358話 チッカルさん混乱
フォロンダ領主と別れ、宿に戻る。
部屋に戻るとバッグから皆を出す。
「ぷ~」
「今日は楽しかった?」
「ぷっぷぷ~」
「てっりゅりゅ~」
「にゃうん」
「ぺふっ、ぺふっ」
ん?
ソルを見ると、かなり機嫌がいいように見える。
そう言えば、テイマーの話をした時から随分とご機嫌というか嬉しそう?
「ソル、何か嬉しい事があったの?」
「ぺふっ」
「そっか。よかったね」
何かは分からないけどソルが嬉しそうだからいいか。
ソルの頭を優しく撫でる。
目が細まって可愛い。
「ぷ~!」
「りゅ~!」
ソルを撫でていると、背中に2回衝撃が来る。
「ソラ。フレム。どうしたの?」
ソルの頭を撫でてたから拗ねたのかな?
ソルとフレムとソラの頭を順番に撫でる。
すぐにもう1匹、スライムに変化しているシエルがそっと横に並ぶ。
「う~、皆が可愛すぎる」
「あははは。でもそれ、いつまでたっても終われないんじゃないか?」
確かに、でも期待した目で見られているし……。
「もう少し頑張る」
3分ほど頑張ったけど、さすがに疲れた。
「お終い~。ごめん、疲れた」
森で遊んで疲れていたのか、少ししか頑張れなかった。
いつもだったらもう少し出来るのに、残念。
「ぷっぷぷ~」
「てっりゅりゅ~」
「にゃうん」
「ぺふっ」
ソラたちは、一鳴きしてそれぞれいつもの寝床に向かう。
久々に思いっきり体を動かして遊んだから疲れているようだ。
「お疲れ様。そろそろ、俺たちも旅の準備を始めようか」
「うん、次は何処にするの?」
「ゆっくりでいいならハタカ村だな。どうする?」
別に急いでいない旅だから、ハタカ村でいいよね。
「そこで問題ないよ」
「じゃ、ハタカ村で決定な。いつ頃、出発する?」
どうしようかな。
アシュリさんの知り合いのテイマーの事も気になるけど、すぐに信頼が築けることは無いし。
でも、少しだけどうなったのかは知りたいな。
「アシュリさんの知り合いのテイマーさんの事が、少し気になるんだよね」
「そうだな。話した結果は知りたいな」
「うん」
どんなスライムをテイムしているのか見てみたいな。
できたら、ちょっと話もしてみたいな。
無理かな?
「どうした?」
「ソラたちはレアすぎるから、普通のスライムの性格とか知りたいなと思って。あと、ちょっと話しかけてみたい」
「確かにソラたちは存在そのものがレアだもんな。アイビーは普通のスライムと関わった事はあるのか?」
「あるよ。捕まってしまったけど、緑の風のミーラさんがテイマーだったから少しだけ話しかけた事がある」
「そうなんだ」
「名前を呼んだら顔を見てくれたけど、それだけだった」
「テイムされている魔物は契約しているテイマーにしか反応しないもんな。でも、力で抑え込んでいるんだったら、アイビーに応えるかもな」
「そう?」
「あぁ、気にしてくれる存在の方がいいだろ?」
そう言うものかな?
ソラが私を放置して他のテイマーに懐いたら……悲しい。
「それは、ものすごく悲しい事だよ」
「それはアイビーがソラたちを大好きだからだよ。力で抑えているテイマーに好きという気持ちがあるか不明だな」
そっか。
自分を基準に考えるから、どうも力で抑えるテイマーがよくわからない。
ただ、それが悲しい事だという事は分かるけど。
「アシュリの話を聞いて心を入れ替えるテイマーだったら、見せてもらえるようにお願いしたらどうだ? ただ、その場合はアイビーがテイマーだという事も話す必要があるだろうけど」
そうだよね。
一方的に見せてというのは間違っているよね。
その場合、ソラたちを見せるのか。
ん~、それは問題があるかな。
もしかすると、そのテイマーからソラたちの事が漏れてしまう事もあるし。
「やっぱりいいです。私の我儘でソラたちを危険にさらすわけにはいかないので」
「何かいい方法がないかな?」
ドルイドさんを見ると眉間に皴を寄せて考えてくれている。
「そんな真剣に考えなくていいよ。何よりソラたちの安全が一番大切なんだから」
「ソラたちからしたらアイビーの安全が一番だろうけどな」
「そう思ってくれていたら幸せだね」
「そうだな。それにしてもお腹空いたな」
部屋にある時計を見る。
そろそろ夕飯の時間だ。
「さて、そろそろ食堂に行くか」
「うん」
今日はソラたちを森で思う存分遊ばせる予定だったので、夕飯づくりはお休み。
疲れる可能性があるから、夕飯は楽をしようとドルイドさんが言ってくれたのだ。
「今日は何かな?」
「チッカルさんの煮込み料理はうまいよな」
「うん。絶妙な煮込み具合だよね」
野菜が煮崩れる直前ぐらいの柔らかさで美味しい。
私は煮込み料理は、火加減とか気を付けてるのに野菜が煮崩れちゃうんだよね。
「ご飯食べてくるね。行ってきます」
「行ってくるな~」
「ぷ~」
「てっりゅりゅ~」
「にゃう~ん」
「…………」
フレム以外は夢うつつって感じだな。
ソルは完全に寝ているみたいだし。
部屋の鍵をしっかりと施錠して、食堂へ向かう。
1階に降りると、出入り口にチッカルさんの姿が見えた。
「こんばんは……フォロンダ領主?」
夕方に別れたフォロンダ領主がなぜか目の前にいる。
しかも何かを持っている腕を上げて見せる。
「お酒?」
「そうです。1度ドルイドさんとお酒を飲んでみたくて。どうですか?」
ドルイドさんが戸惑った表情を見せる。
が、ドルイドさん以上に困惑しているのはチッカルさん。
かなり焦っている。
どうしたんだろう?
前にフォロンダ領主が来た時より緊張してる?
「チッカルさん、大丈夫ですか?」
「えっと、場所は」
「この間の部屋を貸していただけますか? あとはこちらで適当にやりますよ」
「適当! 大丈夫かな?」
チッカルさんが小声で耳元でささやく。
やはり貴族という事で、何かをしなければならないと考えているようだ。
「大丈夫ですよ。フォロンダ領主は細かい事で文句を言う人ではないので。チッカルさんの煮込み料理をお願いできますか? あれ本当に美味しいからフォロンダ領主もきっと好きになると思うんです。あっ、でも余分に作ってなかったら駄目か」
「いや、それは大丈夫。今日は明日の分と併せて作ったから」
「でも、それだったら明日の分が足りなくなるのでは?」
「それも大丈夫。明日の事は何とでもなるから」
さすがプロだな。
「ではお願いできますか? あの、調理場へ行ってもいいですか? 料理を運びます」
チッカルさんの焦り方を見ていると、私が料理を運んだほうがいいような気がする。
「ごめん、お願いできるかな。ちょっと興奮していて……本物のフォロンダ領主だよな? 俺の宿にまた来てくれたんだよな? 前の時も夢みたいだったのに。しかも今日は俺が作った料理を食べる……俺の料理? 大丈夫かな?」
「大丈夫です。チッカルさんの料理は最高に美味しいです」
なるほど落ち着かないのは興奮しているためか。
オトルワ町の領主は英雄の1人だもんね。
そう言えば、前の時は隠れて頬っぺたつねってたっけ。
「落ち着いてください。とりあえず、部屋の鍵を開けてもらえますか?」
私の言葉に慌てた様子で鍵を取りに行くチッカルさん。
大丈夫かな?
「お待たせしました」
部屋の鍵を開けて、空気を入れ替えるつもりなのか窓を開けようとしているが、緊張のためかなかなか鍵が開かない。
笑いそうになるのを抑えて、一緒に窓を開けて空気を入れ替える。
「ありがとう」
「いえ、落ち着いてください。ドルイドさん、料理貰って来るね」
窓を開け終わったので、チッカルさんの背中を押して調理場へ向かう。
「ああ、コップはこの部屋にあるみたいだから準備しておくよ」
「お願い」
チッカルさんと一緒に調理場へ行く。
「お邪魔します」
「は~、あの有名な人が……うわ~。すごい」
もしかして、フォロンダ領主の事を尊敬でもしてるのかな?
でも、とりあえずは落ち着いてもらおう。