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366話 初めての釣り

「これでいい?」


「あぁ、針の先に餌を付けたら準備完了。あとは川の真ん中あたりに放り投げて待つんだ」


お父さんに釣りの仕方を教わりながら、針に餌を付ける。

川の真ん中あたり……何度か頭の中で投げる様子を繰り返してみる。

よし、多分出来るはず。


「いけっ!……あれ?」


目指した真ん中より随分と手前に落ちてしまったが、仕方ない。

まずはこれで川魚が掛かるのを待とう。

初めてだし、仕方ないよね。

予定ではうまくいくはずだったんだけどな、残念。


「もう少し手首を使ったら、うまく糸を真ん中まで飛ばすことが出来るぞ」


「手首? 分かった。次の時にやってみる」


お父さんの様子を見る。

確かに手首を使って糸を遠くに飛ばしてるみたい。


「コツを掴めば、うまくいくようになるだろう」


お父さんの言葉に頷いて糸の先を見る。

川魚が掛かったら、引っ張られるからわかるらしい。

……まだかな?


ハタヒ村とハタカ村の中間に大きな川が通っている。

その川にはお父さん曰く、すごく美味しい川魚がいるらしい。

話を聞いてどうしても食べたくなった。

なので釣る事にしたのだけど……どれくらい待てばいいのだろう?

お父さんを見ると、普通に待っている。

ぼーっと待つのが正解らしい。


「ん? アイビー、糸が引っ張られてないか?」


「えっ?」


確かにちょっと木の竿がつんつんと何かを伝えてくる。

これが引っ張られてるって事?

こんな小さな手応えなの?

驚きながら竿を動かして、糸を手繰り寄せる。

木の竿についている小さな木にくるくる糸を巻き付けていく。


「ゆっくり、ゆっくり。逃げられないように慎重にな」


ゆっくり?

木に糸を巻き付けるのが早いのかな?

ゆっくり、ゆっくり。

糸がくいっと力強く引っ張られるので、川の中を覗き込む。


「あっ、本当に掛かってる!」


糸の先には懸命に泳ぐ川魚。

一生懸命逃げようとしている姿に焦ってしまい、木の竿を持ち上げてしまう。


「あっ、まだ早い!」


「えっ?」


パシャン。

ん?


「あ~、逃げられたな」


「逃げられた?」


糸の先を見ると針が見えた。

川魚はかかっていない。

嘘、さっきまでそこに川魚がいたのに!


「はぁ~、釣りって難しいね」


「のんびり待って、ゆっくり釣り上げるのが基本かな」


よしっ、次こそは!

針の先に新たな餌を付けて、川の真ん中へ。

あれ?

まったく違う場所にいっちゃった。

お父さんみたいに手首をカクンって動かしたのに、何が違ったんだろう?

糸の垂れている先を見る。

さっきより落ちた場所が悪いような気がする。

まぁ、川は繋がっているし大丈夫でしょ。

さて、のんびり待つか。


「…………のんびり待つのが正解なんだろうけど、何かしたくなるな」


何もせず待つのって、結構難しいな。

パシャパシャ。

水の跳ねる音に、視線を向けるとお父さんが川魚を釣り上げていた。


「すごい! 大きいね」


「この大きさだと、まだ小さいくらいだ」


「そうなの? 私の両手ぐらい?」


「それよりは少し小さいかな?」


釣った魚をカゴに入れて川につける。

これで生きた状態で確保しておける。


「アイビー、頑張れ」


「う~ん、難しいよ」


話を聞いている時は簡単そうだったのに。

そう言えば、手動で動かす罠で蛇を捕まえた時も大変だったな。

じっとしていると何だか動きたくなるし、時間がもったいないような気がして。


「アイビーは待つのが苦手かもな」


そうかもしれない。

じっと待っていると、損した気分になるというか。

その待っている間に何かできる気がしてしまう。


「そうだと思う」


「まぁ、これからの事も考えて待つ練習だな。1匹は頑張って釣らないとな」


「練習か。わかった。最低1匹!」


……と言っても、まったく糸が動かない。

餌だけ食べられたって事かな?

一度上げて餌がついているか見てみる?

でも、上げた時に餌を食べようとしていたら?

って、そんな様子は無いな。

もしかして場所が悪いのかな?

だったらこの場所から移動した方がいいよね。

場所を変えてみる?

え~、どうしよう。


「動きが無かったら、場所を移動してみてもいいぞ」


「やっぱり、そうだよね!」


よし、場所を移動しよう。

糸は一度回収して餌がついているか確かめておこう。


「餌はまだ付いていたか?」


「うん。ちゃんとある」


「なら場所が悪かったのかもな? 岩陰があるような場所は良く釣れるぞ」


「本当? あの場所はどう?」


少し離れた場所にいい岩陰がある。

それを指さすとお父さんが頷いた。


「あそこで問題ないだろう。よしっ、掛かった!」


お父さんの嬉しそうな声に視線を向けると、2匹目の川魚を釣り上げようとしている所だった。

すごい上手だな。

よし、次こそは私も!


「ぷっぷぷ~」


理想の場所に糸が届くように、何度も手首を動かして糸を飛ばす印象を作る。

次こそは届きますようにと竿を握ると、ソラの声が聞こえた。

見ると、ぴょんぴょんと私の足元にやってくる。


「おはよう。よく寝てたね」


旅の疲れか、お昼を食べたらソラたちは熟睡。

少し離れた木の下を見ると、シエルとフレムとソルがくっ付いてまだ眠っている。

冬の初めから春のお祭り終了まで、行動を色々と制限させてしまった。

なので思う存分連日遊ばせたら、どうも疲れ切ってしまったようだ。


「ぷ~?」


「ん? これ? これは竿だよ。針の先に餌を付けて川に入れて川魚を釣るの」


「ぷっぷぷ~」


理解したのか、楽しそうに揺れてピョンと私の頭に乗ってくる。


「うわっ、今日はそこにいるの?」


頭の上にある重さにちょっとふらつく。

重くはないが、いつも感じない重さは違和感がある。


「ぷっぷぷ~」


「仕方ないな」


まぁ、待っている間は大丈夫でしょう。

よしっ、まずは糸をあの岩陰に届けよう。

ん? 

あれ?

ちょっとソラが邪魔に……いや、出来るかな?

頭を動かさないように、手首だけで……。

ヒュッ。


「あれ? うまく出来た?」


目指した場所の近くに届いた事を確認してちょっと唖然としてしまう。

ソラが落ちないように気を付けていたので、今までとちょっと感覚が違ったんだけど。

もしかして、頭を動かさないように気を付けたのが良かったのかな?

いま、手首だけで飛ばしたもんね。


「ぷ~?」


「あっ、多分ソラのお陰かな? ありがとう」


次の時に頭を動かさないように気を付けながらやって検証してみよう。


「おっ。今度はうまくいったな。コツを掴めたか?」


「ん~、まだ何となくかな?」


「そうか。1回コツを掴むと次からはうまくいくようになるよ」


お父さんの言葉に頷いて、川魚がかかるのを待つ。

近くに大きな岩があったので座って待つ。

頭の上ではソラがちょっとゆらゆら揺れている。

もしかして寝てる?

そう感じて、手を頭にもっていく。

ゆっくり撫でると、やはり寝ている様子。


「まだ疲れているのかな? ゆっくり寝てね」


ふわ~、眠いな。

のんびりしていると、眠気が……。

それにしても気持ち良いな。

歩くと既に汗をかくほどだけど、川辺は風がまだ少し冷たい。

太陽があたるとちょうどいい感じ。


「……………………」


「ぷ~!」


「ん? ソラ? えっ、あっ!」


ソラのちょっと大きな声に意識がはっとする。

慌てていると掴んでいた木の竿がくいっ、くいっと引っ張られていることに気付いた。


「ソラ、ありがとう」


えっと、さっきより引きが強い。

でも、負けない。

ゆっくりと糸を木に巻き付けていく。

ゆっくり、ゆっくり。


「やった~! ソラ釣れたよ! 釣れた!」


「ぷっぷっぷっぷ~」


気が付いたら頭から降りたソラが隣で嬉しそうに飛び跳ねている。

それに笑顔でお礼を言う。


さて、針から川魚を外してカゴに入れるんだったよね。

カゴは、


「はい、カゴ」


目の前に出されたカゴを受け取る。


「ありがとう、お父さん」


「初めてにしては、立派なのを釣ったな」


目の前の川魚は私の両手より大きい。

初めての釣りは、たった1匹だったけど楽しかった。

お父さんは6匹も釣っていた。

やっぱり上手。


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― 新着の感想 ―
アイビーはリール的な装置が付いた竿を使ってみたいだけど。ドルイドさんは片手だからリール的な装置は使えないから延竿で釣りをしてたのかな?
[良い点] ソラを装備?したことによりステータスが上昇? 無事、魚を釣ることが出来ました!!
[一言] ほのぼのいいですね。やっぱりソラと一緒のアイビーちゃんは才能開花が早いので面白いですね。ある意味ではアイビーちゃんを一番理解しているのはソラなのかもしれませんね。
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