337話 相談は大切
倒れてしまったアシュリさんをシエルにお願いして、罠を仕掛ける。
カゴの強度も増したし今度こそ捕まえたい!
「アシュリさん、大丈夫かな?」
「大丈夫だろう。もう少し安定させたいから土を平らに移動させよう」
「どっち? こっち?」
罠を仕掛ける場所を平らにするために、土を少し移動させる。
強度を増したカゴをマジックバッグから出して、平らにした土の上に置く。
「動かないように固定しないとな」
「うん。でも、どうしてアシュリさんが気絶するかもしれないと思っていたの?」
「警戒より興味のほうが強かったからな」
警戒より興味?
確かに巨大な魔力を感じている割には警戒心がなかった。
あれは、どうしてだろう?
「普通はもっと警戒するよね?」
「経験の差だな。まだ若いから、自分が知りたいという思いが強すぎたんだろう」
「それで1回、命を狙われているんだよね?」
似たような失敗を繰り返すかな?
バッグから、捨て場で拾ってきた長い釘12本を出す。
「そうだけど、今回はアイビーという壁があったから警戒心が薄れたんだろう」
「私?」
釘を使ってカゴを地面に固定していく。
「子供であるアイビーが持っているのだから巨大な魔力でも大したことない。どこかでそう思ってしまったのかもな」
その考えは危ないな。
「これがもう少し色々な経験を積んでいたら、興味より警戒心が強くなるんだけどな」
「そういうものなんだ」
「最初は町への影響を気にしているのかと思ったんだが、様子を見ると自分の興味のほうが強いみたいだったからな。それに、誘ったらすぐに乗ってくるのも駄目だ」
こちらから誘ったのに駄目だったの?
どうしてだろう?
……わからない。
それにしても、ドルイドさんはいろいろと考えてくれているな。
「警戒心があれば、アダンダラを見てもとっさに対処できたはずだけどな」
興味のほうが強かったから、不意打ちを食らって気絶したって事か。
私も1人で旅をしている時、休憩の時に上を見たら木の上にいた魔物と目が合って怖さで意識を失いそうになったことがあるな。
あの時は、死に物狂いで逃げた。
だって、あそこで気絶したら死ぬと思ったし。
何とか逃げられたのに、森の中で迷子になって大変だった。
「こんなものかな?」
カゴを掴んで少し動かしてみるが、うまく地面に固定できているようだ。
最後にキブラカルラの実を木から採って、カゴの奥に入れる。
「大丈夫そうだな。後は葉っぱなどでカゴを隠そうか」
周りを見るが使えそうな物は落ちていない。
「ん~、ちょっと葉っぱを集めてきますね」
「頼む。あまり遠くまで行くなよ」
「もちろん!」
人が近づいてきていないか気配を探って調べる。
大丈夫そうだな。
急いでカゴを隠すための葉っぱや枝を探す。
ある程度集め終わったら、罠を仕掛けた場所に戻りカゴの上に集めてきた葉っぱを乗せた。
「ありがとう。きれいにカゴが隠せたな」
「うん。そっちは?」
今日は話をする予定だったので罠を仕掛ける時間が取れない可能性があると思い、準備した罠の数は2個。
1つは目の前にある罠。
もう1つは、どこだろう?
「あぁ、こっちだ。この間アイビーが見つけた茂みの中にした。ここはいい狙い目の場所だと思うんだ」
「うん。あそこはいいと思う!」
認められたみたいで嬉しいな。
罠を仕掛け終わり、アシュリさんのもとへ向かう。
「起きてるみたいですね」
起き上がって、近くにいるシエルを見て固まっている。
「起きたか」
ドルイドさんが声をかけると、ゆっくりとした動作でドルイドさんに視線を向ける。
そして口をパクパクさせている。
「シエル、ありがとう」
「にゃうん」
シエルが寝そべっていた体勢から起き上がって座る。
頭をゆっくり撫でると、隣からものすごい視線を感じた。
見ると、アシュリさんが口を半開きにしてこちらを見ている。
「アシュリ団員、しっかりしろよ。で、正体がわかってどうだ?」
「えっ? あの、驚いてしまって」
アシュリさんが、ちらりとシエルを見ながら答える。
それにドルイドさんが大きくため息をつく。
「あのな、俺たちだからよかったけど危ない事をしたと気付いているか?」
「「えっ?」」
アシュリさんと私の声が合わさる。
危ない事とは何?
「アシュリ団員、今日俺たちに巨大な魔力の正体を教えてもらうことを誰かに言ってきたか?」
「絶対にそんなことはしていません!」
「はぁ、それが間違いだ」
そうなの?
だって、誰にも言わないって約束したのに。
「アイビーは君を使って、町に不利なことをしようとは思っていない。でも、これが何か悪だくみを考えている人物だったらどうする?」
ん~、巨大な魔力って確かにいろいろ使える……のかな?
あまり考えたことがないからわからないな。
「あっ。それは……」
場合によっては、町全体を危険にさらす事になるのかな?
「俺たちが話を持ち掛けた時、最初にすることは上司に話を通していいか俺たちに聞くこと。それは俺たちがすでにリッシュギルマスやタブーロ団長と顔見知りだからだ。もし知り合いでもない場合は、内密に上司に相談しておく必要がある」
なるほど、何かあった時のために情報を共有しておく事は大切だもんね。
だからすぐに誘いに乗ったことを駄目だと言っていたのか。
そういえば、巨大な魔力の事を私たちに内緒で団長に相談したことについては、当たり前という考え方だったな。
私も何かあったら相談するように気を付けよう。
「どうして、何も言わなかった?」
「それはドルイドさんだったから」
「人は数年でいろいろ変わる。だから、知り合いでも注意する必要がある」
あっ、これはいろいろな人に言われたな。
人は変わるから信じすぎるなって。
ドルイドさんも師匠さんたちに言われていたよね。
「すみません」
ドルイドさんはアシュリさんの反応を楽しむつもりでは無く、いろいろ調べたかったのか。
ちょっと誤解していたな。
「いや、俺も悪かったな。シエルがアダンダラだと言っておけばよかったよ」
「いえ、大丈夫です」
落ち込んだ声を出すアシュリさん。
これも経験なのかな。
「ぷっぷぷ~」
少し離れたところで遊んでいたソラが、勢いよくアシュリさんの頭に飛び乗った。
あ~、今はちょっと可哀そうかも。
「えっと、あの? ん?」
「アシュリ団員の頭の上に乗っているのはソラというスライムだ。その子は本物のスライムだから大丈夫だ」
「そっか、よかった」
ドルイドさんの言葉にせわしなく動いていた、腕がぴたりと止まる。
えっ?
魔力を見ればわかるのでは?
それとも、少し落ち着いたように見えるけどまだ混乱中?
ドルイドさんも苦笑いしている。
やっぱりまだ大丈夫じゃないのかな。
「まぁ、注意はこの辺で。何か訊きたいことは?」
「いいんですか?」
「アイビーに訊けよ。シエルをテイムしているのはアイビーなんだから」
「はい。アイビーさん、質問していいでしょうか?」
なんだか、すごい緊張感を持って訊かれてしまったな。
こっちも緊張してきそう。
「はい。気楽にどうぞ」
「本と勉強で教えてもらっただけなのですが、アダンダラで間違いないですか?」
アシュリさんの視線がシエルに向く。
「はい、シエルはアダンダラで間違いないです」
「……本物。初めて見ます」
呆然とシエルを見つめるアシュリさん。
正体がわかって、何か色々訊かれるのかと思っていたけど特に何もないのかな。
「罠、もう少し持ってきたらよかったね」
「そうだな」