333話 罠、全滅
「見事に全部壊されてるな」
森に仕掛けた罠を確認したが全滅だった。
見事にカゴの部分が潰れている。
「強度が足りなかったのかな? あっ、魔法かな?」
確か、オビツネは雷の魔法が使えるんだったよね。
「いや、壊れ方から見て強度の問題だろう。雷の魔法だったら焼けた跡が残るはずだが、それはない」
「そっか。どうやってカゴの強度を強くするの?」
「そうだな。カゴを2重にするか、縄をカゴに巻き付ける方法もあるな。どっちがいいだろう?」
カゴを2重にする方法と縄を巻き付ける方法?
カゴを縄でぐるぐる巻きにでもするのかな?
「よし、捨て場に行こうか」
ドルイドさん、楽しそうだな。
「にゃうん」
「シエル、どうしたの?」
どこか落ち着きがない様子のシエル。
「どうしたんだ?」
ドルイドさんも不思議そうに、シエルの様子を見る。
「にゃっ」
シエルは鳴くと潰されたカゴを見る。
あっもしかして。
「シエルも狩りに参加したいの?」
「にゃうん」
いつも助けてくれるもんね。
でも、1つだけ約束しておかないと。
「シエル、加減をして狩りをしてくれる?」
何も言わないと、すごい数を狩ってきてしまうからな。
「……にゃうん」
相変わらず、不服そう。
でも、ここで負けたら本当に大変な事になる。
「絶対に加減してね。シエル、お願い」
「にゃうん」
よしっ!
「面白いよな。普通のテイマーとは真逆のお願いをしてる」
「シエルは能力が高すぎるから。頑張ったら、森からオビツネがいなくなりそうで」
「ありえそうだな」
「やっぱり、そう思う?」
「あぁ、アダンダラにとってオビツネなんて簡単に狩れる獲物だろうからな」
そんなに差があるのか。
加減してとお願いしたけど、大丈夫かな?
シエルを見ると、尻尾を揺らして周りを見ている。
ん?
もしかして既に何か狩ろうとしているとか?
まさかね。
「にゃっ」
「えっ?」
「ん?」
シエルの声がしたと思ったら、颯爽と走る後ろ姿が視界に入った。
ドルイドさんと唖然とそれを見送る。
「なんだ?」
「さぁ?」
「ぷっぷ~」
近くで遊んでいたソラも不思議そうにしている。
フレムは、じっと走り去った場所を見つめている。
「まさか……違うよね?」
狩りに行ったとかじゃないよね?
いやいや、それは無いよね。
こんな短時間で狩れるわけないよね、きっと。
「あっ、帰ってきた。なんだ、狩ってきたのか」
「本当だ、狩って来ちゃった」
嬉しそうに尻尾を揺らして戻ってくるシエル。
その口にはおそらくオビツネ。
「あれが、オビツネですか?」
「あぁ、尾が2本だから間違いなくオビツネだな。それにしてもさすがだな」
「ぷっぷぷ~」
「てっりゅりゅ~」
ドルイドさんの言葉にソラとフレムが賛同するように鳴く。
「そうだね、確かにすごい」
でも、この調子で狩られたら村に戻るころにはかなりの数になっている気がする。
もう一度話し合おう。
シエルはあれでも、加減してくれてるのだろうから。
「シエル、お帰り。相変わらずすごいな、こんな短い時間で狩って来るなんて」
どさっ。
「にゃうん」
嬉しそうだから話しづらい。
そうだ、数に制限をかけたらいいのかも。
「シエル、狩ってきてくれてありがとう。1日5匹まででお願いね」
オビツネは確かに野兎より大きい。
だから5匹でも、結構な量のお肉になる。
「に~」
うん、むっちゃ不服みたいだ。
「お願い、私たちも狩りをしたいから」
そこで壊れたカゴを見ないの!
確かに今日は狩れていないけどさ。
「シエル、俺たちにも楽しみを分けてくれ、な」
「……にゃうん」
「いい子だなシエル。さて、せっかく狩ってくれたんだから鮮度が落ちる前に解体してしまおう」
「そうだね。オビツネの肉はどんな料理にするの?」
「主食がキブラカルラだからなのか、ちょっと独特の風味がある肉だな」
「そうなんだ。美味しいの?」
独特の風味か。
香りによっては料理の邪魔をするんだよね。
「どうだろう、オビツネの肉は塩焼きぐらいしか見たことないな」
それってかなり独特の風味があるって事じゃないのかな?
一度食べて確かめてみよう。
「今日の解体したお肉で夕飯作ってもいい?」
「あぁ、宿には今日の夕飯は断ってあるから、大丈夫だ」
「よかった。でもまずは解体しないと駄目だね。シエル、川の位置がわかる?」
耳を澄ましても水の音を拾えなかったのでシエルに訊く。
しばらく耳をぴくぴく動かして、1回鳴いた。
「その場所に案内してくれる?」
「にゃうん」
「ありがとう」
シエルの後を追って、川を目指す。
しばらく歩くと、大きな岩の間に川があった。
「岩のせいで水の音が聞こえなかったんだな」
「そんな事あるの?」
「岩の向きや川の規模で水音が聞こえなくなることがあると聞いた。本当かどうかは知らないけどな」
大きな岩と岩の間を流れる川はとても細い。
水の流れも穏やかで、水音が聞こえなくてもしょうがないのかもしれないな。
「解体は野兎と一緒でいいのかな?」
「あぁ、ただし大きいから血抜きに時間がかかる」
そうなんだ。
だったらとっとと解体を始めよう。
「手慣れているよな」
解体をしているとドルイドさんが私の手元を見ながらつぶやく。
「5歳のころからですからね」
「そうか、それは慣れるな」
血抜きに少し時間がかかったが、解体を終わらせる。
バナの葉で包むとマジックバッグに入れる。
時間停止はうれしい。
捨て場に寄ってから商業ギルドに行ける。
「次は捨て場だな。必要なのはカゴと縄。カゴは大きさが一緒のものが2個ずつあったらいいんだが」
「同じ大きさのカゴですね」
「あぁ、強度を強くするのに必要だから」
「わかった。頑張って探すね」
「ぷっぷ?」
ソラが足元に来て体を右に傾ける。
これは不思議や疑問を感じた時に、それを伝えようとする行動の1つ。
何を疑問や不思議に思ったのだろう?
今の会話からだよね。
「カゴ?」
「……」
違うと。
「えっと、捨て場?」
「ぷっぷぷ~」
捨て場に疑問?
あっそうか。
狩りの結果を見る前に捨て場へ寄ってソラたちの食事は終わらせてきた。
だからまた捨て場に戻る理由がわからないのか。
ドルイドさんとこの話をしていた時は、離れた場所でフレムと遊んでいたもんね。
「狩りに必要なものが欲しいから、捨て場に探しに行くんだよ」
「ぷっぷぷ~」
分かってくれたみたい。
「あっ、誰か来る可能性があるから、バッグの中にいてくれる?」
もう食事は終わっているからどうかな?
「ぷっぷぷ~」
「てっりゅりゅ~」
「ありがとう、ソラ、フレム」
「そういえば、ソルはまだ寝てるのか?」
ドルイドさんが2匹の周りを見て、私に訊く。
肩から下げているバッグの蓋を開けてドルイドさんに見せる。
中には食事が終わってからずっと寝っぱなしのソル。
「うん、まだ寝てる」
「そうか」
今日は何を思ったのか、食事が終わった直後からバッグの中で寝ている。
体調を心配したが、それは大丈夫だと言われた。
昨日の夜、寝られなかったのかな?
森から捨て場に向かって歩きながら、気配を探る。
捨て場に行くとどうしても村に近くなるから緊張するな。
「ソラ、フレム、シエル、バッグに入ってもらっていい?」
「ぷっぷぷ~」
「てっりゅりゅ~」
「にゃうん」
「ありがとう」
順番にバッグに入れて、村の門を見ながら通り過ぎ捨て場へ行く。
「よし、カゴだ!」
「はい!」