388話 何のため?
「得をする人?」
「はい。私の推測した事があっているなら始まりはゴミの問題ですよね? どうして捨て場以外にゴミを捨てたのか気になって」
他の場所にゴミを捨てる事でお金が得られるわけでは無いだろうし。
捨て場がゴミで溢れたのを隠すためならテイマーが関わっているかもしれないけど、そもそも隠す必要はないと思うんだよね。
ゴミの処理をするテイマーは1人ではないのだから。
もしこの村のテイマー全員が関わっているなら、ゴミの量がおかしいなんて噂は出ないだろうし。
だったら、どうして隠す必要があるのか、それが分からない。
「確かに。ゴミの問題から始まったのだとしたら、理由が分からないな」
ガリットさんが首を傾げる。
ジナルさんも考えているが、理由を思い当たらないらしい。
「なぁ、お腹空かないか?」
フィーシェさんがお腹を押さえながら私たちを見渡す。
そう言えば、空いたかも。
もしかしてそろそろお昼かな?
「そろそろ昼か?」
「アイビー、広場に戻ろうか? 寝不足だっただろ?」
お父さんに心配そうに頭を撫でられる。
そう言えば、そうだったな。
色々考えていたから忘れていた。
「もう、大丈夫だよ」
「そうか?」
これは一度帰って寝ないと、ずっと心配されるかもしれないな。
「寝不足だったのか?」
「はい。でも大丈夫なのでそんな顔しないでください」
ジナルさんが申し訳なさそうな顔をするので、笑って首を横に振る。
それを見たガリットさんが手を伸ばしてポンと頭を軽く撫でる。
「アイビーって頑張りすぎるだろ?」
そうでもないけどな。
「そうなんだよな。だから目を離せない」
お父さんが少し困った表情で話す。
そんな事ないと思うけどな。
無言で首を横に振るが、お父さんにため息を吐かれた。
「そう言えば、アイビーは冒険者ギルドに登録しないのか?」
「えっと」
この人たちなら大丈夫かな。
ソラも大丈夫と言っていたし。
「私もスキルに問題があって登録していません。商業ギルドにはお父さんと一緒に登録しました」
「アイビーもなのか? それはまた」
「なぁ、腹減った!」
「煩いフィーシェ! 少しは我慢しろ!」
「ジナルの話は長いんだよ。腹が減ったんだからとっとと買いに行くぞ! 昼時の屋台は混むんだから」
フィーシェさんの態度に、ジナルさんがため息を吐いて椅子から立ち上がる。
「悪いな。朝が早かったから、そうとう腹が減っているんだろう」
「いえ、私たちは広場に戻るので」
「そうか。アイビーの話を元に少し調べてみるよ。他の方面からも調べているが、なかなか成果は上がっていなかったから」
ジナルさんたちと『ミチェル』の宿の一室から出る。
お昼時だからなのか、宿の食堂が少し騒がしい。
それを横に見ながら宿を出る。
「今日はありがとう。いい時間を過ごすことが出来たよ」
「いえ、こちらこそ」
「また2、3日中に広場にお邪魔します」
「分かりました」
お父さんとジナルさんを見つめていると、なんだか体が重くなった気がした。
何だろう?
もしかして疲れてるのかな?
まぁ、寝不足であれだけ色々話をすれば疲れるか。
あっ、フィーシェさんは気付いてた?
「お昼どうする?」
お父さんの声にはっと前を見る。
いつの間にかジナルさんたちは屋台へ向かっている。
やっぱり疲れているな。
「少し顔色が悪いな。広場に戻って休もうか」
「そうする。ちょっと休憩が必要みたい。お昼は残っているご飯で何か作ろうと思うけどいい?」
「もちろん。手伝うから無理はするなよ」
「大丈夫だよ」
「アイビーの大丈夫は時々当てにならないからな」
「そんな事ないのに」
でも、お昼は簡単に作れる料理にしよう。
頭に痛みが少し出てきてしまった。
丼ものは簡単だよね。
そう言えば、焼きめしという料理を思い出したんだった。
具は何でもいいみたいだし、思い出した限りでは簡単。
うん、今日は焼きめしに挑戦してみよう。
大通りを歩くと、活気のある屋台が並んでいる。
何処も繁盛しているようだ。
森へ出られないのに、いつも通りだな。
「森に行けないからシャーミを見られないわね」
「そうね。でも今年はどうしちゃったのかしら、門からもその姿は確認できなかったみたいよ」
「そうなの? この村の人達の癒しなのにね。残念だわ」
シャーミ?
どこかで聞いた気がするな。
確か、噂話を調べている時に聞いたんだ。
「可愛くて人懐っこい動物」と話していたはずだ。
癒しなんだ、私も見てみたいな。
「何か買って帰るか?」
「今日はいいや。帰ろう」
「分かった」
広場に戻ると、多くの冒険者たちがいつも通り少し騒いでいた。
森へ出られないから広場で待機だもんね。
仕方ないか。
「ただいま。ごめんね遅くなったね」
テントの中に入ってソラたちに謝る。
出かけたのが早朝だったため、皆お留守番だったのだ。
ソラたちに用意していたポーションが無くなっているから、ちゃんと食事は終わらせたみたい。
「はい。アイビー」
お父さんが、フレムが作った赤のポーションを持ってきた。
小さなコップに少し入れて飲むと、頭のだるさがすっと消える。
病気ではないが、効果はあるようだ。
「大丈夫か? 頭に少し痛みがあったんじゃないのか?」
ばれてた。
「よくわかったね。でも、もう大丈夫」
ポーションのお陰か、体も少し軽くなったし。
「お昼は俺が作るよ」
「作りたい料理があるから一緒に作るよ」
「頑固だな」
「何となく考えていたら、食べたくなっちゃって」
調理工程を思い出していたからなのか、すっごく焼きめしが食べたい。
それに、簡単なはずだから大丈夫。
必要な物を持って、調理場に行くと他の冒険者たちも料理をしていた。
運よく、調理台が空いていたのは良かった。
お父さんに調理過程を説明しながら、一緒に作る。
「「いただきます」」
出来た物を見て首を傾げる。
もっとご飯がパラパラだったような気がするんだけど。
「何かが違うのか? 美味しいけど」
「もう少しご飯がパラパラだったような気がして」
「水分が多いって事か? 火力かな?」
今度はもう少し強火で作ってみよう。
でも、強火で調理すると失敗しやすいんだよね。
「「ご馳走様でした」」
お皿を重ねていると、さっとそれを取り上げられる。
「アイビーはもう寝ろ。これは俺が洗っておくから」
「大丈夫?」
「お皿なら片手だけでも洗えるし、問題ない。少し雑にはなるけどな」
そう笑って、調理場へ行ってしまう。
確かにお腹がいっぱいになったからなのか、眠い。
ここはお父さんに甘えて寝よう。
テントの中に戻り、寝る場所を整える。
横になるとふっと意識が遠くなるのが分かった。
すごく眠たかったらしい。
「ん? う~?」
目を開けると、少し薄暗い。
テントの中を見回すと、ソラたちが私に寄りそって寝ているのが見える。
よく寝たのか頭はすっきりしている。
起き上がり腕を上に伸ばすと、背筋が伸びて気持ちいい。
「お父さんは外かな?」
立ち上がってもう一度腕を上に伸ばす。
腰を左右に捻って、体をほぐしてからテントを出る。
「あれ? いない」
何処へ行ったんだろう。
それにしても、もう夕方だよね。
よく寝たな。
テントの周りを見る。
隣では女性冒険者たちがいつも通りお酒を楽しんでいる。
反対側のテントでは、子供たちが机に向かって何かしている。
「なんだろう?」
ここ数日のいつもの風景なんだけど、何か違和感を覚える。
もう一度、周りを見渡す。
「怖いね。うん、どうなるんだろうね」
「だね」
子供たちの声が聞こえた。
そうだよね、森があんな状態なんだもん、怖いよね。
「あれ? 森で異変が起こっているのに……」
なのに、この村はどうして何も変わらないの?
確かに他の村より活気は無かったけど、今日も数日前と同じだった。
広場を見渡す。
冒険者たちは森へ行けていないのに、不安感も焦燥感も無いのか、お酒を飲んで食べて騒いでいる。
「アイビー、おはよう。よく寝てたから起こさなかったよ。どうしたんだ?」
お父さんの声に視線を向けると、お鍋を持っていた。
どうやら料理を作っていたらしい。
「あぁ、これか? 隣の女性たちに手伝ってもらって作ったんだ」
「お父さん、おかしくない?」
「えっ? 料理?」
お父さんが心配そうにお鍋の蓋を開けて中を確かめている。
「違う。森があんな状態なのに、この村も広場もなんでこんなに普通なの?」
「えっ?」
お父さんがハッとした表情をして周りを見渡した。