349話 寝坊した
窓から入る太陽の光に目を細める。
随分と太陽の位置が高い気がする。
もしかして寝過ごした?
「その割には、ん~?」
いつもより長く寝た割には疲れが取れていない気がする。
まぁ、2日間楽しかったけどきつかったからな。
まさかハタヒ村の祭りがこんなに体力がいる祭りだとは思わなかった。
「踊るだけだから、余裕だと思ったのに……」
3日目と4日目は春の訪れを祝う踊りの日。
本通りの輪に時々参加させてもらって、思いっきり楽しんだ。
踊りの種類は1種類なので一度覚えてしまえば難しくはなかった。
ただ、音楽の速度が早くなったり遅くなったりして踊りを合わせるのが大変だった。
4日目も同様に踊るのだが、4日目には違う調べと踊りが用意されていた。
3日目よりも速度が速く軽い曲調で動きが少し激しかった。
また、前後で踊っている人と手を合わせてくるくる回ったり、3日目以上に楽しんだ。
が、踊る時間が長い!
休憩をはさみながら、合計2日で10時間以上。
楽しかったため誘われたらついつい参加してしまい、4日目の午後になるとかなりへとへとだった。
だから、昨日は早めに寝たのにな。
「今何時だろう?」
ベッドの上で起き上がって伸びをする。
腕を上に上げると背筋が伸びるのが、気持ちいい。
「おはよう。今は11時だよ」
部屋に備え付けられていた椅子に座り、ソラと遊んでいたらしいドルイドさんが答えてくれた。
視線を向けると、頭の上にはフレムが乗っていた。
「ごめん、寝過ごした。皆、おはよう」
「ぷっぷぷ~」
「にゃうん」
「てっりゅりゅ~」
「ぺふっ」
「昨日は頑張りすぎたからな、仕方ないよ。ただ、アイビー」
「何?」
「明日が祭りの本番だけど、大丈夫か? 疲れでしんどくないか?」
そうだった。
昨日はまだ前祭だった。
明日が本祭で色粉の団子のぶつけ合いだ。
「今日、ゆっくりすれば大丈夫」
「そうか、よかった。まぁ、明日は昨日のようにそんなに体力はいらないから」
「そうなの?」
ぶつけ合うのに?
「別に逃げるわけではなく、ただ目の前の人に団子をぶつけるだけだから。昨日より楽だぞ」
「そっか。よかった」
ベッドから出て服を持って洗面所へ向かう。
顔を洗い歯を磨いて服を着替える。
そういえば、本祭について詳しく聞いてないな。
「ドルイドさん、明日は何か決まり事があったりするの?」
「貰える団子の数は30個で、団子がすべてなくなればおしまい。ぶつける相手は誰でもいいが、ぶつける色はなるべく付いていない色を選ぶ事。時間はお昼の1時から3時まで」
時間が決まっているのか。
2時間の間に30個?
そんなに必要なさそうだけどな、ぶつけてしまったらお終いなんだよね。
「簡単そうだけど、色を選んでぶつけるのが結構大変なんだ。他の人にすぐ付けられるからな」
「あ~、なるほど」
「まぁ、絶対に違う色と決まっているわけではないから。ただ、様々な色を付けられる方が幸せになれると言われているからな。皆、結構必死ですごいぞ」
何となく必死になる風景が思い浮かぶな。
踊りの時も、意地でも休憩しないってすごい張り切っていた人いたもんね。
そういえば、あの人は最終的にどうなったんだろう。
「あと、参加する人が多くなり過ぎたからと、前回から初日に参加する人と2日目に参加する人を抽選で分けるようになったみたいだ」
「そうなんだ」
「あぁ、最後に俺が参加した時の倍ぐらいの参加者がいるらしい」
「倍ですか? まぁ、これだけすごい人だもんね」
どこを歩いても人、人、人。
さすがに少し慣れたけど、やっぱり人の多さに圧倒される。
「そうだ、抽選はしておいたから」
「ありがとう」
「参加するのは初日。フォロンダ領主の話を聞きたいって言っていたからちょうど良かったよ」
「うん。せっかくだったら話を聞いて団子をぶつけたい!」
「多分、フォロンダ領主に団子をぶつけに行く人は少ないから簡単だよ」
「貴族だから?」
「まぁ、そうだな」
ぐ~。
あっ、お腹がなってしまった。
「朝ごはん抜いてるからな。ちょうど時間もいいしお昼にしようか?」
「うん。あっ、また見てるね?」
「うん? あっ、そうだな」
皆に声をかけようとすると、窓の外を見ているソルが視界に入ってくる。
なんだかその姿を見ていると不安になる。
「どこかに……いえ、なんでもないです。皆、ちょっとご飯食べてくるね」
そういえば、そろそろ捨て場に行ってポーションとマジックアイテムを拾ってきたいな。
ただ、人が多い。
「どうした?」
「捨て場に行きたいなと思って」
「あぁ、持っていたマジックバッグを全部使って準備したが、少し心もとなくなってきたな」
「うん」
人が多くなると捨て場へも行けないだろうという事で、持っているマジックバッグすべてにポーションとマジックアイテムを詰め込んで1週間ぐらいは凌げるように準備した。
が、思ったより早く人が集まったため、予定していた日より前に捨て場へ行けなくなってしまった。
ソラとフレムはまだ大丈夫だが、ソルのご飯が不足する可能性がある。
無くなる前に捨て場へ行きたいけど。
「難しいな。本当にどこにでも人がいる状態だからな」
「そうだよね」
あれ?
そういえばお昼を作るはずなのに、どうして宿の食堂に降りて来たんだっけ?
宿は基本、お昼は出ないよね?
「ドルイドさん。お昼ご飯を作らないの?」
「それが、前に牛丼をチッカルさんに少し分けただろう?」
そういえば、そんな事があったな。
米を食べているところに遭遇して驚かれ、牛丼の具を見て分けて欲しいと懇願されたんだっけ。
あまりの勢いに、味見に少しお裾分けしたな。
「あの時、作り方を教えただろう?」
「うん。それほど難しくなかったから口頭で簡単に説明したね」
「あぁ、それで作ったらしい。味見をお願いしたいと朝、会った時にお願いされたんだよ」
すごいな。
難しくないとは言え、ご飯の炊き方はちょっとコツがいるのに。
「おはようございます。今日はわざわざすみません。すぐに完成させるので、椅子に座って待っててください」
私たちの気配を感じたのか、食堂に顔を出すチッカルさん。
「おはようございます」
挨拶を返すと、すぐに調理場へ戻ってしまった。
しばらくすると食欲を刺激するいい香りが漂ってくる。
「うっ、お腹がすいている時にこの香りはきついよ」
さっきからお腹の音が鳴りやまない。
「お待ちどうさま。『こめ』を炊くのが結構難しかったよ。水の量を間違えるとドロドロになってしまって」
「それはそうとう水の量が多かったのではないですか?」
「ははは。実は量り間違えてしまって、教えてもらった水の3倍を入れてしまったんだ。鍋の蓋を開けてびっくりしたよ。どろどろになっていたから」
「あれはあれで美味しいですよ。塩を入れて味をつけて、他にもポン酢や醤油を入れて味付けするのもお薦めです」
「そうだったのか。食べてみたんだが、味はしないしなんというか見た目がね。だから捨ててしまった」
あっ、勿体ないな。
「消化がいいので、熱で食欲が落ちた時とかお薦めですよ」
「へぇ~、そうなんだ。他には? 具を乗せるのは駄目なのかな?」
「良いと思います。少し濃い目に味付けした肉とか合いますよ」
「次、失敗した時に挑戦してみるよ」
失敗が前提なのか。
ちょっと違うような気がするけど、食べなれてないから仕方ないのかな。
「どうぞ。似たような味になっているといいですが」
「「いただきます」」
牛丼を1口食べる。
美味しい、ただ少し味が濃すぎるかな。
食べ続けると、きっと気になる濃さだ。
感じた事をドルイドさんと一緒にチッカルさんに伝える。
「ありがとう。ドルイドさんとアイビーさんがいる間に完成させて、夕飯に出すつもりなんだ」
なんだか少しずつ米が広がっている。
まぁ、いい事だよね。