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348話 踊りの日

今日は前祭3日目。

今日と明日は本通りで春の訪れを祝う踊りの日となる。

話には聞いていたけど、これはすごい。

本通りには楽器を持った人たちが音楽を奏で、それを中心にして人が2列になって大きな輪を作っている。

音楽は楽しげな印象を受ける小気味よい調べで、皆楽しそうに踊っている。


「良い調べですね」


「あぁ、そうだな」


皆の踊りを見ていると、皆が同じ動きをしている事に気付く。

どんな風に踊るのか不安だったけど、それほど難しくないみたいで安心した。


「皆が同じ動きをするんですね」


「あぁ、この祭りはそうなんだ。中心に2人の人がいるのが見えるか?」


ドルイドさんが指す方向へ視線を向けると、楽器を奏でている人の隣に踊っている人がいる。


「はい」


「彼らの踊りが基本となっているんだ。あれを真似て皆が踊るんだ」


なるほど。


「まるで、盆踊りみたいですね!」


「ぼんおどりとは何だ?」


「えっ? 何って祭りの時に踊る……何?」


あれ?

今何か無意識に口から発したよね。


「私、何か言いましたか?」


「ぼんおどりみたいだって」


「ぼんおどりみたい? あれ? 何だっけ?」


「それは俺が訊きたいんだが、もしかして昔の記憶?」


「そうみたい。無意識に出たみたい」


ぼんおどり、踊りを見て言葉が出たって事はこの踊りがそう見えたって事かな?

おかしいな、言葉が出たのなら何か印象があるはずなのに、何も浮かんでこない。

前の私の世界にも、こんな祭りがあるのか気になるのに!


「アイビー、踊ろうか」


「うん。でもこれは、どうやってあの輪に入れてもらうの?」


踊っている人たちを見るが、人が多いためあまり余裕がない。


「割り込むのは大変そうだな」


「いや、この状態で割り込んだら喧嘩になるから駄目だよ。見ている人たちより1歩前に出て手を挙げるんだ。そうしたら入れ替わってくれるから」


なるほど。

ドルイドさんと並んで手を挙げる。

少しその状態で待つと、8歳ぐらいの女の子を連れたお母さんと思われる人が私たちと入れ替わってくれた。


「ありがとうございます」


「いいえ、よい1日を」


掛けられた言葉に首を傾げる。


「よい1日を」


ドルイドさんが同じ言葉を口にする。


「ドルイドさん、それには何か意味あるの?」


「あっ、ごめん。言い忘れていたな。『よい1日を』がこの入れ替わった時の挨拶みたいなものなんだ」


そうなのか。

次は言ってみよう。


前の人や中心で踊っている人を見ながら真似て踊る。

あれ? 

手が逆だった。

間違えた!


「難しい……簡単そうに見えたのに」


「初めてだから仕方ないよ。でも1度覚えてしまうと後は繰り返しだから。落ち着いて」


そうなんだけど。

あっ、また手が逆だ。

もしかして私、踊りに向いてないのかな?


「大丈夫。落ち着いてゆっくり。右、で左。そうそう」


後ろにいるドルイドさんに助けてもらいながら、何とか踊る。

少しずつ形になりだすと、今度は音に合わせるように踊ってみる。

1度踊れると繰り返しなので、少しずつ踊るのが楽しくなってくる。


「楽しいですね」


「そう言ってもらえてよかった。さっきまではちょっとハラハラしたから」


後ろから見てたドルイドさんには、きっと可笑しな動きをしているように見えたんだろうな。


「恥ずかしい。それにしても疲れた~」


「もう30分以上は踊っているからな」


「えっ、そんなに?」


必死に踊っていたので気付かなかった。

それは疲れるな。

あれ?

でも、私の前の人はずっと同じ人なんだけど。

疲れないのかな?


「そろそろ変わろうか。あそこにちょうど待っている人がいるし」


進行方向を見ると、夫婦か恋人なのかは分からないが緊張した面持ちの男性と、それを見て笑っている女性がいる。


「彼らに代わってもらいますね」


女性の方が私たちの視線に気付いたのか、男性に伝えている。

それに男性が、大きくため息をついたように見えた。


「よい1日を」


「よい1日を」


入れ替わってから、その2人の様子を見る。

女性は慣れているのかすぐに音楽に合わせて踊りだすが、男性の動きが可笑しい。

もしかしたら私と同じで初心者なのかもしれない。

彼の動きを見ていると、先ほどの自分自身の動きを思い出す。

彼は私といい勝負かもしれないな。


「アイビー、お昼でも食べに行こうか」


「うん、宿まで戻る?」


昨日の夜、お昼のためにスープを作っておいた。


「そうだな、さすがにここでは落ち着いて食べられないから、宿に戻ろう」


「うん、そうしよう」


ドルイドさんと歩き出すと、1つの屋台が視界に入った。

そこにはサンドイッチが並べられているように見える。


「サンドイッチだ」


ドキドキしながら近付くと、確かにサンドイッチがある。


「いらっしゃい。これはオトルワ町で流行っている『さんどいもどき』だよ」


「はっ? さん? えっと、さんど、なんだっけ?」


お店の人が笑って『さんどいもどき』だと教えてくれる。


「オトルワ町で有名なんですか?」


「あぁ、英雄たちが広めたんだ」


英雄?


「それって、ボロルダさんたちじゃないか?」


小声でドルイドさんが話す。

ボロルダさん?

と言うことは、やっぱりサンドイッチかな?

まぁ、見た目は完全にサンドイッチだから疑いようがないけど。

それにしてもなぜ『さんどいもどき』なんておかしな名前になっているんだろう?

 

「買って帰ろうか?」


ドルイドさんの提案に、気になっていたためつい勢いよく頷いてしまう。


「うん、美味しそう」


並んだ『さんどいもどき』を見る。

どれも具が多く、それなりの厚さがある。

と言うか、具が多すぎるような気がする。

これだと1個でお腹一杯になりそうだ。


「何個ぐらい食べられそう?」


「1個でも十分だよこの大きさなら」


「そうか? 俺は2個? いや3個だな」


店主に『さんどいもどき』を4個お願いする。


「中身はどうする?」


「肉入りを」


『さんどいもどき』には肉入りと野菜だけのものがあった。

売り場を見る限り、肉入りのほうが人気なようだ。


「了解。はい」


店主から『さんどいもどき』を受けとると代金をドルイドさんが支払う。


「ありがとうございます」


「まいどあり」


人の波に流されないように気を付けながら宿へ向かう。

宿が見えるとほっとしてしまう。

祭りの雰囲気は楽しいが、人の多さになれない。


「お帰りなさい」


宿に入ると、チッカルさんが声をかけてくれた。


「ただいま帰りました。疲れた」


「人が多いから移動するのも大変だな」


ドルイドさんも少し疲れた表情だ。


「参加する人が年々増えてますからね。昔はこれほど多くなかったんですよ。だから踊りの休憩がとれず、そっちが大変でした」


休憩が取れずという事は、昔の人は踊り続けたの?

すごい体力だな。

私には無理だ。


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― 新着の感想 ―
[一言] 代わってくれる人がいないと踊り続けないと駄目なんだ…シンドそう…。
[気になる点] 料理名言う時テンパってた記憶があるから、その名前がそのまま伝わってるんですよねぇ……
[気になる点] アイビー自身がサンドイッチもどきを作りましたよね? 前世の記憶から突発的に作ったみたいなので・・・・ たいした物じゃなかったから忘れたかな? あるいは先日の灰色で忘却させられたのか…
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