371話 前にもあった!
「ドルイドさんとアイビーちゃんか」
アイビーちゃん?
慣れていない呼ばれ方にフィーシェさんを見つめてしまう。
「ごめんな。あいつの娘がアイビーさんと同じくらいの年齢なんだ。で、その子をちゃん付けで呼んでいるから無意識だと思う」
ガリットさんが申し訳なさそうに説明してくれる。
それに笑って首を振る。
別に慣れていないだけで嫌ではない。
それにちゃん付けで呼ばれた事もある。
「呼び方は別に問題ないです」
私の答えにガリットさんが嬉しそうに笑う。
仲間の事だから心配だったのかな?
「何があったかご存知ですか?」
お父さんの質問にガリットさんが森を見る。
「ドルイドさんは、森に何か感じているか?」
「はい。気配も魔力も感じませんが何かがいるとは思っています」
お父さんの言葉にジナルさんが頷く。
「俺たちと同じだな。アイビーさんはどうだ?」
「私は何も感じません」
「そうか。やはり上位冒険者だけが感じているな」
ジナルさんが小さくため息をつく。
彼は肩までの少しくすんだ青の髪に目の色は鮮やかな青。
「上位冒険者だけ?」
「あぁ、そうなんだ。中位冒険者数人に訊いたが分からないと言われた」
ガリットさんは短髪の緑の髪をしていて目の色は黒。
この2人は40代ぐらいで落ち着いた雰囲気がある。
もう1人私をちゃん付けするフィーシェさんは、他の2人と同じぐらいの年だと思う。
でも、どこかやんちゃというかそんな雰囲気があるため2人より若く見える。
いや、もしかしたら一番若いのかもしれない。
特徴的なのは長い銀色の髪、目の色は緑だった。
「ジナルさんたちは、どんな風に感じているのですか?」
私の質問に考えこむ3人。
「そうだな。ぞわっとした恐怖と不気味なモノを感じる」
ジナルさんの言葉にガリットさんが頷く。
「俺も同じだな。すぐに周りを探るんだが見つけられない。気配はないし魔力の揺れもない」
「そうですか」
「俺は少し違うな。存在を感じるし見られているような気がする」
見られている?
それってもしかして近くまで来ているって事?
「はぁ? フィーシェ! そういうことは早く言え!」
あっ、知らせてなかったんだ。
3人のやり取りに、お父さんが小さく笑っている。
ガリットさんとジナルさんは大きなため息を吐いていた。
「気配を感じなくて魔力を感じない……あれ?」
どこかで同じような事を言った気がする。
何処でだっけ?
確か、森の中の捨て場……魔物が襲ってきて。
「あっ! 森の中で襲ってきたあの魔物だ!」
「「「「えっ?」」」」
襲われて怖かった印象が強くて忘れてたけど、あの魔物だ!
ハタヒ村に向かっている最中に見つけた、違法な捨て場。
あそこで襲われたあの時だ。
あの時、襲い掛かってきた魔物は気配も魔力も感じなかった。
あっでも、あの時は私にも何かがいると感じることが出来た。
シエルもある程度近くに来れば、場所の特定が出来たみたいだし。
似てるけど違う?
「アイビー、どうした?」
呼ばれる声に、考え込んでいた意識が戻ってくる。
周りを見ると、心配そうに見られている。
「大丈夫か?」
お父さんも心配そう。
でも、今はそれより確認したいことがある。
「お父さん。ハタヒ村に入る前なんだけど、森の中で違法な捨て場を見つけた時の事を覚えてる? すごく広い捨て場だったんだけど」
「……あぁ、覚えてる。違法な捨て場にしては大きくて……あっ! あの時の魔物」
良かった、思い出してくれた。
「そう! その捨て場近くで、何度か魔物に襲われたでしょ? その襲ってきた魔物が今回と似ている気がして」
違うところもあるんだけど。
「ドルイドさん、アイビーさん。どういうことだ?」
ジナルさんが神妙な表情で訊いてくる。
「ハタヒ村に向かう途中で魔物に襲われたんですが、その時の魔物が気配も魔力も感じさせなかったんです。ただ。あの時は、近づけば存在を感じる事は出来たんですよ」
「私も近くに来られると何かがいるという事は分かりました。なのでまったく一緒というわけではないのですが」
そう言えば、あの時は何を感じたんだろう。
魔力ではないし気配でもなかった。
いや、魔力だったのかな?
「魔物の種類は分かっているのか?」
「種類というより、違法な捨て場の魔力で突然変異したと思っている」
「ゴミの魔力か……」
ガリットさんが嫌そうな表情をする。
「もしそうなら、最悪な状況かもしれないな」
ジナルさんがため息をつきながら頭を掻く。
ゴミの魔力だと最悪な状況?
何かあるのかなと首を傾げる。
「ゴミの魔力に何かあるんですか?」
「ここ数年でゴミの処理能力がぐっと下がった事は知っているか?」
フィーシェさんの質問にお父さんと私は頷く。
少し前だけど、問題が起こっていることは知った。
ジナルさんが私たちの様子を見て話しだす。
「王都の隣のカシメ町でゴミの魔力を食った魔物が暴走したんだ」
「そんな事が?」
王都周辺はテイマーが多くいると聞いているのに、違うの?
「テイマーは多いが、年々処理能力が落ちていたからな。なのに王都やその周辺は人が増えている。まぁ、結果は分かるだろう。人の制限をしなかったから起きた事だ」
なるほど。
「魔力を食って暴走する魔物は時々現れる。だが、その暴走した魔物が強力な魔法を持っていた」
「強力な魔法ですか?」
お父さんの疑問にガリットさんが頷く。
「そうだ。火魔法だったんだが、数名の冒険者が一気に灰になったそうだ」
灰?
上位魔物でも、人を一気に灰にするのは難しいよね?
「それは、カリュウレベルという事ですか?」
「結果から見ればそうなる」
カリュウ。
確か火の魔法を得意とする上位魔物のリュウだよね。
ゴミに残っている魔力を食べてそれほどの力が手に入るの?
「あの」
「どうした?」
ガリットさんが、私を見る。
「ゴミの魔力は微々たるものですよね。かなりのゴミが集まっても、カリュウと同じ力を得るとは思えないのですが」
それほどの量のゴミがあったという事?
それはそれですごすぎるけど。
「王都から来た調査員たちも似たような事に疑問を感じていたらしい。でも、異常に力がある魔物の暴走が数件続いたんだ。だから結果としてゴミの魔力を魔物が食べると、強力な力を得る可能性があるという結論になったそうだ」
「しっかり調査が出来たわけじゃないから、間違いないとは言えないと調査した奴らが言ってたよ」
フィーシェさんが肩を竦める。
「終わったみたいだな」
ジナルさんの言葉に門へ視線を向ける。
怪我人だった人たちも自警団の人たちも村へ戻っていくのが見えた。
「村に戻ろう。ここに居たら危ないかもしれない」
門へ視線を向ける。
あれ?
門番さんの数が増えている。
「守りを増やしたな。通常の3倍か?」
ジナルさんが村に向かって歩き出す。
ガリットさんが私とお父さんにどうぞと手で示すので、軽く頭を下げてジナルさんに続く。
「やっぱ、さっきの冒険者の怪我は得体のしれない魔物の可能性が高いな」
フィーシェさんの言葉にジナルさんもガリットさんも頷く。
先ほど倒れていた人たちを思い出して、自分が襲われた時の事を思い出す。
あれは怖かった。
「大丈夫だ」
その声に、お父さんを見ると私の頭をポンと撫でてくれた。
「うん」
優しく撫でてくれる手に知らずに力が入っていた体から力が抜ける。
「思い出せてよかった」
「ん?」
私の独り言が聞こえたのかお父さんが私の顔を覗き込んでくる。
安心させるように笑うと、もう一度ポンと頭を撫でられた。