362話 協力してください
「アシュリさん? どうしてここに?」
「団長に話す時にバグさんだけでなく、ゴルさんにも参加してもらいたくて探していたんです」
バグさんはこの村で一番長くテイマーをしている人だよね。
そんな方と一緒にゴルさんも?
ゴルさんを見て首を傾げる。
あっ、若く見えるけど違ったんだった。
「ゴルさんもテイマー歴が長いですし、魔物との関係も良好なので」
確か、テイマー歴は40年ぐらいと言っていたっけ。
ゴルさんをじっと見る。
40年も続けているのに貫禄が無いな。
「んっ? 何か、ものすごく失礼な事を考えてないか?」
ゴルさんがジト目で見てきたので、すっと視線を逸らす。
どうしてばれたんだろう?
視線を彷徨わせていると、隣にいるお父さんにポンと頭を撫でられる。
見ると、口を押さえて笑っている。
お父さんにもばれてるみたい、そんなに私は分かりやすいのかな?
「ところで団長に何を話すんだ?」
ゴルさんが私からアシュリさんに視線を向ける。
「2日ほど前に、テイムしていたスライムが消えたのはご存知ですよね?」
「あぁ、あのバカのスライムだろ?」
ゴルさんが不快な表情をする。
恐らく問題のテイマーが嫌いなんだろう。
「はい。それで、他のテイマーたちが心配して詰め所に駆け込みまして、ちょっとした騒動に」
「そうみたいだな。村の奴らが噂していた」
大きなため息をつくゴルさんは、その騒動にちょっと呆れている様子を見せる。
「あいつらは何を言ってたんだ?」
「契約している魔物が、消えた原因を調査しろと」
「馬鹿馬鹿しい。そんなもん一緒に居たくないと思ったから消えた。それだけだろう」
ゴルさんの言葉にアシュリさんが、頷く。
「なんだ、アシュリも同じ考えだったのか?」
アシュリさんの態度に驚いた表情のゴルさん。
それに苦笑を浮かべるアシュリさん。
「ちょっと、すごいテイマーに出会いまして。それで考えが変わりました」
アシュリさんの言葉に、先ほどより驚いた表情のゴルさん。
そんなに驚く事ではないと思うけど、何かあるのかな?
「あの石頭のアシュリが、変わるとは」
えっ!
アシュリさん石頭だったの?
そんな風にまったく感じなかったけど。
アシュリさんをじっと見ていると、彼もこちらに視線を向けてちょっと恥ずかしそうな表情をした。
「ん? もしかしてドルイドさんたちと知り合いか? あれ? もしかしてお前がさっき話したテイマーというのはアイビーさんの事か?」
「えっ! アイビーさん、テイマーだと話したんですか?」
「はい」
私がそう言うと、アシュリさんがお父さんを見る。
お父さんは苦笑して頷いている。
私のテイムしているソラたちを知っているので、隠すと思っていたんだろうな。
なんせ、皆がレアすぎるから。
「えらく驚くんだなアシュリ」
アシュリさんの反応に、私たちを順番に見るゴルさん。
そうして、面白そうな表情をしているアシュリさんを見る。
「そうとう、衝撃的な事があったんだな。石頭のお前が考えを改めるほどの。まぁ、良い事だ」
ゴルさんの言葉に少し頬を赤くするアシュリさん。
「石頭って……そうだったんだけど……。それは今は関係ないです。えっと、さっきの話ですが、団長にはテイマーたちの意識改革をお願いするつもりなんです」
先ほどより赤い顔して無理やり話を変えるアシュリさん。
なんだかアシュリさんが可愛く見える。
「意識改革ね~」
ゴルさんはアシュリさんの態度に楽しそうに笑うが、意識改革については少し眉間に皴を寄せた。
「はい。バグさんとも少し話しましたが、ゴルさんと同じような事を言ってました。嫌気がさしたから逃げたんだろうと。それだと、これからもテイムされた魔物がいなくなる可能性があります。その前にテイマーたちの意識改革が必要だと、団長にお願いするつもりです」
「何をするつもりなんだ? 団長が意識を変えろと言ったって無駄だろう」
そうだよね。
団長さんが意識を変えろって言ったところで意識改革出来るわけじゃない。
「まずは、団長やギルマスに消えた原因を魔物との関係が良好では無いためと発表してもらいます。それから、テイムした魔物との関わり方を、えっと、お2人が他のテイマーに教えていただけたらと」
「それぐらいで変わるか? あの馬鹿どもが。無理だろ」
「それは、難しいとは思います。でも、このままでは駄目だと思うので。……あの、やはり難しいですか?」
ゴルさんが言ったように、テイマーたちの考え方を変えるのはとても難しい。
でもアシュリさんが言うように、また魔物が消える可能性がある以上このままでは駄目で……。
「まぁ、難しいだろうなと言うか無理だろ」
落ち込んだ様子のアシュリさんを見て、ゴルさんが苦笑いして彼の肩をポンと軽く叩いた。
少し前に見たゴルさんと若いテイマーたちのやり取りを思い出す。
ゴルさんは恐らく、若いテイマーたちに魔物との関わり方を教えていたのだろう。
彼なりに、今のままでは駄目だと判断して、若いテイマーたちに必要な心構えを説いた。
でも、テイマーたちはゴルさんを拒絶した。
今のゴルさんの表情は諦めている。
何かないかな?
教えるのではなく……あっ、感じてもらうのはどうだろう?
「話すのではなく、一緒に居るところを見せたらどうですか?」
「えっ? 見せる?」
「仕事中は見ているから今更見せても意味はないだろう」
私の言葉にゴルさんは首を横に振る。
そうか、一緒に仕事しているから見てるか。
でも、仕事中と遊んでいる時の様子は違う。
だから見せるのはいい方法だと思う。
「仕事ではない時を見せるんです。ゴルさんとスライムたちが遊んでいる時の様子とか」
「遊んでいる時の様子?」
アシュリさんの表情がぱっと明るくなる。
「それっ、いいと思います! 遊んでいる時の様子は衝撃的でしたから」
もしかしてソラたちの事かな?
そんなに衝撃的だった?
まあ、確かに少しやんちゃ度が上がるけど、それぐらいだよね?
「遊ぶ時ね」
「仕事中の時とは、反応が違ったりしませんか?」
ゴルさんの言葉に、アシュリさんが体をぐっと彼に近づけて訊く。
その様子にちょっと引いたのか、ゴルさんが1歩後ろに下がる。
「アシュリ、落ち着け。と言うか、お前、成長したな」
成長した?
首を傾げると、ゴルさんが私の顔を見てにやりと笑う。
「アシュリはちょっと特別だと言われてたからか、うぬぼれのクソガキだったんだ。それが人のため、村のために必死になれるんだから、成長だろう」
特別ってきっとスキルの事だろうな。
「あ~、昔の事は忘れてください」
楽しそうに話すゴルさんに、恥ずかしそうな表情のアシュリさん。
「って、今はそんな事は良いんです! 違いはあるんですか?」
アシュリさんの様子に、ゴルさんは面白そうに笑う。
その表情を見て、お父さんの師匠さんを思い出す。
似てるわけではない。
でも、雰囲気が似てる?
お父さんも何か感じたのか、隣から「うげっ」という声が聞こえた。
「まったく違うな。仕事の時は言う事を聞いてくれるが、遊びだとまぁ、やりたい放題だ」
「ゴルさんのスライムも?」
「ん? アイビーさんのスライムもか?」
「すごいですよ。アイビーの言葉には少し加減はありますが」
お父さんの言葉に私が頷くと、ゴルさんが驚く。
それにお父さんと首を傾げる。
「若いのに、すでにそこまで関係を築けているのか。すごいな」
「ん~、最初から皆友好的でしたから」
「皆? 何匹テイムしてるんだい? あっ、悪い。ここでは駄目だな」
慌てたゴルさんが、周りを見渡す。
そうだ、ここは道の真中だった。
「ゴルさん、この村のために協力お願いします」
アシュリさんがゴルさんに頭を下げる。
「はぁ、仕方ないな」
ゴルさんの返事にアシュリさんが嬉しそうな表情になった。
お久しぶりです。
ようやく復活出来ました!
文字を追ってもグルグルしません。
今日からまた、よろしくお願いいたします。