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329話 渋い!

ファックスを送った後、捨て場へ向かう。

周りの気配を注意して探るが、今日はこちらに向かってくる人はいないようだ。

まだ、気は抜けないけど。


「ソラとフレムは一緒に行動してね。今日はドルイドさんが一緒にいるから」


「ソラ、フレム。よろしくな」


「ぷっぷぷ~」


「てっりゅりゅ~」


昨日、宿でドルイドさんと話し合った結果を皆に話した。

皆、協力してくれると言ってくれた。


「ソルは私と一緒。よろしくね」


「ぺふっぺふっ」


「シエルもスライムの状態で、私の傍にいてね」


「にゃうん」


よしこれで誰か来ても大丈夫、きっと。

捨て場の中では周りの気配を読みつつ、皆の場所を確認して罠に役立ちそうなものを拾う。


「もういいのか?」


ドルイドさんの声に、視線を向けるとソラとフレムが彼の前でピョンピョン飛び跳ねている。

いつもより食事が終わるのが早いな。


「ぺふっ」


「えっ? ソルももういいの?」


「ぺふっ」


満足そうに鳴いて揺れているので大丈夫なのかな。

皆に無理をさせているのかな?

祭りを諦めた方がいいかな?


「アイビー?」


「はい?」


「いや、大丈夫か? 何か考え込んでいるけど」


「皆に無理をさせているのかなって」


捨て場を出ながら、ソラたちの様子を見る。

特にいつもと変わらない。

楽しそうな表情でみんなで遊んでいる。

でも、今日は確実に食事の時間が短かった。

ちゃんと食べられたかな?


「どうだろうな。訊いても大丈夫って答えるだろうしな」


皆、優しいからそう答えてしまうよね。


「ソラとフレムの食べる量は減っていた?」


「いや、いつもより早く消化されているような気はしたが、食べる量は変わっていなかったはずだ」


食べる早さが早くなっただけなのかな?

それだったら大丈夫?

でも、食事はゆっくり食べたいよね。

たぶん。


「明日も同じような感じだったら、もう一度皆で話し合おうか」


「そうだね」


捨て場を離れて森の奥へ向かう。

この村の周辺の森は、細い木が多く、見通しが良い。

隠れたい場合は、木の上に行くしかないかな?

上を見上げる。

春なのでうっすらと緑の葉っぱが出始めている。


「シエル、元に戻って良いよ」


周りの気配をずっと探っているが、人の気配はない。

少し遠くに魔物の気配はあるが、特に気にすることもないだろう。


「にゃうん」


元に戻ったシエルは前足を伸ばして背を反らせ、体をほぐしているようだ。


「気持ちいい?」


「にゃうん」


「よかった」


「にっ」


シエルの鳴き方が変わったので、様子を見る。

遠くを見て、私を見る。


「食事に行くの?」


そう言えば、旅の途中で食事に行ったけど少し前だったな。


「にゃうん」


「気を付けて行って来てね。この村には隠した魔力を読める人がいるみたいだから」


「にゃうん」


私の掌にすりすりと顔を擦りつけると、ドルイドさんに向かって一鳴きして走って行ってしまう。

心配だけど、お腹が空いているなら仕方ない。

帰りを待とう。


「もう少し奥に行こうか」


「うん。ドルイドさん、オビツネってどんな魔物なの?」


罠を仕掛けるならオビツネの事をもっと知らないとな。

魔物の本でオビツネを探したけど、載っていなかったんだよね。


「オビツネか。足が速くてすばしっこい。夜行性で木に出来た穴を巣にしていることが多い。あと、雷の魔法の威力はそれほどないが不意に襲いかかってくる事があるため、油断は出来ない」


すばしっこくて、夜行性。

不意打ちが得意か。


「巣の近くに罠を仕掛けるの?」


「巣を見つけるのが大変だろう。オビツネの好きな食べ物はキブラカルラの実だ」


「キブラカルラの実が主食?」


「あぁ、俺たち人間には渋い味だけどな」


味を思い出したのか、ドルイドさんの眉間に皺が刻まれる。

でもオビツネは食べているんだよね?

ちょこっと齧ってみようかな。


「春だけど、実はまだあるかな?」


「あぁ、それは問題ない。秋に実を付けて、冬を越して春になってから落ちるんだ」


「そうなんだ」


冬を越す実か。

ちょっと楽しみだな。


「あっ、あれがキブラカルラの木だ」


ドルイドさんが指す方向には、木の実が沢山実っているキブラカルラの木。


「沢山実がなってますね」


キブラカルラの木には想像以上の実がなっている。

手をちょっと伸ばせば届く所にも、実がなっている。

見た目は綺麗な緑。

美味しそうには見えないけど、気になるので1つ採って、少しだけ齧ってみた。


「うっ……」


凄い味。

かなり渋い、こんなに渋いなんて。

舌が。


「アイビー、もしかして齧った?」


「うっ」


頷いてから、マジックバッグから竹筒を出して水を飲む。


「すごいですね。渋いって言ってもオビツネが食べるなら大丈夫だろうって思ったんだけど」


「ちょっと齧っただけで口の中がギュッと何とも言えない状態になるだろう?」


「うん」


「しかしアイビーも俺みたいに齧るとは思わなかったな」


ドルイドさんも齧ったのか。


「このキブラカルラの実は薬実でもあるからな。皮も薬として使えるんだぞ」


「そうなの?」


確かにあの渋さ、何かに効果がありそう。


「さて、主食の実も見つけたしこの周辺に罠を仕掛けるか」


「了解!」


マジックバッグからいつもより大きめのカゴを取り出す。

キブラカルラの木の位置を確認しながら、カゴを置いて罠を仕掛ける。

キブラカルラの木から数十個の実を採って、カゴの中に置く。

後はカゴが分からないように、落ち葉や枯れ木などで誤魔化す。


「ドルイドさん、カゴが大きすぎて隠せない」


「あ~、その辺りは考えてなかったな。隠せるような枝を探してくるよ」


「分かった。次の罠を仕掛けておくね」


「あぁ、頼む。すぐ戻るから」


最初に仕掛けた罠とキブラカルラの木の位置を確認。

近くに茂みが有ったので、そこに罠を仕掛ける事にする。

これだと、罠を隠す方法が楽になるはず。


「よし、完成。あと1つは何処がいいかな?」


「悪い、遅くなった」


木の枝を抱えたドルイドさんが戻って来る。


「ありがとう」


「あれ? もしかして3つ目?」


「そう、茂みに仕掛けたから確認してほしい」


「分かった」


最後の仕掛けを設置しながら周りの気配を探る。

まだ、かなり遠いがこちらに近づく気配がある。


「ドルイドさん、人がこっちに来てるみたい。たぶん1人かな?」


「ソラ、フレム、ソル、集合。人が来てるみたいだ」


ドルイドさんの言葉に近くで遊んでいた3匹が勢いよく戻って来る。

そのままの勢いで、ソラとフレムが私の腕の中に飛び込んでくる。


「えぇ~、ちょっと2匹は無理だから!」


ソラはなんとか抱き締められたが、フレムは腕に当たって落ちてしまった。


「フレム、大丈夫?」


「てりゅー」


「拗ねないで」


「りゅー」


じとっと見てくるフレム。


「お前らな、遊ぶな。アイビーが困っているだろ」


ドルイドさんが、がしっと手でフレムを掴む。


「りゅー」


「はいはい。アイビー、ソラをバッグに入れてフレムも」


「てりゅー」


「人が来てるから、後でな」


「りゅっりゅ~」


「遊んでやるから」


あれ?

フレムとドルイドさんってこんなに仲が良かったっけ?

あ~でも、ドルイドさんとフレムは時々話をしていたかな?


「フレム、おいで」


バッグにソラを入れてから、ドルイドさんからフレムを受け取る。

下で待っていたソルをバッグへ入れて、気配を探る。

ゆっくりとだが、確実にこちらに近づいて来ている。


「罠の仕掛けも終わったし、帰るか」


「シエルがまだだけど」


「ゆっくり戻りながら待とう。そうだ、帰りにもう1ヶ所ぐらい罠を仕掛けられる場所を探さないか?」


「そうだね。ここだけだと不安だし」


キブラカルラの木を探しながら村へ戻る。

しばらくすると、こちらに来ている人の姿が見えた。


「あっ、あの人」


「昨日、捨て場であった自警団員だな」


こちらに気付くと軽く頭を下げるその人は、昨日シエルの魔力に気付いた自警団員。

ちょっと緊張する。


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― 新着の感想 ―
デカくて籠が丸見えは罠としては使えないもんな。 だんだん罠が難しくなってくるね。
[一言] 蒸留酒と紐を用意して、干し柿みたいに干してみるか? 案外渋抜きができるかも
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