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359話 報告

隣を歩くドルイドさんを見る。

なんだか不思議な気持ち。

昨日と何も変わらない。

ただ、本当の親子になるために書類を申請しただけ、でも何かが変わった。

やっぱり不思議。


「ん? どうした?」


「なんでもない。申請通るかな?」


通らなかったらどうしよう。

考えるだけで悲しくなる。


「大丈夫だよ。あれだけの証人だからな」


確かに証人欄には貴族のフォロンダ領主をはじめ、今や英雄と言われている人たちの名前が並んでいた。


「証人はそれだけ重要なの?」


「あぁ、子供を犯罪に巻き込まないためにな。彼らは問題ないだろうが、普通は証人も詳しく調べられる」


犯罪?


「昔、子供に犯罪をさせる為に親となった者たちがいたんだ。それを防ぐ目的で証人制度が設けられたんだよ」


「そうだったんだ」


ひどい話だな。

親が出来ると喜んだ子供を裏切るなんて。


「さて、フォロンダ領主に挨拶しに行こうか」


「うん。どの宿に泊まっているのか知ってるの?」


「知っているというか、フォロンダ領主ともなるとこの村で一番の宿だろう」


なるほど。

貴族向けの最上級の宿に泊まってるって事か。

どんな宿なんだろう。


「あそこだ」


お父さんが指す方に視線を向けると、高級感が漂う建物。

出入り口には人が立っているのが見える。

宿の警護かな?


「この格好で大丈夫?」


着ている服を見る。

冒険者のような格好だ。

いつもだったら問題ないが、貴族専用の宿に入る格好では無い気がする。


「大丈夫。問題ないよ」


お父さんに背中を押され、宿に近付く。


「すごいね、入り口からキラキラしてる」


豪華な装飾が施された宿の出入り口を見る。

出入り口の扉にまで彫刻が施されている。

必要なのかな?

掃除が大変そう。


「あれ? アイビーさんにドルイドさん?」


宿の出入り口から、フォロンダ領主の護衛の人が出てきた。


「「こんにちは」」


お父さんと挨拶をすると、にこやかな顔で出入り口を開けてくれる。


「入っても大丈夫ですか?」


「もちろん、領主に用事ですか?」


「はい、少し報告がありまして。部屋にいらっしゃいますか?」


「いますよ。声をかけてくるので待っててください」


護衛の人が階段を上っていくのを見送る。

周りを見ると、大きな絵が飾ってある。


「…………」


芸術は難しい。


「どうした?」


壁に掛かっている絵を指す。


「どういう意味ですか?」


私が指した絵は、グリーンの線で描かれた何か。

私が題名を付けるなら「緑のグルグル」かな。


「ん~? まったく分からない」


「ここにあるからそれなりに価値はあるんだよね」


「そう思う」


お父さんも私も芸術には疎いな。


「お待たせしました。部屋まで案内しますね」


「ありがとうございます」


護衛の人に案内されて、4階に上がる。

その階には扉が2つしかなく、1部屋が相当広いようだ。

さすが、貴族専用の宿。


「お連れしました」


「どうぞ」


部屋を開けてくれたのは、フォロンダ領主の屋敷に一度行った時に見かけたメイドさん。


「アイビー様、お久しぶりです。ドルイド様、初めまして。どうぞよろしくお願いいたします」


このメイドさんはいつも私を様付で呼んでくれる。

必要ないとお願いしたが「旦那様のお客様には様を付けます」と言われてしまった。

それなら仕方ないのだけど、言われなれていないので何となく照れてしまう。

今も何となく背中がむずむずする。


「お邪魔します」


「アイビー、ドルイドおめでとう。もう提出して来たのか?」


「はい、今提出してきました」


フォロンダ領主がお父さんの言葉に嬉しそうに笑う。

私の傍に来て、そっと頭を撫でてくれる。

本当に色々とお世話になっている。


「ありがとうございます。書類とか証人とか」


「気にしなくていいよ。自己満足でもあるから」


私の周りにいる人は本当に優しい人が多い。

いつか恩を返したいな。


椅子を勧められたので座ると、メイドさんがすぐにお茶とお菓子を机に並べてくれる。


「ありがとうございます」


「いいえ、お口にあったお菓子はお持ち帰りも出来ますから」


なぜかものすごくよくしてくれるメイドさん。

良いのかな?


「ドルイド、いつまでこの村に居る予定にしているんだ?」


ん?

フォロンダ領主の話し方が随分と変わってる。

前までは、まだ少し硬さがあったのに。

やっぱり、お酒を酌み交わすと親しくなるのかな?


「そろそろ出発する準備をしていくつもりですが、気になることがあるのでその結果次第ですね」


「気になる事?」


「はい、この村に親しくしている自警団員がいるんですが、その友人のテイマーの事で少し」


アシュリさんの友人のテイマーさんの事か。

そう言えば、どうなったかな?


「テイマー? 再教育の話か?」


「まぁ、似たようなものです」


「そうか、次の村はハタカ村へ行くのか?」


「えぇ、急ぎの用事もありませんから。ゆっくり王都を目指します」


ん?

何だろう、ゆっくりを強調した?


「フォロンダ領主はいつ出発をするんですか?」


「我々は2日後だ。仕事がそろそろ恐ろしいほど溜まっているだろうからね」


フォロンダ領主は忙しそうだよね。

時々村や町で見かける貴族は威張りくさるだけで、暇そうだけど。


「アイビー、どうしました?」


「いえ、フォロンダ領主は忙しそうですよね。村や町で見た貴族は、その……暇そうに見えたので」


「暇そうな貴族? あぁ、彼らは頭が悪いから仕事を任せられていないのでしょう。穀潰しですよ」


あははは、なるほど。


「えっと、お見送り行きますね」


「ありがとう。そうだ、アイビー」


「はい?」


何だろう。

フォロンダ領主の笑顔がちょっと意味深なものになってる気がする。


「オトルワ町に戻ってきたら、私の息子たちを紹介しますね」


息子さんたち?

確か安全のために王都で生活させていると言っていたな。


「オトルワ町に戻ってきているのですか?」


「問題は片付きましたから。ただ、上の子は王都の学校で跡継ぎになるために頑張っていて、長期休暇でしか会えませんが。2番目の子はオトルワ町に帰ってきてます。アイビーに」


「旦那様」


「フォロンダ領主」


ん?

お父さんとメイドさんがフォロンダ領主の話を遮った?

まさかね。

そっとお父さんとメイドさんを見る。

目が据わっている気がする。

えっ、どうして?

というか、この場で一番上のフォロンダ領主にそんな視線を向けていいの?


「旦那様、このことはしっかりと皆様に報告させていただきますね」


皆って誰の事だろう?


「はっ? いや、アマリ。君は私のメイドだよね?」


「もちろんです。昔からずっと旦那様に仕えております」


「そうだよね」


「えぇ。ただ、旦那様が道を誤ったら何をしてもいいと、前の旦那様から言質は取ってありますが」


「はぁ~」


あ~、フォロンダ領主が項垂れちゃった。

そうかこのメイドさん、ラットルアさんタイプだ。

無害に見えるのに黒い人。

もしかして皆って、ラットルアさんたちの事かな?


「いや、道は誤っていないはずなんだが」


「アイビー様」


「はいっ!」


何かしたかな?

思い当たる事は無いけど。


「好きなお菓子はありましたか?」


「好きなお菓子? はい、この黒いものが好きです」


「チョーバーですか? それではそれをお持ち帰りください」


へっ?


「いや、悪いですし」


メイドさんが小ぶりのカゴを机に置く。


「私たちだけでは食べきれませんので、貰っていただけると助かります」


断り辛い。

隣に座っているお父さんを見る。


「もらっておこう」


お父さんが言うのなら、いいのかな?


「ありがとうございます。いただきます」


カゴを受け取る、ちょっと中を見るとチョーバーがいっぱい。

これはかなり嬉しい。


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― 新着の感想 ―
何を言われても欲しいものは欲しいもんな。
[一言] この世界には保護者になる者への人柄を証明し、子供を悪い親から保護するシステムがあるかのように思える描写がありますが、アイビーちゃんの出身村の悪い親に生かされる為に強制悪にされた子供たち(殺人…
[一言] 地の文もお父さんになってるの良いっすね~
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