365話 お金の話は駄目!
「よしっ! 準備完了」
旅の準備を整えて部屋の中を見渡す。
ゴミは捨てたし、忘れものもない。
部屋を出る時に、ソラたちをバッグへ入れたら完璧。
「よしっ、終了。アイビー、そろそろ出発していいか?」
「うん、大丈夫」
祭りが終わって既に16日目。
もう少し早く出発するつもりが、色々ありずるずるとハタヒ村に長居してしまった。
その間に、テイマーの意識改革は少し改善の兆しが出てきたとアシュリさんが嬉しそうに話してくれた。
やはり話して説得するより、見せる方法の方が良かったらしい。
ただ「忙しくなった」と、ゴルさんにはちょっと愚痴を言われた。
アシュリさんの魔物に対する恐怖心は改善されてはいないが、気長に付き合って必ず克服するとお父さんに宣言していた。
アシュリさんのお父さん、アラシュさんに「ドルイドさんたちのお陰で、息子は強くなった」とお礼を言われた。
特に何もしていなかったので、ちょっと戸惑った。
とりあえず、皆いい方向へ進んだみたい。
「そろそろ、行くぞ」
お父さんの声にソラたちが集まってくる。
順番にバッグへ入れて、最後にお父さんが部屋を確認。
1階に降りるとチッカルさんが、見送りに来てくれた。
「長い間お世話になりました」
「ご飯とっても美味しかったです。お世話になりました」
お父さんに続きお礼を言う。
「こちらこそ。新しい料理も教えてもらって、ありがとうございます。またのお越しをお待ちしております」
宿の外まで見送ってくれたチッカルさんに手を振ると、門へ向かう。
「おはよう。天気が良くてよかったな」
門の所でゴルさんが、私たちを待っていてくれた。
「色々楽しかったです。ありがとうございます」
数日だったけど、ゴルさんのスライムと遊べて楽しかった。
「アシュリの奴も来る予定だったんだが、緊急の仕事が入って来られなかった。かなり悔しがっていたよ」
「そうですか。『頑張れよ』と伝えてください」
お父さんの言葉に頷くゴルさん。
門から出ると中にいるゴルさんに手を振る。
「気を付けてな」
「はい。ゴルさんも体には気を付けてくださいね」
門番さんと挨拶をして村から離れる。
「さて、ハタカ村へ行こう!」
お父さんの掛け声に笑って「おう!」と手を握って上に挙げる。
村道を歩き出すと、お父さんがなぜか笑った。
「どうしたの?」
「いや、旅の準備を始めた後の皆の行動を思い出してな」
確かに今回の旅の準備は大変だった。
本格的に出発を視野に入れて準備をし始めた初日。
捨て場で必要な物を拾い終えて、ソラたちの元に戻ると目の前に並ぶポーションと魔石。
あまりの光景にお父さんと固まった。
何とかすべて回収して、シエルと合流。
が、シエルは巨大な魔物を狩って帰ってきた。
「なんで?」
「もしかして昨日の話を聞いていたのか?」
お父さんと私は混乱しながらも思い出した事があった。
昨日の夜は旅に必要な物のリストを作っていた。
その時にたまたま、この村で使った出費についても話をした。
そして、合計金額を確認した私が「予定より多い出費になったね」と言ってしまった。
恐らくこれが引き金なんだろう。
でも、そのあとお父さんはちゃんと「まだ売る鉱石も魔石も残っているから大丈夫だ。もともと余裕がある」と言ったはずなんだけどな。
心配してくれるのはとても嬉しい。
旅を続けていれば怪我はする。
旅の疲れで病気にもなる。
だからソラとフレムのポーションは嬉しい。
でも、売ったら大騒ぎになるポーションを10本ずつは多いと思う。
魔石は加減出来るようになったのか、レベル5とレベル6が多い。
これはありがたい、たとえSやSSらしき魔石が混じっていたとしても。
でも100個は多すぎると思う。
ソラとフレムにじっと見つめられ、少しだけ魔石を売る事にした。
でも全部は無理だから、ポーションは絶対に無理だから!
お父さんと一緒に魔石とポーションのお礼を言いながら撫でまくった。
何とか納得してくれた。
旅路での食料として肉の確保は嬉しい。
正規のマジックバッグがあるから、鮮度も保たれるからね。
でもマジックバッグにも限界はある。
シエルが狩ってきたのは巨大な魔物だったから1頭で十分。
ごめん4頭もいらない。
期待した瞳で見られても、マジックバッグに入らない。
相変わらずシエルは強いねとお父さんと褒めて、褒めまくって落ち込んだシエルを何とか復活させた。
魔石と魔物の肉。
商業ギルドに売る事は出来る。
間違いなく喜ばれるだろう。
が、魔物は何処から狩ってきたのかこの周辺にはいない種類。
魔石は大丈夫だと思うが、それでも不安。
話し合っていると、アシュリさんとゴルさんがやってきた。
会う約束の事をすっかり忘れていたので焦ったが、お父さんが2人に事情を説明して協力を求めた。
話を聞いたゴルさんが大笑いしながら、リッシュギルマスさんとタブーロ団長さんを巻き込むと言って村に戻って数十分。
2人が新しい契約書を持ってやってきた。
魔物と魔石を見て、その場で契約。
何とか無事に売ることが出来た。
お金の準備と魔物の解体、その他いろいろあり数日待機。
まぁ、無事に出発出来たので良かった。
リッシュギルマスさんとタブーロ団長さんには最後の最後で迷惑をかけてしまった。
2人とも「今回の祭りで予定外の出費があったが、売って貰った魔物で十分元が取り返せる」と感謝された。
「二度と、シエルたちの前で金の話はしないようにしような」
横を歩くお父さんがしみじみ言う。
「うん。それがいいと思う」
お父さんと視線が合うと笑ってしまった。
「そろそろ大丈夫だろう」
村道を歩いて村からは随分離れることが出来た。
気配を探るが問題ない。
「そうだね」
バッグの蓋を開けると、フレムが一番に続いてシエルにソラが飛び出してきた。
最後にソルは……熟睡中だったので、バッグの蓋をそっと閉じた。
シエルは、周りを見渡すと本来のアダンダラの姿に戻る。
ぐっと背を伸ばす姿は何度見ても、かっこいい。
「にゃうん」
体をほぐし終わると、先頭に立って村道からそれていく。
それに当然のように私が続きお父さんも続く。
フレムはシエルの上で楽しそうに揺れている。
後ろのお父さんを確認すると、頭の上にソラ。
相変わらず、お父さんはソラに甘い。
「んっ? どうした?」
「ソラはそこが好きだよね」
お父さんが自分の頭に乗っているソラを撫でる。
「いつもとは視界が違って楽しいんだろう」
「ぷっぷぷ~」
確かにそうか。
いつもは地面に近いもんね。
「落ちないように気を付けろよ」
「ぷっぷぷ~」
お父さんの言葉に嬉しそうに鳴くとプルプルと揺れた。
先頭を歩くシエルを見る。
しなやかな筋肉が均等についた体。
旅を一緒にし始めた時に比べると、体が大きくなっている。
どんどん頼もしくなるな。
「あっ、シエル。当分鉱石とかいらないからね」
「……」
あれ?
シエル、無言?
「シエル、この間シエルが狩ってきた魔物がすごい金額になったから、本当に鉱石はいらないからね」
「に~」
不服そうだけど、ここは頑張らないと。
「シエルが頑張ってくれたから……」
これだと危ないな。
「それにソラとフレムも一生懸命頑張ってくれたから、お金は十分集まったの。ものすごく余裕。だから収入になるようなものは特に必要ないからね。ハタカ村までは旅だけを楽しもうね」
「そうだな、旅は楽しまないとな」
「にゃうん」
「ぷっぷぷ~」
「てっりゅりゅ~」
良かった。
もうそろそろマジックボックスが満杯になりそうなんだよね。
もう1つマジックボックスを購入するか、お父さんと悩み中。
「にゃ~ん」
「どうしたの? あっ、木の実だね。美味しそう、収穫していこう」