387話 繋がってる? ばらばら?
「話を戻すが。ドルイド、何か気になったことは無いか?」
ジナルさんの質問にお父さんが首を横に振る。
「悪いが、何も無いな」
「そうか」
フィーシェさんが少し気落ちしている。
何か切っ掛けが欲しいんだろうな。
「アイビーは、何かある?」
お父さんが優しく訊いてくれる。
気になる事はあるって、もしかして表情に出てたのかな?
でも、ギルマスさんたちの話を今してもいいのかな?
聞きたいのは魔物に関してだよね。
でも、気になる。
「何かあるのか? だったらなんでもいい。話してくれ」
ジナルさんが、そう言うならいいかな?
「ギルマスさんの事です」
魔物の事ではなかったからなのか、ちょっと苦笑されてしまった。
申し訳ないです。
「あぁ、どうした?」
「ギルマスさんには借金でもありますか? もしくは大切な家族や恋人が病気だとか殺されたとか。ギルマスさん自身が病気で後がないとか?」
「ん?」
ジナルさんが首を傾げる。
フィーシェさんもなんだかおかしな表情をしている。
「それが気になる事か?」
「そうです」
ガリットさんの質問に頷く。
ギルマスさんがどういう人なのか私には分からない。
でも、話を聞いている限り生きる事に執着していない気がした。
というか、諦めているような。
だから、すべての問題に興味がわかないのではと。
そうなるのはどうしてなのかを考えた結果、さっきの質問になったんだけど、どうなんだろう?
「フィーシェ、どうなんだ?」
「家族は奥さんだけだが、その奥さんとは仲はいい。金に困っている様子はないし、病気も大丈夫だと思うが」
仲がいい?
という事は、奥さんには興味があるって事だよね。
「そうなんですか? だったら何がギルマスさんをそうさせるんでしょうか?」
私の言葉にフィーシェさんが眉間に皴を寄せる。
フィーシェさんって真剣な顔をすると、目力すごいな。
視線が合った瞬間、震えそうになった。
「ギルマスの態度がそんなに気になる?」
「はい、すごく気になります。2年前までは普通だったんですよね」
となると、2年の間にきっと何かがあったはず。
「俺も調べた。ここ2年のあいつの様子を。でも、何も出ないんだ。まるで人が変わったようだとしか」
人が変わった。
フィーシェさんは調べる事になれているはずだから、見逃しは無いだろうな。
「奥さんとは仲がいいんですよね」
「あぁ、一緒に夕飯を食べたが特に問題はなかった。奥さんが病気という事もないだろう。よく食べてよく飲んでたし」
「つまり……仕事に関してだけって事ですか? 普通に仕事以外の事は話が出来ましたか?」
「普通だったよな? あの店が新しい料理を出したが、いまいちだったとか言ってたし」
ガリットさんの言葉にフィーシェさんが頷く。
仕事に関してだけやる気がない?
何それ。
ただ仕事がしたくないだけ?
でも、2年前まではギルマスになる覚悟もあったんだよね。
よく、分からない。
「飲んだ時に、仕事の話はしなかったんですか?」
私の質問にガリットさんとフィーシェさんが、苦笑をもらす。
「あ~、しなかった。というか、話題にしたら不機嫌な顔になったからな」
「あぁ、あえて場を悪くする事もないし。話題を変えたな」
話もするのも嫌なほど仕事が嫌い?
「どんな風に不機嫌になったんですか?」
「どんなって……表情が無くなったんだよ。ムスッて感じで」
表情が無くなる?
普通、不満があったら眉間に皴が寄ったり、顔が引きつったりするよね。
なのに無表情?
「ギルマスの執務室で話し合った事はあるんだろう? その時はどうなんだ?」
お父さんの質問にフィーシェさんが首を竦める。
「執務室では1回しか会えていないんだよ。面会を求めても無視されるから。代理の者にはよく会うけどな。その1回だって、執務室に無理やり押しかけて会ったんだ。その時どういう事だと訊いたら「どうでもいい」と言われた。それからは、代理の者としか仕事の話はしていない」
徹底して仕事に関しては興味がないんだね。
異常だ。
ん~、無表情ってどんな時になるだろう。
感情があったら何らかの表情にはなるよね。
感情が無い時?
そんなときあるのかな?
奴隷じゃないんだし。
奴隷?
えっ、もしかして、
「意識や感情を奪われているのか?」
ジナルさんがぼそりと私が思った事を言葉にした。
お父さんも、神妙な表情で頷いた。
「「えっ?」」
ガリットさんとフィーシェさんは少し困惑した表情だ。
だが、すぐにジナルさんの考えが理解出来たのか、息をのんだ。
「ギルマスを誰かが奴隷化しているというのか? そんな事、誰がするって言うんだ!」
フィーシェさんの声が大きくなる。
「それにギルマスには奴隷の輪なんて付いてないぞ。あれ以外で、命令に従わせる方法なんてあるのか?」
「魔物も人も奴隷化できる魔法陣があると噂で聞いたことがあるが、それが本当なのかは不明だ」
「魔法陣か、確かに色々あるとは聞いているが」
ジナルさんの言葉に、少し前に起こったサーペントさんの問題を思い出す。
魔法陣ってあれの事だよね?
「魔法陣での奴隷化は可能だ」
お父さんの言葉に3人が驚いた表情をする。
「どうして、それを知っている?」
お父さんは小さくため息を吐くと、ジナルさんを見る。
「詳しくは話せないが、俺は魔物を従わせる魔法陣を見たことがある。人だったとしても、大して変わらないだろう」
お父さんの言葉に、3人はまだ少し困惑している様子だ。
「魔法陣は厳重に管理されているはずだが」
「だが、完璧ではないだろう」
お父さんの言葉にフィーシェさんはため息を吐いた。
「そうだな」
「もし、ギルマスに何か制限がかかっているなら。早急に対処する必要があるな」
「だが、まだ憶測だ」
もし本当に、強制的にギルマスさんが従わされているのだとしたら、ゴミの問題関係だよね。
それとも団長さんの病気関係だろうか?
副団長さんが行方不明というのもあったな。
……全部、同じ人が起こしている事はあるのかな?
だって、同じ場所で同じ時期にこれだけ問題が一遍に起こる可能性ある?
それよりも、繋がっていると考えた方が納得できそう。
「最初はゴミの問題で、それを知ったギルマスさんの口を強制的に黙らせて、それを知った団長に毒を盛って、副団長さんは……なんで行方不明なんだろう? いや、副団長さんが犯人?」
あれ?
随分静かなんだけど。
下を向いていた顔を上げると、お父さんをはじめジナルさんたちに見つめられている。
「どうしたんですか?」
なんだか怖いんですが。
「アイビー、考えが口に出てたぞ」
お父さんが苦笑して教えてくれる。
考え?
「あっ、すみません。ただの憶測ですから」
「いや、そういう考えもあるのだと驚いた」
ジナルさんがため息を吐く。
「つまりゴミの問題をまずは調べる必要があるって事か?」
ガリットさんの言葉にフィーシェさんが頷く。
「そうなるだろうな」
なんだか私の意見で話が進んでいる。
それはちょっと怖いな。
「ただの憶測ですから」
「分かっている。ただ、見逃せない意見だと思うから調べるよ」
「気を付けろよ。アイビーの話が真実なら、ギルマスを騙せるだけの知恵がある」
お父さんの言葉に首を傾げる。
本当に頭がいいのかな?
ゴミを放置すれば、間違いなく色々な問題が浮かび上がってくる。
しかもギルマスさんや団長さんに問題が起きれば、間違いなく問題は明るみに出る。
ん?
どうして今まで問題が、明るみに出なかったんだろう?
そう言えば、ギルマスさんと団長さんは喧嘩しているって噂が……。
誰かが故意にその噂を流して、いつも通りを装っているという事?
「アイビー、何か考えが浮かんだら話してほしい。どうも、俺たちは色々と見落としているようだから。ガリットとフィーシェは混乱中だし」
ジナルさんが頭を下げる。
それに少し困惑するも、考えた事を話す。
私だけでは手に負えない。
「あと、ゴミを捨て場以外に捨てて得する人なんているんですか?」
根本的な問題なんだよね。
どうして捨て場以外にゴミを捨てたのか。
更新、遅くなり申し訳ありません。