369話 調査隊
商業ギルドを出て背伸びをする。
既に何度も商業ギルドに売りに来ているけど、毎回緊張する。
いつか慣れる日がくるのかな?
「疲れた?」
「ん~ちょっと。お父さんの言ったとおりだったね。リスコは高かった」
「そうだな。でも、例年より安いと言っていたけどな」
お父さんが教えてくれた通り、リスコは高級果物だった。
ただ、去年から今年にかけて森で豊作だったらしく、いつもより安値で取引されていた。
「安いって言っても十分な値段だったよ」
「まぁ、リスコの自生している場所が森の奥だからな」
森の奥には強い魔物が多く、それだけ収穫数が減る。
なので美味しさなどではなく、森の奥にある物がすべて高額取引となる。
大通りの店を見ながら門へ向かう。
「お昼を買って行くか」
「うん。そうしよう」
「かなり余裕が出来たしな」
確かに、リスコは高額で取引できると予想していたが、予想外に高額だったものがあった。
それが、ハタヒ村の森の奥で収穫した木の実。
お父さんも私も、普通の森に生育している木の実だと思って収穫した。
が、よく似ているが持ってきたのは薬になる、かなり珍しい木の実だったらしい。
これが予想の20倍の高値で売れた。
しかも普通の木の実だと思っていたので、沢山持ってきていた。
「何を食べる?」
「パン食べたい。久しぶりに白いパン」
「ははっ、分かった。あとはおかずになりそうなものを買って行こう」
屋台を見ながら門へ向かう。
途中でお父さん希望の串に刺さった肉と私希望の『さんどいもどき』。
この村にもサンドイッチに似た、白いパンを使った『さんどいもどき』があった。
「ん? あれは」
お父さんが立ち止まって門を見つめる。
視線を追うと、10人以上の冒険者たちが集まっているのが見えた。
「なんだろう?」
「もしかしたら調査隊かもな」
そう言えば門番の人が「明日辺り、調査隊が組まれる」と言っていたな。
集まっている冒険者たちを見る。
どの人もお父さんぐらいで若い人の姿は無い。
それに人数もそれほど多くない。
調査隊だから少なくてもいいのかな?
でも、異変を調査しに行くのだから危険だと思うんだけど。
「調査隊は人数が少ないんだね?」
「あぁ、ちょっと少なすぎるな。それに見た感じ上位冒険者だけで組まれているようだ」
すごいな、見ただけで判断できるんだ。
「どこで上位冒険者ってわかるの?」
「ん~、持っている武器とか体つき。あとは雰囲気とか。全体的な印象かな。悪い、説明は難しい」
経験で積み重なった雰囲気とか?
そんな感じかな。
「何かわかるといいね」
「そうだな」
冒険者たちが門から森へ出ていくのを見送る。
無事に調査が終わって、問題ないとわかればいいな。
「行こうか」
「うん」
門番さんに挨拶をして森へ行く。
今日の門番さんは、昨日対応してくれた人とは違う人だった。
ちょっと無愛想な印象の男性。
昨日の門番さんはさわやかな印象だったので真逆な印象だ。
「さてと、捨て場はどっちだろうな」
お父さんが門から出て地面を見つめる。
ゴミを捨てに行く時は台車を使う事が多いので、その跡を探せれば早く捨て場を見つけられる。
若葉や落ち葉などで見えない事も多いが、この村の門の周りは砂地。
おそらく見つけられるだろう。
「あった。あっちだな」
お父さんが示す方向へ歩き出す。
「何か感じる?」
森へ視線を向けているお父さんに問いかける。
私に視線を向けたお父さんは首を横に振る。
「いや、何も感じない。気のせいだったにしても不気味だったからな」
「気のせいという事は無いと思うけど。この村の上位冒険者たちも感じたんだから」
私の言葉にポンと頭に手を乗せるお父さん。
「そうだな。でも、気のせいの方がいいような気がするけどな」
確かにそうだけど。
ん?
「うわ~」
「これはちょっとひどいな」
台車の跡を追って捨て場に向かっていると、しばらくして見えた捨て場。
その状態にちょっと引いてしまう。
どの村も町もある程度捨て場は管理していた。
それはテイマーたちが仕事をしやすいようにするため。
が、目の前の捨て場は一切管理をされている様子がない。
そのため、ごちゃごちゃしている。
特に危ないのはマジックアイテムと剣。
使い切っていると思ってもマジックアイテムは少量の魔力が残っている。
だから、捨てる時も気を付ける必要がある。
それがこの村では乱雑に捨て場に放り投げられている。
しかも、後から後から気にせずに捨てていったのだろう、雪崩が起きそうなほど山積みになっている。
「危ないな」
お父さんの言葉に頷く。
これはちょっと問題がある。
ソラたちが食べている時に、ゴミが崩れてくる可能性がある。
「どうしよう?」
「ソラたちのポーションは俺たちが集めればいいが、ソルはどうする? 俺たちがマジックアイテムを捨て場から外に持ってきてもいいが、それだとソルは思いっきり食べられないよな」
「うん。せっかくだから思いっきり食べさせてあげたいんだけど」
カラカラカラカラ。
ゴミの山を見ていると、強い風が吹くたびに小さなゴミがころころ転がっている。
やはり危ない。
「ソラたちに訊いてみるか?」
「そうだね。ちょっと待ってね」
ソラたちを入れているバッグの蓋を開ける。
すぐにソラたちがバッグから出てきて嬉しそうに私たちの周りを飛び回る。
「ソラ、フレム、ソル。捨て場に来たんだけど、ゴミが雪崩を起こしそうなの。入って食事にする?」
私の言葉に3匹が捨て場に視線を向ける。
じっと捨て場を見つめる3匹。
もしかして、捨て場の状態がすごくて固まっているのかな?
「問題がありそうなら、私とお父さんが捨て場の外にゴミを持ってくるよ」
「沢山持ってくるから安心しろ」
私とお父さんの言葉を聞いた3匹は、ピョンと捨て場に向かって飛び跳ねる。
これは自分たちで食べるって事かな?
首を傾げて3匹の様子をじっと見る。
「ぷっぷぷ~」
ソラが鳴くと、フレムとソルも続けて鳴き、捨て場に入っていく。
「大丈夫かな?」
「ん~、見失わないように気を付けておこう」
お父さんの言葉に頷くと捨て場に近付く。
何かあった場合に対処が出来るようにしておく。
「それにしても、森の中に違法な捨て場は無かったから管理がしっかりされていると思ったが、ここだけ見ると違うな」
「うん。この捨て場に、この村のテイマーは仕事をしに来るんだよね?」
「そのはずなんだが」
お父さんが眉間に皴を寄せる。
私も少し気分が悪い。
だってこんな危ない場所で、大切な仲間に仕事をさせるなんてと思ってしまうから。
「ちょっと整理すればいいだけなのに」
もしかしてこの村のテイマーたちは皆、テイムした魔物が大切ではないのかな?
ハタヒ村でテイマーたちの事を聞いて、大切にしない人の方が多い事を知った。
なんだか悲しくなってきた。
「早くそれが間違いだと、伝わればいいのにな」
ソラたちを見る。
ゴミの上でグラグラ体が揺れているので、正直怖い。
でも、どこか楽しそうな3匹にちょっと心が晴れる。
「あいつら、楽しみだしてないか?」
お父さんの言葉に3匹をじっと見る。
確かにわざわざ不安定なゴミの上に乗って、楽しそうにグラグラ揺れている。
「こっちは心配しているのに」
「まぁ、ソラたちだからな」
その言葉に納得してしまう私も駄目なんだろうな。
「危ないよ。気を付けてね!」
「ぷっぷぷ~」
「てっりゅりゅ~」
「ぺふっぺふっ」
「そんな所で飛び跳ねないで!」
「あははははっ」
私の叫びにお父さんが大笑いした。
3匹は落ちてきたゴミをよけながら、楽しそうに食事をしている。
あれ?
心配する必要なかった?