367話 違和感?
後2、3日でハタカ村に着く。
その予定なのだけど、お父さんの様子がいつもと少し違う気がする。
それに、シエルも何だかソワソワしている。
「どうしたの? 昨日からちょっと様子が変だよ?」
「ん? 悪い。どうも森の様子がおかしいと思ってな」
森の様子?
周りを見渡す。
春になり新芽が出て、森が一気に生き返ったように生き物たちが動きだしている。
お父さんが言う「おかしい」が分からない。
「特に何も感じないけど」
気配を広範囲で読もうと、集中するもやはり何も引っかからない。
確かに遠くに魔物の気配も近くに小さな動物の気配もする。
でも、違和感を覚えるような気配はない。
「不安にさせたか? 悪いな」
「それは大丈夫。どうおかしいの? シエルも何か感じているみたいだし」
「にゃうん」
お父さんの視線がシエルに向く。
シエルも今日の朝ごろからずっといつもより落ち着きがない。
「どういえばいいかな。いつもと同じに見えるんだが……何か感じるんだ」
ん?
感じる?
「シエルには原因が分かってるの?」
無言という事は分からないのか。
「お父さんと似たような感じ?」
「にゃうん」
長く冒険者を続けていたお父さんと、森を知り尽くしているシエルだからこそわかるのかもしれないな。
「このままハタカ村に行っても大丈夫?」
「ハタヒ村に届く噂ではギルマスと団長の仲が悪いという事だけだったからな。問題は無いはずだが」
次の村はギルマスさんと団長の仲が悪いのか。
今までは比較的仲がいい村や町ばかりだったから、なんだか新鮮。
って、トップ2人の仲が悪いって駄目でしょ!
「その村、大丈夫なの?」
「あ~。まぁ、大丈夫かな。行ってみて村の様子を見てから滞在するか決めよう」
「分かった」
それからなるべく睡眠時間を少なくしてハタカ村へ向かう。
寝る時もお父さんと交代で見張りを?行った。
「大丈夫か? ここ3日は2時間ぐらいしか寝られていないだろう?」
「大丈夫だよ。5日間、寝ないで歩き続けたことがあるから」
あの時は、記憶があやふやで本当に5日目だったのかも怪しいけどね。
多分5日目で倒れたはず。
いや、6日目だったかな?
「5日間? それは駄目だ。アイビーの体には負担が大きすぎる」
「今はお父さんもシエルもいるからしないよ。1人の旅だった時の話だから」
「それなら仕方ないのか。あっ、門が見えてきたな」
お父さんの視線を追うと、木で出来た門が見えた。
ハタヒ村の門が派手だったので、ものすごく素朴に見える。
こっちが普通なんだけどね。
「ん?」
歩いているとお父さんが不意に立ち止まる。
そして歩いてきた後ろを振り返りじっと森を見つめる。
私も一緒に振り返るが、何も感じない。
魔物の気配もしない。
本当に何なんだろう?
「あれ?」
様子がおかしい事に気付いたのか、バッグから揺れを感じる。
「大丈夫だよ」
「やっぱりわからないな」
ため息を1つ吐き、私の背中にそっと手を添えるお父さん。
「行こう。なんだかちょっと嫌な感じだ」
少し足早にハタカ村の門へ向かう。
門番さんは私たちの姿を見ると、笑みを見せる。
「こんにちは、証明書の提示をお願いします」
ギルドカードをそれぞれ出して、入村許可をもらう。
「これがこの村の許可証です。紛失した場合は、購入になりますから注意してください」
門番さんから許可証を受け取り、お礼を言う。
「失礼、最近何か異常はありませんか?」
お父さんの言葉に少し神妙な表情をする門番さん。
やはり何かあるのだろうか?
「俺は分からないのですが、上位冒険者の方たちが森に異変があるとギルマスに報告したそうです」
やっぱり何かあるんだ。
お父さんを見ると何か考え込んでいる。
「その異変の正体が何かわかっていますか?」
「いえ、不明です。明日辺り、調査隊が組まれると噂されています」
「そうですか。ありがとうございます」
お父さんはお礼を言うと、門からハタカ村へ入る。
続いて私も村に入る。
他の村同様、門からすぐに大通りになっており左右にはお店が並んでいる。
「なんだか少し活気が抑え目だね」
「賑やかな村を見てきたからか、少し人の活気がないような気がする」
お店や、働く村の人たちの様子を見ながら広場を目指す。
そろそろ冒険者たちの喧嘩も落ち着いてきただろうと判断し、広場でテントを張る予定にしている。
広場を見て最終判断をするとお父さんは言っていたけど、おそらく大丈夫だろう。
「あそこだな」
見えた広場はそれほど大きくはないが、しっかりと整備されている。
調理場があり、水も自由に使えるようになっているみたいだ。
「冒険者たちも落ち着いているな」
広場の入り口で立ち止まりお父さんが全体を見渡している。
「こんにちは、広場に泊まる予定ですか?」
女性の声に視線を向けると、門番さんと同じ制服を着た女性が立っている。
「こんにちは、広場の様子はどうですか?」
「随分落ち着きました。冬が厳しかったため、春になってすぐにここより稼げる村や町に出発していきましたから。喧嘩は酒を飲まれて暴れるぐらいですが、すぐに対処出来ていますので、被害は出ていませんよ」
「ありがとう。では、広場を使わせてもらえますか?」
「もちろんです。許可証を出してもらえますか? そこに追加するので」
許可証に追加?
門番さんに借りた許可証を取り出し、お姉さんに渡す。
箱型のマジックアイテムの中に許可証を入れてボタンを押す。
数秒で箱がぱかっと開くと、許可証に黒い紐が付いていた。
「この黒い糸は広場の使用許可となります」
「初めて見るアイテムです」
「ふふっ、このマジックアイテムは珍しい物だからちょっと自慢なんです」
やっぱり珍しいのか。
今まで見た事ないアイテムだもんな。
「はい。そうだ、何か困ったことがあったら声をかけてくださいね。私はパフィーと言います」
「ありがとう。俺はドルイドで娘のアイビーです」
「パフィーさん、短い間ですがよろしくお願いします」
「こちらこそ、気軽に声をかけてくださいね。では」
パフィーさんと離れて広場を見て回る。
テントを張る場所は調理場からそれほど離れていない場所がいい。
「あそこは?」
適度な場所が空いているのを見つけてお父さんに訊く。
「ん~、やめておこう。あっちにしよう」
お父さんが指す方向を見る。
私が言った場所より少し調理場から離れている。
「どうしてあっち?」
「隣になるのが女性のグループと家族のテントだ」
えっ?
お父さんの言葉に首を傾げる。
なぜなら、両隣になるテントには人影は無い。
あるのはテントとその前に並べられた机や椅子、あと小物。
どうして女性のグループや家族のテントだとわかるんだろう?
「どうして女性のグループや家族のテントだと思ったの?」
テントを張るのを手伝いながら、お父さんに訊く。
お父さんが指をすっと隣のテントに向ける。
それを追うと、洗って干してある食器があった。
「子供用のスプーンとフォークがある」
確かに、子供用の食器などが2組ずつある。
私は、食器が干してある事は確認したけれど、それが何かは気にしなかった。
それに子供用とは言え、大人用とあまり変わらない大きさの物だ。
近くに来ないと見分けがつかないような気がした。
頷くと、もう一度お父さんが今度は逆のテントを指す。
その先には……カゴ?
よく見れば、リボンや髪留めなどが多数テーブルの上に纏めて置かれている。
「男性用の物が何1つ無かったからな。まぁ、予想だから絶対ではないが」
なるほど、カゴの中身は確かに女性が好みそうな物ばかり。
男性専用の物は見つけられない。
先ほど話をしていた場所を見る。
あの場所から食器にしろカゴの中に入った小物にしろ、よく区別がついたな。
「お父さんは視力がいいよね」
「普通だろ?」
絶対それは無い。