361話 ゴルさん
「お父さんは偶然ではないと思うの?」
私の質問に眉間に皴を寄せ何かを考えるお父さん。
「ちょっとな。まぁ、気のせいかもしれないし。気にするな」
私の頭をポンと撫でて、歩き出す。
「気にするな」か、でも私も気になる事があるんだよね。
前に話した時のソルのあの異様な喜びよう。
まるで……なんだろう?
当たり? 正解?
ん~、良い言葉が浮かばないけど。
とにかく、あの時ソルはいつもと違った。
それに窓の外をじっと見つめているソルを見ると不安になる。
まるでソルが消えてしまいそうで。
「どうした? 眉間に皴寄せて」
「なんでもない。あれ? お父さん」
「どうした?」
この方向は、宿へ戻る道だよね?
「服屋は行かないの?」
「えっ? あれ、この道……間違えた」
お父さんの表情が面白くて吹き出すと、ちょっと強めに頭をぐりぐりされる。
「よし、アイビーの服は俺が選んでやろう。久々だな、楽しみだ」
ニヤッと笑うお父さんの表情に嫌な予感を覚える。
「自分で選ぶから大丈夫」
「遠慮なんて必要ないぞ。どんな柄があるか楽しみだな。夏だから汗かくしな」
「遠慮してない! そんなに枚数いらないからね!まだ大きくなる予定だし! 聞いてる? お父さん!」
お父さんに選ばせると、やたらかわいい柄の物を選ばれるし枚数も予定より多くなる。
止めようと腕を掴むが、視線を合わせないようにしている。
やばい、これ本気だ。
「駄目だよ! 駄目だからね!」
「どんなのがいいかな?」
絶対に止める!
さっき何も言わずに宿に戻ればよかった。
「あれ? 何やってるんだ、あんな道の真中で?」
お父さんの視線の先を見ると、スライムを抱きしめている4人の女の子たち。
そしてその女の子たちの前に、男性が1人。
何か話をしているのか、男性の顔は少し険しい。
「どうしたんだろうね?」
しばらくすると女の子の1人が泣き出した。
「あっ、泣いちゃった」
残りの3人の女の子たちも、今にも泣いてしまいそうな表情をしている。
「大丈夫かな?」
「ん~、とりあえず声をかけてみるか?」
「うん」
スライムを抱きしめてる女の子たちはテイマーだよね。
普通、契約していない魔物は凶暴で触れないはずだから。
ソルは例外だからね。
5人に近付いていくと、話し声が聞こえてきた。
「周りのテイマーと同じことをしていたら、あのバカのように失うぞ。よく考えろ」
「でも」
「安易な方法を選ぶなら、二度と俺の前に姿を見せるな。そんな奴らに教える事などない」
よくわからないけど、テイマーとしての勉強かな?
女の子たちは見た目では私とそれほど変わらない。
「ん?」
どうしようかと近くで立ち止まっている私たちに気付いた男性が、こちらに視線を向けた。
「すみません。少し気になったので、でも大丈夫そうですね」
「あぁ、すみません。こんな道の真中で話す必要はなかったですね」
男性は頭をかいて苦笑を浮かべる。
その表情は目じりが下がり、とてもやさしい雰囲気になる。
「頑張ったって、この子たちは答えてくれないもん。どうせ、ただのスライムじゃんか!」
泣いていた女の子が男性に向かって叫ぶ。
男性はちらりとその子を見ると、大きなため息をついた。
「そう思うなら二度と俺の前に来るな。迷惑だ」
「ひどい」
「とっとと失せろ」
男性の冷たい声に女の子たちはびくりと震える。
そして、走ってどこかへ行ってしまった。
「はぁ~。まったく」
男性を見ると、とても寂しい目をしていた。
「すみませんね。みっともないところを見せてしまって」
「いえ、もしかしてあなたはテイマーなのですか?」
「えぇ、そうです。えっと、あなた方は?」
「旅をしているドルイドです。む、娘のアイビーです」
あっ、ちょっと躊躇ったな。
そっとお父さんの顔を窺うと、少し照れた表情をしている。
「旅の方でしたか。私はこの村のテイマーのゴルです。あの子たちもテイマーなんですがね。はぁ」
ゴルさんは首を横に振る。
「あれでは駄目だ。あれでは」
ソラたちが入っているバッグをそっと撫でる。
ソラにゴルさんが大丈夫なのか判断してほしくなったのだ。
撫でた手をそのままバッグに触れていると、微かにプルプルと振動が伝わる。
その反応にほっとすると、ゴルさんに向かい合う。
「ゴルさん」
名前を呼ぶが、バッグから振動はこない。
ソラはゴルさんを大丈夫と判断したようだ。
「私もテイマーなんです」
あっ、起きていたのがソラじゃない可能性もあったんだった。
……大丈夫と信じるしかないか。
「えっ! そうなのか?」
私の言葉にゴルさんが驚いた表情を見せる。
その隣でお父さんも驚いていたが、私の手がソラの入っているバッグに触れている事に気付くと苦笑を浮かべた。
「はい。ゴルさんはテイマーとして長いんですか?」
「そうだな。もう40年かな」
40年!
あれ?
見た目は45歳ぐらいか46歳ぐらいなのに?
「見た目がこれだが、57歳なんだ」
ゴルさんの言葉にお父さんと驚く。
あれ?
ちらりと隣にいるお父さんを見る。
「こらっ!」
ポンとお父さんに頭を小突かれた。
あははは、お父さんとは逆だと思ったのがばれてしまった。
でも、仕方ないよ。
ゴルさんは若く見えて、お父さんは老けて見えるんだもん。
「アイビーさんでいいのかな?」
「えっ? はい」
ゴルさんが何か思案顔で私をじっと見つめる。
何だろう?
不思議に思ってじっと見つめ返す。
「その、君にはテイムした魔物がいるのかな?」
「はい。います」
「そうか。俺はスライムを2匹テイムしているんだが、アイビーさんにとってテイムした魔物は……。いや、なんでもないよ」
そんな簡単な質問で戸惑うことないのに。
「私にとって家族です。そして大切な仲間です」
私の言葉にはっとした表情をするゴルさん。
さっきの女の子たちに言っていた言葉を思い出す限り、彼はテイムしたスライムを大切にしているはずだ。
「家族か、そうか」
ゴルさんが嬉しそうにほほ笑む。
「最近のテイマーにしては珍しい」
「そんなに最近のテイマーは、力で押さえつける人が多いのですか?」
お父さんの質問にゴルさんが渋い表情になる。
「あぁ、駄目だと言っても力で押さえつけた方が簡単だからと話を聞かない」
「もったいないですよね」
「もったいない?」
「はい。魔物の様々な一面が見られるのはテイマーだけの特権です。それを知らないなんてもったいないです」
「テイマーの特権か。確かにそうだが、そう思える者たちが少ないからな」
ゴルさんのスライムはどんな子たちだろう。
見たいけど、そうなるとソラたちを見せる事になるし。
「アイビーさん。よかったら俺のスライムに会ってやってくれないか?」
「えっ?」
「ゴルさん?」
「もしアイビーさんのテイムしている魔物がスライムなら、俺の子たちと遊ばせてやってくれないか? あの子たちと遊んでいたスライムたちが、去年契約していたテイマーが亡くなったため森へ帰ってしまったんだ。元気なんだが、どこか寂しそうでな。契約している魔物はスライムだろうか?」
ゴルさんの言葉にお父さんを見る。
お父さんは、真意を探るようにゴルさんをじっと見つめてた。
「自警団員に知り合いがいます。彼も一緒なら考えますが」
「もちろんドルイドさんの知り合いの方が一緒で構いません。よかった」
ゴルさんの様子に、お父さんの視線がすこし柔らかくなる。
「居た! ゴルさん、えっ! アイビーさん、ドルイドさん?」
あれ、またアシュリさんだ。
しかもゴルさんを探していたみたいだし。
どうなってるの?
いつも読んでいただき、ありがとうございます。
すみません、風邪が悪化したため3日ほどお休みします。
再開しましたら、またよろしくお願いいたします。