328話 魔力察知スキル
捨て場から出て、村へ戻る。
「近いな」
ドルイドさんの言葉に頷く。
歩いてみると良く分かるが、本当に捨て場から村が近い。
気配をずっと探ることは出来るが、気配が薄い人たちは見つけにくい。
動いてくれれば気配が流れるので見つけられるが、その距離が短いと見逃してしまうかもしれない。
「自警団の奴らも、冒険者の奴らも強い奴ほど気配を消せるからな。厄介だ」
大通りを外れて、人がまばらな道を選びながら宿へ向かって歩く。
「どうしよう?」
「そうだな、ソラとフレムはなるべく近くにいてもらって、俺かアイビーのどちらかが傍にいる。ソルには手が空いた方が傍で待機しておく。そして誰かが近づいたらすぐさまバッグへ入れる。出来る事と言ったらこれぐらいかな。あとなるべく皆が近くにいる事も大切だな」
ドルイドさんの言うとおり、傍にいることで対応はすぐできるかな。
行動範囲が狭くなるから、皆には窮屈な思いをさせてしまうな。
「そうだね」
「シエルもスライムの姿で傍にいてもらおう。そう言えば、シエルの方が人の気配に気づいたのは早かったな」
「うん」
シエルが教えてくれなかったら、もっと対応が遅れたと思う。
「シエルにお願いして、誰か来たら教えてもらおう」
「分かった、お願いしてみる」
大まかな対応が決まったのでちょっと安心した。
完璧ではないけれど、とりあえず何とかなりそうかな。
「よし! とりあえず私はソラとフレム、もしくはソルの後をついて歩けばいいって事だよね」
「まぁ、そういう事だな。そう言えば自警団員の中に魔力に気付いた者がいたな」
「うん」
大きな魔力と言っていたから、きっとシエルの魔力に気付いたのだろう。
魔力が多いシエルには、森の奥以外ではばれないように隠してもらっていたのに。
どうして気付かれたんだろう?
「彼は魔力察知スキルを持っているのかもしれないな」
「魔力察知スキル?」
「珍しいスキルの1つだ。隠している魔力を感じる事が出来るんだ。星の数にもよるが、強さや距離を測る事も出来る。仲間にいると頼もしいが、逆だと厄介だな」
仲間だと確かに頼もしいだろうな。
「まぁ、自警団員は様子見だな。怪しまれたら、説明するか祭りを諦めて村を出よう」
「うん」
こればっかりは仕方無いね。
どれくらいの魔力を察知したんだろう。
確か大きい魔力を感じたって言っていたよね。
「あれ?」
「どうした?」
「魔力を感じたのなら、私のバッグを調べない?」
シエルはスライムになってバッグの中にいるのだから。
それともアダンダラの時とスライムになった時と魔力が違うのだろうか?
「そう言えばそうだな。……誰も追って来てないよな?」
「それは大丈夫。もしかして見られたかもと思って何度も気配を探っているけど、私たちを追う様子は一切なかったから」
さっきの自警団員の人たちは皆気配が薄かった。
なので何度も注意を払って気配を追ったけど、村ではなく森の奥へ向かった。
だから大丈夫。
「そうか」
先ほど出会った、魔力に気付いた自警団員を思い出す。
村へ戻る私たちを本気で心配してくれているようだった。
あれは演技ではないと思うけど。
「とりあえず、気を付けるしかないな」
「そうだね」
「アイビーは、シエルが隠した魔力を感じる事が出来るのか?」
「無理だよ」
そう言えば、皆魔力ってどんな風に感じているのだろう。
魔力についての本を読んでみたけれど、マジックアイテムとの相性の事ばかりで役に立たなかった。
私って、魔力が弱いせいなのか魔力を感じにくいと思うんだよね。
たぶん。
「ドルイドさんは魔力をどんな風に感じてますか? 私、良く分からなくて」
「分からない?」
「うん。気にしなければ魔力の有無も分からなくなる」
「それはそうだろう」
「えっ?」
「町には魔力を含んだマジックアイテムがごろごろしてる。それらをいちいち感じていたら生活がしにくいだろう? だから敏感な人以外はそんなもんだよ」
「そうなの?」
「あぁ、そこにあって当たり前のモノだから意識しないと認識しない。森ではどうだ?」
森?
確かに気配を読むときに一緒に魔力を感じるな。
そう言えば、その時にどんな強さの魔物なのかを自然と理解している気がする。
あれって、無意識に魔力を感じて強さが分かったって事?
「気配を感じると、自然と魔物の強さが分かったりします」
「だったら問題ないよ。それぐらいで普通だから」
なんだそうなのか。
「冒険者の中には、俺が気配を全く感じられないのと同じように魔力を全く感じられない者もいるんだ」
「えっ、それは大変そう」
魔物の強さは魔力で分かるのに、それが分からないなんて。
どうやって対応しているんだろう?
「伝説の冒険者の1人に魔力を感じられない人がいたんだ。その人は魔物や動物の事で知らない事は無いと言われているほどすごい勉強家だったらしい。おそらく魔力を感じられない事を、知識を蓄える事で補っていたんだろうな」
なるほど、目の前の魔物の魔力を見て判断するのではなく知識の中の情報を駆使して魔物に対応していたのか。
凄いな。
魔物も動物も凄い数いるのに。
「本当かどうかは分からないが、魔物の生態についての本を最初に書いた人だと言われている」
「すごいですね。本を書いたから有名なの?」
「いや、その人が操る魔剣さばきがすごかったから有名なんだ。冒険者の憧れの人の1人だよ」
魔剣?
「その冒険者に、魔力は有ったんですか?」
魔力が感じられないのに魔力が有るの?
「感じられないだけで、その人の魔力は相当高かったと言われている」
そうなんだ。
てっきり魔力が少しだから感じられないのかと思った。
あっ、それは違うか。
その考えだったら私も魔力を感じられない人になってしまう。
なんだか魔力って不思議なモノだな。
「この辺りには店はないな」
ドルイドさんが周りを見回すので、一緒に周りを見る。
大通りから外れて村を探索していたが、どうやら店が途切れてしまったらしい。
「そうだね。そろそろ宿に戻る?」
「そうするか。宿に戻ったら、夕飯まで罠を作ろうな。とりあえず、いつもの強度の罠を作って様子を見よう」
「楽しそうだね?」
「あぁ、楽しい」
「その前にファックス書かないと」
「あっ、俺もだな。仕方ない適当に書いておくよ」
それはどうなんだろうな。
ドルイドさんのお父さんは大丈夫かもしれないけど、お母さんやお義姉さんには突っ込まれそうだけど。
そう言えば、皆にサーペントさんの事を紹介したいけど無理だよね。
ファックスって誰かに読まれる事があるみたいだし。
仕方ないか。
………………
「行ってらっしゃい」
「「行ってきます」」
宿の店主、チッカルさんに見送られながら商業ギルドに向かう。
今日の予定は、ファックスを送信したら次は捨て場へ行ってソルたちの食事に付いて回って、最後に罠を仕掛けて終わり。
罠の成功率をあげるには仕掛ける場所がとても大切。
良い場所が見つかればいいけどな。
「そう言えば、どうしたんだ?」
ドルイドさんが、首を傾げながら訊いてくる。
きっとサーペントさんたちの事を書いたか、訊きたいのだろう。
「『森の奥で新しい仲間たちに出会ったよ』と書くだけにしました」
「そうか。さすがにそのままは書けないもんな」
「うん」
まさか、サーペントさんたちの上に乗って皆で森を大移動したよとは書けない。
それでなくても噂になってしまっているのに。