344話 魔石もレア
「シエルは魔石の力を借りて、スライムに変化して村に入っています」
どう言えばいいか少し迷ったが、ソラとフレムがタブーロ団長さんの周りを楽しそうに飛び跳ねているのを見て、すべて隠さず説明した。
「魔石の力? スライムに変化? そういえば、存在を変化させる魔石があると文献で見た気がしますが。えっ? あれをお持ちなんですか?」
「はい」
タブーロ団長さんが飛び跳ねているソラを見る。
そしておもむろに両手でソラの大きさを測り、シエルを見て首を傾げている。
恐らく、ソラの何倍もあるシエルがスライムの大きさになるのが不思議なのだろう。
実際に自分の目で確かめないと、あれは信じられないと思う。
アシュリさんは巨大な魔力を持つ魔物が目の前に現れた衝撃で、スライムがアダンダラになった衝撃をきれいさっぱり忘れていた。
数回遊びに来たあと、たまたま今度はアダンダラからスライムに変化するのを見て、驚きの声を上げていた。
「魔石までレアとは」
「あははは。でもその魔石があってよかったです。一緒に行動できるようになりましたから」
フレムにはとても感謝している。
フレムが変化が出来る魔石を作ってくれなければ、シエルに寂しい思いをさせる事になっただろうから。
「あぁ、そろそろ時間切れのようです。残念だ。これから忙しくなるので、会いに来れないし。村にいるとわかっても、私が行けば目立ちますからね」
村に居たら会いに来るのかと思ったのに。
まぁ、目立つから遠慮してくれるのは嬉しい。
「アダンダラの場合は、いろいろ名目が作れるがスライムだとそれは出来ませんからね」
なるほど。
ドルイドさんの言葉に頷く。
アダンダラの場合、巨大な魔力を持っている事を理由に様子見が出来そうだけどスライムでは無理だよね。
たとえそのスライムがレアだとしても。
「えぇ。村の中にいるとわかっているのに、会えないとは」
あれ?
村に入れないと思っていた方がよかったのかな?
「タブーロ団長、時間は大丈夫ですか?」
「少しくらい」
「副団長に怒られますよ」
「そうだな、仕方ないか。帰るか。今日はありがとうございました」
ようやく踏ん切りがついたのか、大きくため息をつくと私たちに礼を言う。
そして視線がシエルに向かうと、またため息をつく。
これから祭りで忙しくなるため、本当に会いに来ることは難しいのだろうな。
「ははは、頑張って下さい。俺たちも祭りを楽しみにしているので」
「わかりました。必ず成功させますよ」
タブーロ団長さんは最後にシエルを撫で、ソラとフレムも撫でてから村へ戻っていった。
アシュリさんも一緒に帰るようなので手を振って見送る。
ソルの事を言えなかった。
バッグを開けて確認するが、まだ寝ている。
「それにしても、午前中から来るとは思わなかったな」
「そうですね。来るとしても午後からだと思ってました」
話を聞いた翌日の午前中。
さすがに、あまりの早さにドルイドさんと私は少し唖然とした。
「それにしてもよく時間作れたよな。祭りの準備で忙しいだろうに」
「周りの人たちが大変な目に遭ってそうですよね」
「まぁ、そうだろうな」
ドルイドさんが笑うので、つられて私も笑ってしまう。
周りの人たちには申し訳ないと思うが、慌てているのを想像すると面白い。
きっと、思い切りがいいんだろうな。
それが上に立つ人には必要なのかもしれない。
「まぁ、今日の予定を終わらせるか。そろそろ祭りで人が増えてくる。狩りも出来なくなるだろうからな」
「出来ないかな?」
「人の出入りが多くなるからな、魔物がその時期だけ姿を見せなくなるんだよ」
「そうなの? 魔物も人を避けるんだね」
「弱い魔物にとっては人も天敵だからな。人の気配で近付いてくるのは興奮しているか凶暴化しているか、もしくは人を襲う種類の魔物だな」
この村に来るまでに見た、凶暴化した魔物を思い出す。
「凶暴化している魔物は当分の間は遠慮したいです。ここに来るまでに十分堪能したので」
目がすごく怖かった。
シエルやドルイドさんが守ってくれたけど、怖かったし心配だった。
「私も何か戦えないかな?」
今回の事で、私が足手まといになっていると感じた。
でも、戦うスキルは無いし。
ちょっと訓練しても、なぜか一向に上達しない。
ラットルアさんに見てもらったけど、苦笑いされて魔物に遭遇しないよう気配を探る力の強化を勧められた。
上達する兆しが全くなかったらしい。
「ん~」
ドルイドさんにも見てもらったもんね。
その反応の意味は分かります。
「襲われた時、逃げる時間を稼ぐだけでもいいんです」
シエルとドルイドさんが私を気にすることなく戦えるようにしたい。
凶暴化した魔物に襲われた時、シエルもドルイドさんも私が狙われていないか気にしていた。
それって、目の前の魔物から気がそれているって事だよね。
もし、それがもとで怪我でもしたら……。
「そうだな、王都に行くなら考えておいた方がいいかもしれないな。王都周辺は危ない者たちが多いからな」
危ない者?
「魔物ではなく人ですか?」
「そう。人は魔物より狡猾で悪質だ。知識がある分、厄介な存在なんだよ」
王都の事を聞くほど、行きたくなくなるな。
この国の中心部なのに。
「だから、アイビーの言うように隙を作る何かを準備するのはいいかもしれないな」
「そんなのあるの?」
ドルイドさんが難しい顔をする。
色々考えてくれているのだろうけど、思い当たる物がないのかな?
「今は何も思いつかないな。魔物だと単純なものでいいが、人となると厄介だからな」
そんなに人って厄介なのかな?
「悪い事をする奴らは、準備もしているしある程度の対応には慣れている。だから難しいんだ」
「そっか」
「まぁ、王都に行くまでまだ時間があるからゆっくり考えよう。マジックアイテムで役に立ちそうなものを探すのも手だな」
「ローズさんにファックスで訊いてみるのもいいですね」
「そうだな。彼女に助言をもらうのもいいかもな」
しばらく森の奥へ向かって歩くと、キブラカルラの木が数本育っている場所に出る。
2日前に見つけた、新しい罠を仕掛けた場所だ。
「今日も成功みたいだな」
罠にかかったのだろう、カゴを揺らしている音が聞こえてくる。
それも音からして3か所。
罠は3か所に仕掛けているので、今日も大成功と言える。
「そういえば、今日は再挑戦するって言っていたな?」
「そう。記憶をもう少し詳しく思い出したの。生地を捏ねるときはお湯を使うといいみたい」
生地については、もう1つ気になることがあるんだよね。
記憶の中では生地が出来てから、伸ばすまでに少し時間が空いている。
最初は、具を作るための時間だと思ったのだけどどうも違う気がするんだよね。
わざと放置をしているような……。
「生地なら俺に任せろ」
「ありがとう、だったら私は具を完成させるね」
記憶にあるように、生地が完成してから具を作り出そうかな。
「具なんだけど、ちょっと辛めの味が作れるかな?」
辛め?
「あっ。明日休みにしたから、今日はお酒を飲むの?」
「あぁ、久々に飲みたい気分でさ。『ぎょーざ』を食べて思ったんだけど、絶対に酒に合うって」
「わかった。だったら味は前に作った味と少しピリ辛の味にするね」
入れる野菜を変えると少し味が変わるな。
ガッツリ食べるなら肉を増やす?
でも、野菜もしっかり入っていた方が美味しいよね。
「野菜と肉の分量は問題ない?」
「問題はなかったよ。美味しかった。ただ、俺の好みで言えば、もう少し肉が多めがよかったかな」
好みの問題になるのか。
だったらピリ辛味の方のお肉を少し多めにしようかな。
あとは、皮を薄くして大きさを2口サイズにする。
「さて、とっとと解体するか」
「うん。皮づくりは時間が掛かるもんね」
最近、解体で手間取っているのは私。
もっと速くお肉を捌けないかな?
もう、ドルイドさんもシエルも皮を剥ぐの速すぎ!