398話 ちょっと休憩
契約を交わし、説明はお父さんとジナルさんにお願いした。
ジナルさんたちとの出会いから、術から解放した事。
そしてナルガスさんの術による傷を癒した方法も。
「そのスライムが?」
ナルガスさんにじっと見られて、胸を張ったソラ。
可愛いなっと見ていると、フィーシェさんも同じ感覚を持っていたらしく気に入ったようだ。
「すごくかわいいな。アイビー、後でソラたちをちょっとでいいから撫でてもいいか?」
「皆が許可を出したらいいですよ。そっと撫でてあげてくださいね」
私の返答に少し驚きの表情をするフィーシェさん。
それに首を傾げる。
「皆って、あの子たちの事?」
「そうですよ?」
「いや、テイマーが命令しないと撫でられないだろう? 俺が触ろうとすると逃げるだろう」
フィーシェさんの言葉に、普通のスライムの事を思い出す。
確か、人見知りだったな。
「ソラたちは大丈夫ですよ。皆、ちょっと集まって」
私の掛け声に、皆が私の元に集まる。
そう言えば、机の上を自由に飛び跳ねているけどいいのかな?
ジナルさんやガリットさんをそっと窺うが、特に嫌そうな表情ではない。
問題なさそうだな。
「フィーシェさん、どうぞ?」
「本気?」
かなり戸惑っているフィーシェさん。
こういうのは説明するより、試してもらう方が早いと経験上知っている。
「はい。大丈夫ですって」
「う~ん。えっと、撫でたいんだけどいいかな?」
ちょっと困った表情でソラたちに話しかけるフィーシェさん。
なんだか見ていると面白い。
「ぷっぷぷ~」
「てっりゅりゅ~」
「にゃうん」
「ぺふっ」
ソラたちの鳴き声に、不思議そうに私を見るフィーシェさん。
「その鳴き方は、大丈夫と言っているんです」
「そうなんだ。意思の疎通までしっかり出来るんだな。じゃぁ、撫でるな」
フィーシェさんがそっとソルに手を伸ばす。
ゆっくり撫でると、プルプルと揺れて目を細める。
「あれ? なあ、アイビー。この子、テイムの印が無いんじゃないか?」
「はい。ソルだけテイムしていないので」
「「「はっ?」」」
あれ?
言い忘れていたっけ?
ん~、色々な事がありすぎて何を言って、何を言っていないのか覚えてないよ。
でも、この反応という事は言ってないって事だよね。
「えっと、ソルはテイムしていいかと聞いたら、拒否されたのでしていません。でも、ずっと私の事を助けてくれている優しい子なんですよ」
「そうなんだ。まぁ、俺でも触れていたりするからな。うん、そういう事もあるかな」
フィーシェさんがちょっと困った表情でソルを見て、そっと撫でる。
何だろう、さっきより少しだけぎこちない。
「あっ、テイムしていないスライムって攻撃を仕掛けてくるんでしたっけ?」
「はははっ、そう。……そのはずなんだけど」
「してこないな」
ガリットさんが私の横に来て、そっとソルを窺う。
「ソルはそんな事しませんよ。ねっ!」
「ぺふっ」
「アイビー、訊いていいか?」
「なんですか?」
横に立っているガリットさんを見上げる。
「鳴き方なんだが、なんでこうなんだ?」
鳴き方?
なんでこうとはどういう意味だろう?
「出会った時からこうですけど、何かおかしいですか?」
「おかしいというか、いやそのだな……俺たちが知らないだけっていう事だろうか?」
ガリットさんが隣でぶつぶつと何か言っている。
隣にいるのに声が小さすぎる。
じっと見るが、彼の中だけで何か答えが出たらしい。
何度か頷いた。
「まぁ、ありえるかもな」
よく分からない。
「鳴き方は、ちょっと独特だけどいいとして。シエルという名前のあの子、変わった柄だよな」
「だってシエルはアダンダラですから。やっぱりスライムとは少し違うんだと思います」
シエルの鳴き方はアダンダラの時と同じだからね。
「そうなん……ん? えっと?」
「今、何かおかしな事が聞こえなかったか?」
フィーシェさんとガリットさんがシエルをじっと見つめる。
どんなに見ても、今はアダンダラの要素は柄と鳴き方ぐらいだけどな。
「アダンダラ?」
「2人とも、話し合いを始めるぞ。それと、その件については全てが終わってからだ」
ジナルさんがガリットさんたちを呼ぶ。
ようやく一通り納得のいく話が出来たみたいだ。
「はぁ、了解。気になるからとっとと解決するか」
「そうだな」
フィーシェさんは最後にみんなの頭をゆっくり撫でると、満足そうな表情をした。
ガリットさんは撫でることなく、見ているだけ。
スライムが苦手なんだろうか?
「よし、揃ったな。アイビー、ナルガスからお願いがあるんだ」
ナルガスさんから?
きっと仲間の事だろうな。
それだったら、ソラとソルが許可を出せば私は応援するぐらいだけど。
「俺の仲間を助けてほしい。手を貸してください」
ナルガスさんが緊張の面持ちで頭を下げる。
「ソル、ソラ。ナルガスさんの仲間を助けたいんだけど。手を貸してくれる?」
「ぷっぷぷ~」
「ぺふっ」
良かった、助けてくれるみたい。
「大丈夫みたいです」
「ありがとう。ソラ、ソルもありがとう」
心配そうにソラたちを見ていたナルガスさんが、ホッとした表情をする。
断られると思っていたのかな?
「ソラたちは大丈夫か? 術の傷を癒すのに、そうとう魔力を使うだろう。ナルガスの仲間は3人いる。彼ら全員を助けられなくても仕方ないと思っている」
ん?
ジナルさんが心配そうに訊いてくれるけど、術の傷を癒すのに魔力が必要なの?
ソラのポーションでは無く?
そう言えば、魔力について勉強しようと思っただけでしてないや。
「ソル、ソラ。3人、全員を助けられる?」
「ぷっぷぷ~」
「ぺふっ」
「大丈夫みたいです」
「本当に? もしかして途中でアイビーがソラたちに魔力を譲渡でもするのか? だったらアイビーも無理はしなくてもいい」
「それは無理です。私は魔力をほとんど持っていないので」
「そうか……ん? 魔力をほとんど持っていない? いや、レアスライムをテイムするのはどうやって?」
ジナルさんが首を傾げる。
ここは簡単に説明したらいいか。
「私は星なしなので人より魔力は少ないです。ソラは崩れスライムだったのでテイム出来ました。フレムはソラから生まれて、その時からすでにテイムの印がありました。シエルはいつの間にかです。ソルはテイムしていないのでこれについては関係ないですね」
「「「「…………」」」」
部屋の中が静かになる。
お父さんがお茶を飲む音が部屋に響く。
ちょっと失敗したという顔をするお父さん。
「ごほっ。まぁ、アイビーには色々あるから、でもアイビーだから」
「そうか」
えっ、今のどんな説明なのお父さん?
それになんでジナルさんが、その説明で納得するの?
驚いて2人を見比べる。
なんだかすごく仲良くなっている気がする。
不思議だな。
「ドルイドのいう事がよく分かったよ」
「そうだろ?」
「あぁ」
本当に何?
話に耳を傾けても、意味が分からない。
私が不審気にジナルさんを見ると、彼は苦笑した。
「悪い。3人の事を頼むな」
ジナルさんの言葉にしっかりと頷く。
ソラとソルが自信を持っているから、私も自信をもって頷く。
「だったら、あいつらをどうやって大人しくさせるかだな」
フィーシェさんが思案する。
「とりあえず睡眠薬で眠らせます。無理なら殴って眠らせるので大丈夫です」
あっ、ナルガスさんは間違いなくジナルさんの息子だ。