355話 テイムした魔物との関係
ダッチさんは、ドルイドさんと罠について少し話をしてから仕事に戻っていった。
と言うか、他の2人の団員さんたちに引きずられて仕事に戻った。
「彼は、かなり興味があるみたいだな」
「ダッチ先輩はドルイドさんたちの話を聞いて、罠の仕掛け方という本を買ってました」
「そうなんだ」
どんな本なんだろう、ちょっと興味があるな。
「はい。他にも興味を持った先輩たちとよく話をしてました」
「へ~。俺と同じくらいから上の年齢の者たちには、興味を持たれるみたいだな」
そうだったかな?
確かによく話をするのは、ドルイドさんたちぐらいの年齢の人かも。
気配を探り、ダッチさんが離れた事を確認してからバッグからソルを出す。
ドルイドさんも、私を見てからソラとフレムをバッグから出した。
「バッグをもう1つ用意していて正解だったな」
「そうだね。準備はやっぱり重要だね」
「あぁ」
ドルイドさんに渡したソラたちのバッグは、新しく準備したものだ。
もしもの時を考えて、用意しておいたのが正解だった。
「ぷっぷぷ~」
「どうしたの?」
私がソラに問うが、ソラはプルプルと揺れるだけ。
えっと、どう質問したら伝えたいことが分かるかな?
「てっりゅりゅ~」
フレムの鳴き声に視線を向けると、フレムがシエルの背中に乗るところだった。
もしかして食事はもういいのかな?
「もしかしてお腹いっぱい?」
「ぷっぷぷ~」
「てっりゅりゅ~」
「ぺふっ」
「そうか。だったら、森の奥へ行って遊ぼうか」
私の言葉に3匹がそれぞれ嬉しそうに揺れる。
シエルの尻尾もくるくる回り、久々にちょっと風が起こっている。
「そうとう楽しみにしていたんだな」
「ずっと部屋の中だったもんね」
「かなり拗ねてたからな」
拗ねる?
えっ、皆拗ねてたの?
元気がなくなっていたのではなく?
「皆、拗ねてたの?」
あっ、皆視線をずらした。
そうか拗ねてたのか。
今回は私たちだけで遊んでたからな。
「ごめんね」
「ぷ~」
ソラが私の足元に来て、プルプル揺れるとくるくる回転する。
そして縦にびよ~んと伸びた。
「ん? あははっ、可愛いね」
回転なんて初めて見たな。
私の言葉にソラが、鳴きながら私の周りをくるくると飛び跳ねる。
しばらくすると、腕の中に飛び込んできた。
それを難なく掴まえギュッと抱きしめると、嬉しそうに目を細めた。
「さて、どっちの方向へ行くんだ?」
ドルイドさんの言葉に、シエルがじっと森の奥を見つめる。
あれ?
いつの間にかソルがドルイドさんの頭の上に乗ってる。
いつ乗ったんだろう?
「にゃうん」
しばらく森を眺めていたシエルが、一鳴きすると歩き出す。
それを見てドルイドさんと私が歩き出すので、アシュリさんも慌てて付いてきた。
「あの、もしかしてシエルに任せているんですか?」
「そうですよ。シエルは森に詳しいので」
「そうなんですか」
アシュリさんの戸惑った声に首を傾げる。
何か、おかしいだろうか?
「驚くだろ? 最初俺もかなり驚いたから、今のアシュリの気持ちがよくわかるよ」
ドルイドさんが楽しそうにアシュリさんの肩をポンと叩く。
「そうですね。ここまで信頼関係が出来ているなんて、すごいです」
信頼関係?
テイマーなのだから、テイムした魔物たちを信用するのは当たり前だと思うけどな。
だって、相手も私を信用して一緒にいてくれると判断してくれたのだから。
「信頼するのは当たり前ではないですか?」
「えっ?」
私の言葉にアシュリさんが何か考えこんでしまう。
それを不思議に思い眺める。
違うのだろうか?
「私を信じて力を貸してくれるんですよ? 信頼しないわけないですよね?」
「……そうか。アイビーさんはそうだね。ただ、力で抑えつけるテイマーも多いから」
力で?
ん~、それって。
「もったいないですよね」
「もったいない?」
「最初は力によるテイムだとしても、ずっと力で押さえないと協力してくれない関係だなんて」
せっかくテイムしたのだから、新しい関係を築けばいいのに。
「力で押さえ込んでしまったら、信頼関係を結ぶのは難しくないかな?」
「そうなのかな? 確かに時間はかかるだろうけど」
無理なの?
でも力で押さえつけた魔物って、どれくらい協力してくれるんだろう。
「ソラ、フレム」
「ぷっぷぷ~?」
「てっりゅりゅ~?」
シエルの上にいるフレムと、腕の中にいるソラが私を見る。
ソルはドルイドさんの頭の上で、お昼寝中。
「ん~なんて言えばいいのかな。力で抑えつけられた関係でも全力で協力してくれるのかな?」
2匹はじっと私を見つめたまま揺れない。
つまり全力で協力はしてくれないという事か。
「半分ぐらいの力で協力してくれる?」
「「…………」」
えっ?
揺れないって事は半分以下なの?
「えっと、3割ぐらいは協力してくれる?」
「ぷっぷぷ~」
「てっりゅりゅ~」
3割なのか。
少ない!
「3割の力しか貸してくれないのか? 思ったより少ないな」
「えっ? えっ? あの、今の何ですか?」
「力で抑えつけた関係の場合の、魔物の協力してくれる割合だよ。全力の3割だって」
「……マジで! あっ、すみません。本当ですか?」
アシュリさんが、慌てて言葉を言い直す。
「アシュリさん、言葉は別に気にしなくてもいいですよ」
「いえ、けじめなので。でも、ありがとうございます」
けじめ?
「あの、3割って本当ですか?」
「シエル、3割って本当?」
シエルをテイムしている感覚が無いけど、訊いておこう。
「にゃうん」
「本当みたいですね」
私の言葉に、暗い表情を見せるアシュリさん。
何かあったのかな?
「どうかしたのか?」
「ハタヒ村で働くスライムの処理能力が、ここ数年ずっと落ち続けているんです。テイムした魔物を入れ替えても変わらなくて」
魔物を入れ替える?
テイム関係を解消するって事かな?
「ソラ、テイム関係って解消できるの?」
私の質問にソラとフレム、シエルがぱっと私を見る。
ん?
「いや、違うよ。私はテイム関係を解消するつもりはないよ。ずっと一緒にいるつもりだからね。本当に!」
ジーっと3匹に見つめられるのを、緊張しながら見つめ返す。
しばらく凝視された後、ソラが「ぷっぷぷ~」と鳴いた。
立ち止まっていたシエルがゆっくりと歩き出す。
それにほっとする。
まさか、あんな反応されるとは思わなかった。
「あれ? 今のソラの反応ってどっちなんだろう」
驚き過ぎて、質問した内容を忘れてしまった。
「テイム関係を解消できるって言ってるぞ」
ドルイドさんが苦笑を浮かべながら、私の頭をポンと撫でる。
隣に来たドルイドさんを見上げる。
視線が合うとくすりと笑われた。
「皆に愛されてるな」
「嬉しいです。私も皆を愛してますから!」
「にゃうん」
「ぷっぷぷ~」
「てっりゅりゅ~」
「ぺふっ」
あれ?
最後の鳴き声にドルイドさんの頭の上に視線を向けると、ものすごく眠そうな視線と合う。
「皆ありがとう。ソルもね」
「ぺふっ」
私たちのやり取りを見ているアシュリさんが急に立ち止まる。
それにつられて皆が立ち止まって、アシュリさんを見る。
「あのシエルたちに質問してもいいですか?」
「皆、良いかな?」
「にゃうん」
「ぷっぷぷ~」
「てっりゅりゅ~」
「ぺふっ」
「どうぞ」
アシュリさんが神妙な顔でシエルたちの顔を順番に見る。
「力でテイムした魔物との信頼関係は築けますか?」
「にゃうん」
「ぷっぷぷ~」
「てっりゅりゅ~」
「ぺふっ」
「築けるみたいですよ。それは難しい?」
「「「「…………」」」」
「信頼関係を築くのは難しくないみたいですよ。えっと、時間はかかる?」
「にゃうん」
「ぷっぷぷ~」
「てっりゅりゅ~」
「ぺふっ」
「時間はかかるけど難しくはない」
あれ?
時間が掛かるのなら難しいと言えるのでは?
「にゃうん」
「ぷっぷぷ~」
「てっりゅりゅ~」
「ぺふっ」
「え~っと、信頼関係は力でテイムした魔物でも築ける。時間はかかるけど難しくはない。だ、そうです」
アシュリさんが皆の返答を聞いて、ほっとした表情をした。




