360話 偶然だよね?
ハタヒ村の門の外には大きな馬車が3台。
それに体格のいい護衛の人たちと彼らが乗る馬が数十頭。
「すごいね」
「そうだな。さすが王都でも有名な人だ」
お父さんとフォロンダ領主の見送りに来たが、馬車の大きさに驚いてしまった。
さすが貴族と言いたくなる装飾の施された豪華な馬車。
そして護衛の人たちの数と馬の数。
改めてすごい貴族なんだと実感してしまった。
「来てくれたのですね。ありがとうございます」
私たちに気付いたフォロンダ領主が、馬車から降りて声をかけてくれた。
「フォロンダ領主、色々ありがとうございました」
お父さんがフォロンダ領主に頭を下げるので一緒に下げる。
「私が好きでやった事ですので、気にしないでください。アイビー、また『ふぁっくす』をお願いしますね」
「はい。オトルワ町に送りますか? それとも王都でしょうか?」
王都に行くと言っていたから王都かな?
「王都には顔を見せに行くだけなので、すぐにオトルワ町に戻ります。なのでオトルワ町にお願いします」
「分かりました。ではオトルワ町に送ります」
「えぇ、アイビーの『ふぁっくす』は面白いので楽しみなんです」
面白い?
何か笑えるような内容を書いたかな?
別に普通の事を書いているけどな。
「領主様、そろそろ出発いたします」
護衛の1人がフォロンダ領主に声をかける。
もう、時間切れのようだ。
「では、また会いましょう」
フォロンダ領主がそっと頭を撫でる。
それに笑って頷く。
「はい。お気をつけて」
「ドルイドも、連絡をお願いしますね」
「はい。わかりました」
馬車が王都へ向かって動き出す。
しばらくすると馬車は森の木々に隠れて見えなくなった。
「行っちゃったね」
「さみしくなるな」
「うん。でも、また会えるから」
次はオトルワ町に帰った時かな。
……何となく王都についた時に王都にいるような気がするんだけど。
いや、そんなことは無いか。
「さて、これからどうする?」
お父さんがハタヒ村に入りながら訊いてくる。
「どうしよう。特に用事は無いよね?」
「無いな。そうだ、アシュリさんにテイマーの様子を訊きに行ってみるか?」
「そうだね。そのあとは旅の準備かな?」
「そろそろ本格的に準備をするか」
このハタヒ村ではゆっくり楽しんだな。
でも、そろそろ次の村が気になる。
「うん。そうしよう」
自警団詰め所に向かって歩くと、詰め所に人が集まってきていた。
何かあったのだろうか?
お父さんと顔を見合わせる。
「何かあったみたいだな?」
「うん。ちょっと異様な雰囲気だね」
集まった人たちは老若男女。
どの人たちも、どこか戸惑ったような少し怒っているような表情をしている。
「巻き込まれるのは嫌だから、少し離れよう」
「うん」
お父さんと急いで、少し自警団から離れる。
「緊張感は無かったみたいだから、危険度は少ないだろう」
離れた場所からそっと窺うと、確かに緊張感は無い。
でも、どこか追いつめられているような雰囲気が気になる。
「関わってもいい事は無いだろう。日を改めるか」
「そうだね」
宿に戻る途中、旅に必要な物を揃えていく。
「そう言えば、また少し背が伸びたみたいだけど靴は大丈夫か?」
背?
隣に立つお父さんを見上げる。
んっ?
あまり変わらないような気がするけど。
「私の背、変わりました?」
私の言葉に頷くお父さん。
じっとお父さんを見るが、距離が変わったようには感じない。
それに靴も大丈夫。
「靴は問題ないよ。背、伸びたのかな? よくわからない」
「まぁ、少しだからな」
少しなのか。
よくお父さんは、私も気付かない成長を気付いたな。
「服は? これから夏になるが必要な物はあるか?」
夏服か。
「シャツかな、前の夏のシャツはすべて小さくなってたから」
去年からは随分と体つきが変わった。
特にちゃんと食事をとるようになってからは、背がぐっと伸びた。
そのため服を整理した時、去年拾ってきていた夏服は全滅だった。
「だったら、今日は夏のシャツを買ってから帰ろうか」
「うん。お父さんは?」
「俺は特にないな」
「アイビーさん、ドルイドさん!」
大通りを外れて、お店を見て回った時に見つけていた服屋に行こうとすると後ろから声がかけられる。
知っている気配が近付いて来ていたのは知ってはいたが、私たちに用事があるとは思わなかった。
「アシュリさん、お久しぶりです」
振り返り、挨拶を返すとなぜか慌てた様子。
首を傾げると、アシュリさんはきょろきょろと周りを見回す。
「少し話があるのですが、いいですか?」
「あぁ、良いけど。何かあったのか?」
「はい。……すみません、ちょっと場所を移動します」
アシュリさんについていくと、小さな広場が見えた。
小さな男の子たちが遊んでいるので公園なのかもしれない。
アシュリさんは公園に入り、隅による。
「あの、アイビーさんが前に話していたことなんですが」
私が話していたこと?
何だろう?
「その、テイムした魔物が決断すると契約を切れると」
確かに、力で従えるテイマーにムカついてそんな事を言ったな。
でも、決断と言ったかな?
「それがどうした」
お父さんが、不思議そうにアシュリさんに訊く。
「この村で問題になっていたテイマーがいるんですが……その、魔物に対する態度がひどくて。注意をしようにも、彼のテイムしたスライムの処理能力が高く、誰もが強く言えなくて。最近はどんどん処理能力が落ちていたんですが、それがまたスライムに強く当たる結果になっていて」
うん、ムカつく。
「それが2日前。スライムを持つテイマーたちがゴミの処理をしようと集まった時、彼のスライムが光りだしテイムされたことを表す印が消えて、そのまま姿が消えてしまったんです」
「「えっ!」」
消えた?
そんな事が?
「それは、なんというか」
「えぇ、何があったのか」
「自業自得だろ」
「えっ?」
お父さんの言葉に驚いた表情のアシュリさん。
私もちょっと驚いてお父さんを見つめる。
「あの……」
「はぁ、魔物にも心はある。どんな態度だったかは知らない。だが、力で押さえつけている他のテイマーたちから見ても、ひどいと思う態度だったんだろ?」
「はい。俺も見たことはありますが、あれはちょっと」
「なら、これは至極当然な事だ」
確かにと頷く。
関係を築けなかったテイマーに原因がある。
「他のテイマーたちが困惑していて、自警団に押しかけていて」
あっ、さっきの。
「ん~、テイマーとして一番長い人はどうだ? 困惑したり焦っていたりするのか?」
「えっ? バグさんですか?」
ハタヒ村で一番テイマー歴が長いのはバグさんというのか。
「彼は……いえ、さっきも姿はありませんでした」
「そうか、そのバグさんとテイムした魔物との関係はアシュリから見てどうだ?」
「関係ですか? あっ、大切にしています。それに彼のスライムの処理能力は落ちていません」
「だったら、テイマーたちに言う事が何かは分かるだろう」
アシュリさんが神妙な表情で頷く。
「処理能力が高いスライムが消えたのは残念だ。だが、これをきっかけにしたらいい。他のテイマーたちの意識改革のな。俺の知っている町ではテイマーたちの再教育が行われているそうだ」
それってオトルワ町の事だよね。
フォロンダ領主が言っていた。
「意識改革……団長たちに話してみます。すみません、焦ってしまって」
それは仕方ないよね。
私が言っていた事が本当に起こるんだから。
それにしても、すごいばっちりの機会になったな。
偶然だよね?
「気にするな。話す時にバグさんに協力してもらったらどうだ? 彼は長くテイマーとして魔物と関わっている。彼の意見は助けになるだろう」
「はい。これからバグさんに会いに行きます。ありがとうございました」
来た時同様に慌ただしく駆けていくアシュリさん。
「すごい偶然だよね?」
「偶然なのか?」
「えっ? お父さん?」
私の言葉に首を横に振って歩き出すお父さん。
偶然じゃなかったら何なんだろう?