382話 増えたみたいです。
「すみません。アイビーさん、ドルイドさんいませんか?」
屋台で出すメルメの準備のため、コウルさん宅へお邪魔して帰ってくると、テントの前に見た事のある後ろ姿。
「あれってジナルさんたちだね」
お父さんに言うと、なんとも複雑な表情を見せる。
本当に一度しっかり話し合いをした方がいいような気がするな。
「こんにちは。どうしたんですか?」
後ろからジナルさんたち3人に声を掛ける。
「えっ? あぁ、よかった。少し話が有って来たんですが、お出かけでしたか」
「はい。知り合いの所へ」
私の言葉にジナルさんがじっと私を見る。
それに首を傾げると、すっと後ろに引っ張られた。
少し驚きながら、お父さんを見る。
「どんな話でしょうか?」
少し眉間に皴を寄せながら話すお父さん。
ジナルさんもちょっと不服そうな表情を一瞬見せた。
すぐに隠したけど。
「いえ、少し連絡がありまして」
「連絡?」
私やお父さんに来る連絡なんてあったかな?
あるとすれば森の問題の事?
「連絡というか意見を聞きたくて、お願いできますか?」
お願いという事は、話が長くなる可能性があるな。
それに他に聞かれていい話なのか分からないし。
「あの、お茶を用意してきます。待っててください」
急いでテントに戻ってバッグの蓋を開ける。
今日は一緒に行っていたので、ソルたちがバッグから勢いよく飛び出す。
「ごめんね、人がきているから。ポーションは用意しておくね」
小声で話しかけると、プルプル揺れるソラとフレム。
ソラとフレム用のポーションをバッグから出して、ソル用にマジックアイテムを取り出す。
これで大丈夫かと3匹を見ると、私を見てプルプルと揺れる。
「ゆっくり食べてね。行ってきます。シエル、お留守番よろしくね」
4匹に手を振って、お茶の葉とコップを人数分もってテントから出る。
「お父さん、お茶を作って来るね」
机の上に置いてあったお鍋を持つと、調理場へ向かう。
そう言えば、まだ机を引き取りに行っていなかったな。
明日取りにいければいいけど。
お茶を作って戻ると、なんとも雰囲気が暗い。
何か悪い話でもしていたのかな?
「どうぞ」
お茶を入れてそれぞれの前に置く。
私が椅子に座ると、お父さんが出していたマジックアイテムのボタンを押した。
「それで、話とは?」
「森で問題を起こしている魔物が一気に数を増やした」
えっ?
数を増やした?
「どういう事だ?」
「調査に行っていた上位冒険者が、門から見える範囲で1日に数回、見回りをしているんだ。その調査で森から感じる違和感がどんどん大きくなっていると報告が上がった。俺たちも確認したが、たった1日で、確かに大きくなっていると感じた。それで考えられることは何かと話し合って、魔物の数が増えたのではないかという結論になったんだ」
「違和感があったんですか?」
「たぶん数が増えた事で、感じられるようになったんだろう」
なるほど。
魔物が数を一気に増やしたって事は、この村に襲いかかってくる可能性が高くなったのかな?
確か森に食べ物が無くなったら、あるところを襲うって聞いた。
それにしても一気に魔物が増えた?
何かおかしいよね。
「魔物の数が?」
「ドルイドさん、あなたは旅をしている冒険者だ。何かどこかで聞いた事が無いか?」
ガリットさんがじっとお父さんを見る。
それに首を横に振るお父さん。
「そうか」
ん~、なんだろう。
何か見落としている?
いや、違うな。
何か掴めそうなのに、なんだろう?
周りに溶け込むことが上手い魔物で、いきなり数が増えた。
……駄目だ、分からない。
「そういえば、メルメの屋台ってドルイドさんたちが手を貸したんですか?」
「「えっ?」」
急な話の変更に驚いてフィーシェさんを見る。
「あれ? 違った? 食べたら、ここでアイビーさんが作った物に似てたんだけど」
「あっ、お手伝いしました。それより食べてくれたんですか?」
「ここで食べた時と香りが似てたから、もしかしてってジナルが気付いて並んだんですよ」
並んでくれたんだ。
しかもここで食べた時と香りが似てたからって。
それって、また食べたくなる味だったって事だよね。
うわ~、嬉しい。
「ありがとうございます」
「いや、俺からもお礼を言わせてくれ。メルメが美味しく食べられるとわかれば、この村にとってかなり嬉しい事だ。俺の息子の住む村だからな、気になっていたんだ。ありがとう」
「喜んでもらえてよかったです」
やっぱりジナルさんっていいお父さんだよね。
お父さんが心配するような事は無いと感じるけどな。
そっとお父さんを見る。
ジナルさんを見ているのが分かる。
まだ、信じられないのかな?
「あぁそれと、もう一度調査隊が編成される事になった」
あっ、話が戻った。
それにしても調査隊が?
魔物の数が増えたかもしれない森に行くの?
「今回はこの村の周辺だけの調査になる。何とか敵を知らないと戦えないからな」
なるほど、それならまだ安全なのかな。
そうだ、この情報って他の村に内緒なのかな?
「あの、この問題は他の村に知られても問題ないですか?」
私の言葉にジナルさんたちが不思議そうな表情を見せる。
お父さんははっとした表情をした。
「村の情報はすぐにとはいかないが確実に流れる。隠してもいないしな。でもなぜだ?」
「オール町にお父さんの師匠さんがいるんです。師匠さんだったら本当に色々な事を知っているから何か分かるかもしれません。聞いてみて良いですか?」
「確かに師匠は、無駄にあっちこっち行ってるからな」
無駄にって。
ちょっと呆れた表情でお父さんを見てしまう。
それに肩を竦めたお父さん。
「オール町の師匠ってもしかしてモンズさんの事ですか?」
ガリットさんが少し興奮してお父さんに訊く。
モンズって誰?
「知っているのですか?」
ん? 誰?
「えぇ、前にお世話になった事があって。ドルイドさんは彼の弟子なんですか?」
「まぁ、そうですね。そうなりますね」
お父さんが弟子という事は。
「モンズってもしかして師匠さんの事?」
私の言葉に驚いた表情のお父さん。
「あれ? 知らない?」
「ずっと師匠、師匠って。村の人たちもそう呼んでいたから、名前を聞いてない気がする」
忘れたわけじゃないよね?
聞いてないはず……多分。
「彼の弟子なんですか。そういえば、去年オール町を襲った問題をモンズさんが解決したと聞きました。まだまだ現役なんですね」
ガリットさんがかなり嬉しそうに話をする。
そうとう師匠さんの事が好きなのかな?
「あ~、あれね。そうですね。周りの助けもあって解決してました」
「ドルイドさんも参加したんですか?」
「いえ、参加はしていません。その少し前に片腕になったため、体が慣れてなくて」
お父さんが何気なく話した事に、ガリットさんやジナルさんがハッとした表情をした。
それにお父さんは、何でもないというように笑った。
「あの、師匠さんに話をしてみて良いですか?」
ちょっと変な空気になったな。
とりあえず、訊きたいことだけ訊いておこう。
「もちろん。モンズさんに意見が聞けるなんて心強いです」
モンズさんか、なんだか慣れないな。
「だったら明日にでも『ふぁっくす』を送るか?」
「そうだね。そういえば、そろそろ返信が返ってきているかも」
「そういや、皆に『ふぁっくす』を送っていたな。忘れてた」
お父さんが苦笑を浮かべる。
「『ふぁっくす』で連絡を取り合っている人がいるのか」
ジナルさんが驚いた表情で少し前に乗り出す。
それに驚いて少し体が後ろにのけぞる。
「はい。皆、私の事を心配してくれているので」
「皆?」
ジナルさんが首を傾げる。
「まぁ、良いじゃないですか。それより、どこまで話していいですか? 風のメンバーがいる事も話しても?」
お父さんが背中を支えてくれながら、3人を見渡す。
それに3人が頷く。
全て話していいという事かな。
「分かりました。明日の朝にでも送っておきます。明日は、早めに起きて準備しようか?」
「そうだね。早い方がいいだろうし」
問題は早めに解決したいよね。
師匠さんが何か知っていればいいけれど。