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番外編 ジナルの混乱

後ろを歩くドルイドとアイビーさんの様子を見る。

本当に仲がいい親子だ。

お互いを大切に思っている事が分かる。

だからこそはっきりとさせたい。


彼らに対する印象は決して悪くない。

森の中の不意の出来事にも、現実を見据えるアイビーさんは年齢よりしっかりとしていた。

それが無理をしている風ではなく自然だったので、ガリットと感心したものだ。

そんな彼女を支えているドルイドに関しても、父親として立派だとの印象を持った。

2人を見て、血の繋がりが無い親子関係だと聞いて、正直驚いた。

見た目の違いで判りそうなものなのに、2人の雰囲気がそうは感じさせなかったからだ。

だから、特に気にせず話をしていた。

だが、話していくとドルイドという存在に不信感が募ってしまった。

彼の雰囲気、森の異変に気付く事から、どう考えても彼は上位冒険者だ。

最初はなぜ、俺の知らない上位冒険者がいるのかと不思議に感じた。

もしかして、俺が彼の情報を忘れてしまったのかと思い2人にこっそり確認した。

が、2人もドルイドの事を知らなかった。

それでも、もしかして俺たちが忘れている可能性もあると思った。

あの時は、ドルイドが上位冒険者だと思い込んでいた。

それだけの実力が窺えたからだ。

だから、上位冒険者ではない可能性が出た時、正直驚いた。

ありえないとさえ、思った。


「ジナルさん。どうしたんですか?」


「いや、なんでもないよ。悪い」


じっと見つめ過ぎたのか、アイビーさんが俺を窺う。

すっと俺に視線を向けるドルイド。

表情は穏やかに見えるのに、その目がとても冷たい事に気付いたのは2回目に会った時だ。


ドルイドが上位冒険者ではないと気付いた理由は、冒険者ギルドへの義務報告をしなかったからだ。

これに違反すると多額の罰金を支払う事になるため、破る者はいない。

だが、ハタカ村で問題が起きてもドルイドは報告をしなかった。

する必要が無い、つまり彼は上位冒険者ではないという事になる。

ガリットが何気ない様子で一緒に行こうと言ったらしいが「俺は違う」と答えたらしい。

だが、あの強さ。

どの村や町のギルマスでも絶対に目を付けるはずだ。

片腕というハンデ 負い目はあるが、持っている剣を見る限り問題はなさそうだ。

また一度上位冒険者と登録されると、怪我や年齢でギルマスが登録抹消を依頼するまでその記録は残る。

見落としているのかもしれないと宿に帰り調べたが、過去にもドルイドという名前は無かった。


「あそこです。話をするために1階に部屋を借りたので」


泊まっている宿『ミチェル』に入り、部屋に案内する。

ドルイドは部屋をさっと見渡すとすぐに椅子に座る。

その隣に、部屋全体をゆっくり眺めながらアイビーさんが座った。


「どうぞ」


ガリットが用意していたお茶とお菓子を机に置く。


「ありがとうございます」


ドルイドが真ん中に置かれたお菓子のお皿を、アイビーさんにそっと近付ける。

まだ、部屋の様子を見ていたアイビーさんは気付かない。

ドルイドを見るとすっと視線が合う。

やはり温度がない。


犯罪者たちは冒険者を隠れ蓑に使う事がある。

上手くいけば、これほどいい隠れ場所は無い。

だが、上位冒険者になると必ず露見する。

俺たちのような者が調べ尽くすからだ。

だから、問題がある者たちは力を隠して目を付けられないようにする。

だが、ドルイドは強さを隠していない。

そこが疑問だった。

強さを隠していないのに上位冒険者ではない。

誰も彼を勧誘しなかったのか?

勧誘したが断られた?

お金に困っていない?

でも、アイビーさんがいるならお金はいくらあっても困らないはずだ。

それに上位冒険者になっておいた方が、アイビーさんを守ることが出来るはずだ。

考えれば考えるほど、どんな説明も思い浮かばなかった。

だが、もし犯罪者ならアイビーさんを守る必要がある。

と、考えたんだが……彼らの様子を見る限り守る必要はなさそうだ。


「話とは何でしょうか?」


ドルイドが俺たちの顔を順番に見る。

彼はこちらを警戒している、特に俺を。

それに少し首を傾げる。

俺は何かしただろうか?


「正直に答えて欲しい」


「答えられる範囲なら」


まぁ、そうだろうけど。

それを言われたら……。


「お父さん、ここはちゃんと話した方がいいと思うよ。多分大丈夫」


アイビーさんの言葉にドルイドがため息をつく。

それに俺は首を傾げる。

ドルイドの事情をアイビーさんは知っているのか?

なら、それほど重要な問題ではないという事か?


「ドルイド、君の強さは上位冒険者で間違いない。今まで勧誘された事は?」


「あるが断った」


やはりあるのか。

という事は力は昔から隠していなかったという事だな。


「なぜ、断った?」


「……スキルに問題がある」


「はっ?」


スキル?

スキルに問題?

考えてもいなかった答えに首を傾げる。

もしかして、何か新しいスキル持ちなのか?

それを知られたくなかった?

いや、それだったら冒険者登録自体しないよな。

登録したらその村か町のギルマスには、必ず知られるだろうし。


「どういう意味だ」


「あ~、その前に1つ確認したいんだが」


なんだか、ドルイドの話し方が砕けた。

しかもちょっと苦笑している。

何だ?


「何を確認したいんだ?」


「ジナルは……」


呼び捨て?


「ジナルは、変態的な意味でアイビーに興味があったりするのか?」


「ぶーっ」


「はっ?」


隣でフィーシェが盛大にお茶を吹いた。

アイビーさんが、わっと言って立ち上がる。

フィーシェが座っていたのはアイビーさんの前だったから、もしかしてお茶がかかったか?

それは可哀そうだ。


「って、違う! 俺がアイビーさんを? えっ?」


「落ち着けジナル。ドルイド、なぜそんな発想に?」


「異様にアイビーと2人になりたがっていただろう? だから狙っているのかと思ったんだが」


「違うぞ! 断じて違うぞ!」


頭がふらつく。

まさかそんな風に思われていたなんて。

もしかして、だから冷たい視線で睨まれていたのか?

……そういえば、広場にお邪魔した時にアイビーさんから話を聞こうと、ガリットたちにドルイドの足止めをお願いしたっけ。

あれか? あれが駄目だったのか?


「やっぱり。ね、お父さん大丈夫だったでしょ?」


あれ?

今のアイビーさんの反応って……彼女にも変態だと思われてたって事か?

いや、いま「やっぱり」と言った。

つまりアイビーさんは、俺を変態だとは思っていなかったという事だ。

……あれ? そうだよな?

駄目だ、頭が混乱してる。


「あ~でも、確かにジナルのやっている事って、そう思われても仕方ないかもね。年端も行かない少女の後を付いて回って」


「やめろ!」


フィーシェの野郎、なんてことを言うんだ。

いや、そう見えるのか?

見えるような気がしてきた。


「あ~、悪いな。ジナル、大丈夫か?」


「大丈夫に見えるか?」


「あははは。でも、仕方ないだろう? まだ親しくもないのにアイビーに纏わり付いていたんだから」


「まとわり……」


俺の悲壮感たっぷりの言葉に、フィーシェが大笑いしだす。

それにつられてガリットが笑いだす。

前の椅子に座っているドルイドも手を口に持っていって、明後日の方向を見ている。

アイビーさんは、そんな3人を少し呆れた表情で眺めているが俺の視線に気付くと、申し訳なさそうな表情をした。


「すみません」


「いや、俺も怖がらせてしまったのかな? ごめん」


「いえ、大丈夫です」


はぁ~、息子にこんな事が知られたら、大笑いされるんだろうな。

あれ?

何の話をしていたんだっけ?


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― 新着の感想 ―
そういう趣味の人もいるからなぁ…
40代の上位冒険者が30代の元中位冒険者に対してそう思うことがそんなに変かな?
[気になる点] ジナルさんに対する嫌悪感が強すぎて、皆さんのように笑えなかった、、 自分も呼び捨てなのに、相手の呼び捨てには反応するところも嫌だし、結局他人のことに対して余計なお世話で踏み込むし。 守…
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