403話 息子!
ナルガスさんたちの案内で団長さん宅へ向かう。
「団長さんの家には団長さんの家族もいるんですか?」
「家族はいるが団長は1人暮らしだ」
ジャッギさんが、ちょっと後ろを気にしながら話す。
不思議に思い後ろを見るが、アーリーさんとピアルさんがいるだけで特に気になるものはない。
首を傾げながらジャッギさんを見ると苦笑された。
「あっ、でも今は看護師が2名いたはずだ」
看護師か。
この2人をまずは団長さんから引き離してもらわないと駄目だよね。
「ナルガス、どうやって看護師を引き離す?」
「団長の家に行ったら二手に分かれよう。俺とアーリーが看護師に話を聞く。その間に団長にポーションを飲ませてくれ」
ポーションを飲ませるぐらいの時間だったら、怪しまれないかな。
「団長ってどんな人なんだ? 話は通じそうか?」
お父さんの言葉にアーリーさんが眉間に皺を寄せる。
それを見てジャッギさんが苦笑を浮かべた。
「どうしたんですか? 何か問題でもあるんですか?」
「アーリーは団長の息子だ」
「「えっ!」」
アーリーさんを見ると不服そうな表情をしている。
仲が悪いのかな?
「それで、どんな人なんだ?」
お父さんがもう一度訊くとナルガスさんが笑う。
「面白い人だよ。ちょっと人を揶揄う態度が行き過ぎてて、目に余るようだけど」
師匠さんみたいな人かな?
お父さんを見ると、ちょっと嫌そうな表情をしている。
これは師匠さんを思い出したんだろうな。
視線が合うと、ため息を吐かれた。
「どうしたんですか?」
「いや、俺の知り合いにも人を揶揄う事に人生を懸けている人がいてな」
いや、そこまでひどくないと思うけど!
驚いてお父さんを見ると、本気の顔をしていた。
師匠さん、色々やりすぎです。
「あ~いるよな。そういう人、村や町に数人」
そんなにいるんだ。
師匠さんみたいな人は、1人で十分だと思うな。
「あそこだ」
そう言えば、看護師さんは大丈夫なのかな?
もしも敵だったら、こちらが動いているのが相手にばれてしまうかも。
「お父さん、看護師さんの判断をソラにしてもらうね」
「あぁ、そうだな。そうしてくれ」
「どういう事ですか?」
お父さんと私の会話を聞いていたピアルさんが、不思議そうな表情をする。
「ソラは私にとってその人が良い人か悪い人か判断できるので、それをしてもらいます。この場合は、敵かどうかですね」
「…………そうか、すごいな」
「はい。ソラ」
ソラたちの入っているカバンを軽く撫でる。
すると中から微かに揺れが伝わってくる。
「今から団長さんの面倒を見ている看護師さんに会うから、敵だったら揺れて教えてね」
ちょっとだけ揺れが大きくなる。
それを感じて手を離すと、ピアルさんに頷いた。
「はははっ。なんだか色々気になる事はあるけど、まずは団長を助けないとな」
「んっ?」
「いや、なんでもないよ」
「小出しで聞くか、一気に聞くか。どっちも聞かなかった事にしたいな」
「そうだな。本人たちには当たり前の事で、すごい事に気付いてないしな。はぁ、とりあえず団長の病気を治すことに専念しよう。看護師たちは頼むぞ」
「あぁ」
ピアルさんとナルガスさんが、小声で何かを話している。
団長と聞こえたから、これからの作戦の事だろうか?
だったら、私も聞いておきたいけど……あっ、話し終わったみたい。
あれ?
ため息?
もしかして団長さんという人は、対策をしておかないと駄目なような人なんだろうか?
「そんなに団長さんは困った性格なんですか?」
「えっ?」
「はっ?」
「えっ? 団長さんの事を、話していたのではないのですか? よく聞こえなかったけど団長さんと聞こえたので」
私がナルガスさんとピアルさんを交互に見ると、なぜか2人に頭を撫でられた。
「大丈夫だ。アーリーがいれば団長は確実にアーリーを狙うから」
「そうだぞ。団長の一番の被害者はアーリーだからな。反応が可愛くてやめられない、と前に言っていたし、今もアーリーさえいれば周りにそんなに被害はこない」
えっと、これってアーリーさんが可哀想なのでは?
そっと近くを歩くアーリーさんを見る。
うわ~、すっごい嫌そう。
お父さんと一緒に被害にあっていた、ギルマスのゴトスさんと同じ表情してる。
そっと視線を逸らす。
かなりいろいろな被害にあってるみたいだな。
「大丈夫か?」
団長さんが療養している建物の前で、ナルガスさんが全員を見渡す。
視線が合ったので頷くと、ポンと頭を撫でられた。
「失礼します」
「は~い」
ナルガスさんが扉を叩いて、声を少し張り上げると建物の中から声が聞こえた。
中年の女性だろうか?
「あら、ナルガスさんにアーリーさんも来てくださったんですね。えっと、そちらは?」
看護師さんはアーリーさんを見て嬉しそうな表情をする。
そして私とお父さんを見て、ナルガスさんに問いかけた。
「失礼。今、ナルガスたちと一緒に仕事をしているドルイドと言います。こちらは娘のアイビーです」
「アイビーです。初めまして」
すっと頭を下げてから看護師さんを見る。
年齢は40代後半ぐらいだろうか、細身の小綺麗な女性だ。
「初めまして、メリサです。よろしくお願いしますね」
メリサさんが名乗っても、ソラたちの入っているバッグはピクリとも動かない。
ソラは敵ではないと判断したようだ。
「メリサさん。すまないが、もう1人の看護師にも会いたいんだが、いるだろうか?」
「はい、今呼びますね。エッチェー、ちょっとこっちに来てくれる?」
「ちょっと待って」
建物の奥から声が聞こえる。
声の雰囲気から、メリサさんと同じぐらいの年の女性のような気がした。
しばらくすると、1人の女性が奥から出てくる。
見た目は、少しメリサさんより若くて少しふっくらしている。
「あらっ! アーリーさん、来てくれたんですね。よかったわ」
エッチェーさんは、アーリーさんを見ると嬉しそうな表情をした。
それに居心地悪そうにするアーリーさん。
ナルガスさんたちは苦笑を浮かべている。
「こちら、アーリーさんたちと一緒に仕事をしているドルイドさんと娘のアイビーさんだって」
「まぁ。初めまして、私はエッチェーと言います。どうぞアーリーさんをお願いしますね。ちょっと頑固なところがあるけど、いい子なんですよ」
エッチェーさんの言葉を聞いてアーリーさんが顔を手で覆う。
耳が少し赤くなっているところを見ると、恥ずかしいらしい。
その様子を見ながら、バッグに手を添える。
メリサさんの時と同じようにバッグはピクリとも動かない。
「メリサさん、エッチェーさん。こちらこそよろしくお願いいたします」
全員に聞こえるように2人の名前を呼ぶ。
名前を呼んだら問題ないと決めていたので、周りからちょっとホッとした雰囲気が伝わってきた。
「メリサさん、エッチェーさん。申し訳ないが少し話を聞きたい。時間はあるだろうか?」
ナルガスさんが2人に少し神妙な表情で話しかける。
メリサさんたちは、何かを感じたのか奥の部屋へナルガスさんとアーリーさんを案内した。
途中で、ピアルさんとジャッギさんが団長の顔を見たいと言った事で、別行動することが出来た。
ちょっとメリサさんたちを騙しているようで複雑だけど、後で説明して許してもらおう。
「ここだな」
ピアルさんが団長さんの寝ている部屋の扉を開ける。
部屋の中は消毒液や薬草の匂いが充満している。
机にはポーションが置いてある。
「ひどいな」
ジャッギさんの言葉に団長さんの寝ているベッドを見る。
そこには痩せこけた男性がいた。
少し見ただけで肌はがさがさで、髪もパサパサだと分かる。
あまりの状態に息をのむ。
生きていると聞いていなければ、死んでると思ったかもしれない。
小さく息を吐くと、バッグからフレムの作った赤のポーションを取り出す。
それをお父さんに渡そうとすると、ソラたちが入っているバッグがごそごそと動いた。
「えっ? どうしたの?」
慌てて、バッグを開けるとフレムが勢いよく飛び出して団長さんのベッドへ飛び乗る。
そして、勢いよく団長さんを包み込んだ。
ポーションは?