正していると、団長さんが部屋の扉を開ける。
「えっ? 歩いて大丈夫なんですか?」
お父さんも隣でかなり驚いた表情をしている。
団長さんは、ゆっくりと私たちのもとへ来ると、嬉しそうな表情をする。
「すごいですよね。30分前は力が入らなかったのに、少し違和感があるなと思ったら立てたんです」
すごい。
団長さんの能力?
「何か特別なスキルでも持っているんですか?」
私の言葉に首を横に振る団長さん。
「きっとアイビーさんのスライムが起こしてくれた奇跡です。本当にありがとう」
ソラたちが?
団長さんが嬉しそうにその場で足を動かすと、ちょっとふらついてしまう。
お父さんが慌てて支えて椅子に座らせた。
「驚かせないで下さい。怪我したら皆が悲しみますよ」
「あはは、すみません。立てたのが嬉しくて、ついついここまで歩いて来てしまいました」
何だか子供みたいにはしゃいでいるな。
そう言えば、歩けるようになるには数ヶ月は必要になると、エッチェーさんに言われていたな。
それが30分で歩けるようになるんだから、はしゃぎもするか。
エッチェーさんたち、相当驚くだろうな。
「まだ目が覚めたばかりなので無理はしないように。それで、魔法陣に詳しい人物とは連絡が取れたんですか?」
お父さんの言葉に団長さんは頷く。
「魔法陣による病気や心の操作について、かなり驚いていました。すぐにこちらに人を派遣してくれるようです」
「それはまだ止めた方がいいのでは? 森には得体のしれない魔物がいる」
「はい。それも話しました。なので練れ者の上位冒険者を引き連れてくるそうです」
「そうですか」
お父さんが思案顔になる。
「先ほどはすみません。契約通りなので大丈夫です」
団長さんの言葉に、お父さんがちらりと団長さんを見る。
「正直に言えば、ずっと手を貸していただきたいですが契約がありますから。彼らが来る前に事件が解決していなくとも、この村から脱出してください。その手伝いをします。けっして、彼らに認識されない方法を取ります」
「……お父さん?」
「……分かりました。お願いします」
もしかして私たちがこの村から逃げる算段かな?
確かに魔法陣に関わると大変そうだもんね。
ソラたちを見る。
遊び疲れたようで、ソファに皆で集まって寝ている。
この子たちを守るためにも、やっぱり逃げるのがいいよね。
ソラたちが、利用されるのは絶対に嫌だし。
でも、途中で投げ出すのもな……。
「アイビーさん」
「はい」
「話は少し聞きました。ソラたちの能力も。良識ある貴族の代表ともいわれるフォロンダ領主様なら問題ありませんが、貴族にも色々います。知られればどんな事をしても手に入れようとしてくる愚か者もいるでしょう。だから、冒険者が来る前に気にせずこの村から出てください。大切な仲間を守るために」
「……分かりました。それまで皆と一緒に頑張りますね」
そうだね。
私が一番守りたいのはソラたちだから。
だから逃げる。
「それはすごく期待していますのでお願いします。冒険者が来るのは恐らく早くても10日後でしょう。いつでも、動ける準備だけはしておいてください」
「はい」
「お願いします」
私とお父さんが頭を下げる。
「それで、『ふぁっくす』の準備は大丈夫ですか?」
「はい」
団長さんに紙を見せると、ゆっくり椅子から立ち上がり部屋から出ていく。
その後をついていくと、団長さんが寝ていた部屋の隣の部屋に入る。
仕事部屋だったのか、様々な資料が積みあがっている。
机の上に散らばっている書類を見ると、魔法陣が描かれている紙がある。
「魔法陣を調べてたのか?」
お父さんが魔法陣の描かれている紙を持つ。
「あぁ、数年前に違法な薬を売っていた組織を潰したんだが、そいつらが根城にしていた場所に、魔法陣が描かれていたんだ。術によって壊れた人も」
「だから、魔法陣について詳しい人を知っていたのか」
「そうです。まさかまた魔法陣による問題に関わるとは思わなかったですが」
団長が嫌そうに魔法陣の描かれている紙を見ると、ため息を吐いた。
「二度と関わりあいたくないと願っていたんだがな。『ふぁっくす』はこっちだ」