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379話 「安全」は重要です

「すみません」


「ごめんなさい」


コウルさんとリジーさんがお父さんと私に向かって頭を下げる。

机の上には綺麗に食べきったお皿。

焼きおにぎりも食べて感動してくれていた。

ちなみに米だと知って、リジーさんは食べるまで少し勇気が必要だったみたい。

コウルさんは「そうですか」と言ってすぐに食べ始めた。

リジーさんではないけれど、もう少し警戒心を持った方がいいよね。

と、お父さんに言ったらなぜか首を横に振られた。


「いいですよ。美味しそうに食べてくれたので、私も作ったかいがあります」


残っていたメルメも焼いたら綺麗に完食してくれた。

なんとも気持ちがいい食べっぷり。

ただリジーさんは細身の体形なのに、あの大量の肉が何処へ消えたのか不思議だ。


「実は……」


コウルさんの真剣な表情にちょっと背筋が伸びる。

なんだか重い話の予感なんだけど、大丈夫かな?


「そろそろ家族で奴隷落ちになりそうだったもので、店では焦ってしまって」


「はっ?」


お父さんが驚いた声を上げる。

私は声こそ出なかったけど同じ気持ちだ。

奴隷落ち?


「その、畜産も肉屋も借金でカバーしていて」


なるほどね。

あれ?

村長さんが指示したんだよね?

そっちからの助けは無かったのかな?


「村長が主導の畜産なんだろう? 援助を頼めなかったのか?」


お父さんが丁寧な言葉じゃなくなってる。

呆れたのかな?


「村長もこの畜産で結構危ない状態でして……」


コウルさんの説明に、お父さんが大きなため息をつく。


「間に合うのか?」


お父さんの言葉に首を捻る。

何が「間に合うのか?」なんだろう?


「たぶん。そこでアイビーさんとドルイドさんにお願いがあります。明日中に調理方法を教えてください」


リジーさんとコウルさんが椅子から立ち上がって頭を下げる。

周りの冒険者たちが、こちらに視線を向けたのが分かった。


「頭を上げて座ってください。調理方法はすぐ教えますので」


私の言葉に2人が嬉しそうな表情をする。


「あの、ここに来るまでに2人で色々考えたんです。本当に美味しく食べられる調理方法なら、しっかりと契約をしようと」


契約?


「漬けタレを商業ギルドに登録していただけませんか? それで我々に専売させていただきたいんです!」


専売?

コウルさんたちが漬けタレを一手に扱うって事かな?

でも、ややこしくない?


「なるほど。漬けタレを登録したら、似たタレが無いか調べてくれるからな」


お父さんの言葉に「なるほど」と頷く。

焼きおにぎりのソースも商業ギルドに登録して、他に似たソースが無いか調べてもらったよね。

漬けタレも同じことをしてもらうって事だよね。

でも専売は初めてだ。

初めてだよね?

焼きおにぎりのソースは専売じゃないよね?

えっと……思い出せないな。

商業ギルドに登録するとかすごい話になって……あっ、考えている間に色々決まっていたんだった。

何か話したような気がするけど、今では思い出せないや。


「あの、別にアイビーさんを疑ったという事ではないんです」


ん?


「ただ、メルメ専門店を開いた時に色々あったというか…」


もしかして騙された経験でもあるのかな?


「商業ギルドに登録して調べるのは、良い方法だと思いますよ」


「「えっ!」」


そんなに驚く事かな?

商売をしているなら、扱う商品が本当に「安全」なのか調べるのは当たり前の事。

商業ギルドに登録して「安全」が得られるなら、2人がお願いした事は決して間違いではない。


「嫌な気分になりませんか?」


リジーさんの言葉に首を横に振る。

リジーさんがお父さんへ視線を向けると、お父さんも首を横に振った。

それを見て肩の力が抜けるリジーさん。

あんなに食べた後に、そんなに緊張して気分が悪くなったりしないかな?

お茶はあるけど、水も用意した方がいいかな?


「水、いりますか?」


「水ですか? いえ、大丈夫ですよ」


リジーさんの胃は丈夫なんだな。


「そうですか」


「コウルさん、詳しい取り決めをしますか?」


お父さんがテントから防音のマジックアイテムを取り出して起動してから机に置く。

これで周りに会話を聞かれることは無い。

それにしても、師匠さんから貰った防音アイテムが付いている机が無いと不便だな。

そろそろ整備が終わって戻って来るかな?


「えっと、お願いします」


お父さんとコウルさんとリジーさんが話すのを聞いていく。

調理方法と漬けタレをソースとして商業ギルドに登録。

他に同じようなソースが無いか確認してもらい、登録したらコウルさんと専売契約。

漬けタレを使う場合は、コウルさんと取引をする事になる。

あれ? 

焼きおにぎりのソースともしかして一緒?

……まぁ、良いか。

今日できる話は全て終わり、4人でお茶の時間。

マジックアイテムのボタンを押して、動作を止めホッとする。


「どうやって広めるんですか?」


「友人の屋台を借りる予定です。その友人は怪我で少し休んでいるので」


コウルさんは自信があるみたいだな、成功するって。


「でも、この村の人たちはメルメの味は知っているから、うまくいくかどうか心配で」


リジーさんは心配そう。

確かにこの村では、メルメの肉が美味しくない事は有名。

屋台の宣伝文句で美味しくなったと書いても、信じてくれないよね。

何か切っ掛けがあればいいんだけど。

焼きおにぎりの時は香りに誘われて子供たちが集まってくれた。

今回も香りで集まってくれるかな?

駄目だ、強敵がいる。

ラッポの包み焼が本当にいい香りだもんね。

切っ掛け……一口でも食べてくれたら、きっと印象は変わると思うけど。


「あっ、そうか、一口だ!」


「一口?」


リジーさんが私を不思議そうに見つめる。


「はい、一口に切ったメルメを味見用で配るんです」


「味見?」


「そうです。無料で一口だけ食べてもらうんです。無料だったら、試してみようという人がいるかもしれないですし」


人から人への口コミはすごい力がある。

焼きおにぎりの時が、それで大変だったもんね。


「それいいな。今日の2人を見ていたら、一口でも食べさせたら勝負ありって気がするよ」


お父さん、これは勝負じゃないけど。

コウルさんとリジーさんを見ると、食べている時を思い出したのかちょっと恥ずかしそうにしている。


「いつもあんな風にがっついてはいないですよ!」


リジーさんと視線が合うと、必死な表情で言われた。

それにコウルさんが噴き出し、私もお父さんも笑ってしまう。

あれ?

笑い声が多い?

周りを見ると、隣の女性だけのグループの人たちが肩を震わせているのが見える。

どうやら耐え切れず笑ってしまったらしい。

リジーさんを見ると、真っ赤になった顔で机に突っ伏している。


「ごめんなさい。聞こえてしまって」


「いえ、良いんです。大丈夫です」


リジーさんが声を震わせながら答えるのだけど、それも笑いを誘ってしまっている。


「屋台はどのあたりに出すの?」


「えっ? 大通りを奥に向かって、角を5本すぎたあたりにあります」


「分かった。いつから食べられるの?」


あれ?

もしかしてお客さんとして来てくれる?


「えっと、明日は商業ギルドに登録しに行って、そこで許可を貰って、だから明日からかな?」


「リジーさん、タレ漬けは1日置いた方がいいから明後日からの方がいいと思います」


「そうなんだ。分かった。明後日からです」


ん?

リジーさんの顔が少し赤い?

そう言えば、夕飯の時にお父さんが買ってきたお酒を飲んでいたな。


「お詫びに食べに行きますね」


「絶対、絶対ですよ! お願いしますよ!」


もしかしてちょっと酔ってる?

お父さんを見ると、苦笑を浮かべている。


「リジーさんは酔っ払ってる?」


「あぁ、多分。それにあっちのグループも」


お父さんが女性グループの机を指す。

見ると大量の酒の瓶。


「明日起きたら、覚えてるかな?」


せっかくのお客さんだったんだけどな。


377話でお父さんの腕が両方あるような表現になっていました。

申し訳ありません。

教えてくださり、ありがとうございます。

修正いたしました。

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― 新着の感想 ―
[一言] (肉の)漬けタレ タレ漬け(の肉)
[気になる点] 漬けタレとタレ漬けが混在してるので統一された方が読みやすいです。 商業ギルドに登録する話がここで出てきましたが、やはり前回の話の時点で出てくるべきだと思いますし、それが当たり前の世界…
[気になる点] もしかして無料でレシピを教えるのはアイビーが奴隷落ちする話に持って行く為ですか?利権が何よりも大切な世界設定ですし
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