327話 捨て場の場所
商業ギルドを出る前に、ファックス専用の紙を貰う。
ハタヒ村に着いたら連絡すると、前回のファックスで知らせておいたのだ。
予定より早く村に着いて余裕はあるが、忘れる前に送った方がいい。
忘れてしまうと心配をかける事になる。
商業ギルドを出ると暖かな風を感じる。
「暖かいな」
「うん。春だね~」
「ははっ、春だな。さてと、この村の捨て場を見に行こうか?」
「うん」
ソルの食事もあるから場所の確認は大切だよね。
後は……。
「この村の周辺で、狩りをすることは出来るかな?」
「それは問題ない。だが確か、この周辺には野兎はいなかったはずだ」
「いないの?」
どこにでもいる印象なんだけど。
「あぁ、この辺りから野兎がいなくなる。もう少し王都に近づくと、野ネズミもいなくなる」
そうなんだ。
ちょっとショック。
この2種類の動物で、お金を稼いで乗り切ろうとしていたんだよね。
無知って怖いな。
もっと沢山勉強しないと。
「あれ? だったら王都に干し肉は無いの?」
「いや、変わりにノベアという魔物を使った干し肉が人気だ」
魔物のノベア?
場所が違うと干し肉になる材料も違うのか。
私でもノベアって狩れたりするかな?
「ただ、このノベアは少し凶暴なんだ。だから干し肉もこの周辺に比べると高値で取引されているな」
凶暴なのか。
狩りは無理そうだな。
「野兎がいなかったらこの周辺は野ネズミだけなのかな?」
「いや、この周辺では野ネズミとオビツネが罠で狩れるはずだ」
「オビツネ?」
「あぁ、少しだけ魔法が使える魔物なんだが、それほど強くないから問題ないだろう」
魔法が使える魔物?
えっと、それは本当に私でも大丈夫なのかな?
「私、攻撃魔法とか全く駄目だけど大丈夫?」
「大丈夫。オビツネはピリッとするぐらいの雷の魔法を使える程度だから」
ピリッとするぐらいなら大丈夫かな。
というか、オビツネを狩ることが出来たら、初めて魔物を狩った事になる。
ドルイドさんが大丈夫というなら大丈夫だろうし。
ちょっと楽しみになってきたな。
「しかし、罠はどんなものが良いかな?」
ドルイドさんと罠を張るようになってから、随分罠が進化しているよね。
縄の太さ、隠し方、網の強度など1人の時とは全然違う。
「オビツネの爪はそれほど強くないから、縄はそれほど太くなくてもいいな。魔法で逃げられる可能性はあるのか? ん~、あの力ではカゴを壊される心配はないと思うが……」
隣を歩くドルイドさんを見る。
彼ぐらいの力があれば、罠で狩るより他の方法で狩った方がいっぱい狩れると思う。
なのに、楽しそうに罠を作って色々考えて仕掛けて、そして楽しそうに結果を見に行く。
最初の頃は戸惑いが見られたから、きっと私に合わせてくれているのだろうと思った。
それが申し訳ないなって思っていたのだけど……。
「いや、雷は小さくても回数を重ねられたらカゴの強度が弱まるか。やはりカゴは補強を施す必要があるな。どんなモノで強くするかが問題だな。雷だと小さな火花が出る可能性がある。ん~、何が良いかな?」
今は、その戸惑いは無くなり本当に楽しそうなんだよね。
何がそんなに嵌ったんだろう?
「ん? どうした?」
「なんでもない。オビツネはカゴの罠にするの?」
「あぁ、そのつもりだ。野兎の3倍ぐらいの大きさだから少し大き目のカゴが必要になるな」
野兎の3倍?
そんなに大きいのか。
ドルイドさんはいつか、もっと大きな獲物を罠で狩ろうとか言いだしそう。
この間も狩りの方法が載っている本を真剣に読んでいるから見たら、大型の罠のページだった。
どこを目指しているんだろう?
ちょっと不安だな。
「あまり大きな獲物は狙わないようにしようね?」
「オビツネぐらいなら、今の俺たちでも大丈夫だよ」
「うん?」
あれ?
今の返答って、えっと……。
今の俺たち?
まぁ、大丈夫かな。
「慣れてきたら次だな」
大丈夫じゃないかもしれない。
チラリと隣を見る。
何を考えているのか分からないが、楽しそうな表情をしている。
……止めるのは無理かもしれない。
門を抜け、捨て場を探しながら森を歩き回る。
「無いですね」
周りを見るが捨て場らしきものは見当たらない。
それに今いる場所は村から離れすぎている。
「方向が違ったかもな」
「うん、途中で道が分かれていたからあっちかな?」
「行ってみよう」
「あっ、待って。ソラたちをバッグから出したい」
周りの気配を探る。
この周辺に人の気配はない。
大丈夫そうだ。
「ごめんね、遅くなった」
バッグを開けるとソラとシエルが飛び出す。
フレムも今日は起きていたようでバッグから飛び降りた。
「ソルがいないな。まだ寝ているのか?」
バッグを覗きこむとソルと目が合う。
起きてはいるようだが、その目を見るとまだ眠たそうだ。
「捨て場に着いたら起こすから、寝ていていいよ」
「ぺふっ」
一言鳴くとスッと目を閉じるソル。
「寝ちゃった」
バッグを閉じてソラたちを見る。
「シエル、ゴミ捨て場が何処にあるか分かる?」
「にゃうん」
シエルがスッとアダンダラに戻ると、今来た道を引き返す。
やはり道が間違っていたようだ。
しばらく歩くと、迷っていた分かれ道。
反対に行くかと思ったら、そのまま村へ近づく道へ行く。
「まったく場所が違ったみたいだな」
予想が外れたのは初めてだな。
「そうだね」
村が近づくと道から外れて森の中を歩く。
そして、しばらく歩くと捨て場らしき場所が見えた。
本当に予測していた場所と真逆に捨て場が作られていたようだ。
それに村から近い。
「シエル、ありがとう」
シエルにお礼を言うと尻尾が揺れた。
「ここの捨て場はなんだか整理されていますね」
「そうだな。捨て場の管理人がしっかりしているのだろう」
「ソル、起きて。捨て場に着いたよ」
バッグからソルを出す。
周りを見て捨て場を確認すると、勢いよく転がって行った。
そろそろ飛び跳ねて移動しないかな。
「さて、カゴだな。どうやって強度を付けようかな」
ドルイドさんも楽しそうな表情で捨て場へ向かう。
楽しむことはきっと良い事だよね。
「にゃうん?」
「シエル、ありがとう」
ゆっくりと頭を撫でると、すりすりと手に頭を擦りつけてきた。
本当に可愛いな。
「さて、私も必要な物を拾ってこようかな」
捨て場を見る。
ソルの周りに、黒い魔力が大量に浮かび上がっている。
ソルから少し離れた場所に、剣を食べているソラが見える。
その近くにフレムがいるが、今日は大人しくポーションを食べているようだ。
そして、カゴを持って捨て場の中をうろうろしている、ドルイドさん。
「自由だね」
「にゃうん」
シエルの頭を軽くポンと撫でてから捨て場に入る。
周りの気配に注意しながら、必要な物を選んでいく。
ドルイドさんとカゴの強度で相談しながら選んだので、少し時間がかかってしまった。
「にゃうん」
シエルの声に、周りの気配を探るとこちらに近づく気配があった。
周りを見る。
既にソルの食事は終わっているようだ。
「皆、ちょっとこっちへ来て。誰か来る」
人の気配で数は3人。
おそらく見回りだろう。
「ぷっぷぷ~」
「てっりゅりゅ~」
ピョンと戻って来たソラとフレムをバッグに入れる。
途中まできていたソルを迎えに行ってバッグに入れる。
「にゃうん」
シエルは傍まで来るとスライムに変化してくれたのでバッグに入れる。
ソラやフレムが何か残していないかドルイドさんが確認する。
「大丈夫だ。何も落ちてなかった」
ドルイドさんと必要な物を持って捨て場を出る。
「あれ? 旅行者の方ですか?」
捨て場を出てすぐに、男性の声が聞こえた。
視線を向けると、ハタヒ村の自警団員の服を着た男性が3人。
「はい。我々だけですが? どうかしましたか?」
「いえ、この辺りで大きな魔力を感じたような気がして」
ドキリと心臓が跳ねるが、何とか表情を取り繕う。
「いや、俺たちしかいなかったですが」
「そうですか。あなたがたは何を?」
「罠を張るので、必要な物の調達をしていたんです」
ドルイドさんの言葉に、自警団員たちは不思議そうな表情をする。
「カゴを使った罠を作って、狩りをするんですよ」
ドルイドさんが説明すると、感心したような表情を見せる3人。
どうやら罠にまったく馴染みが無いみたいだ。
「また、随分と面白い狩りをするんですね」
自警団員の1人が言うと他の2人が頷いている。
「面白いですよ。自分の作った罠に獲物が掛かると嬉しいですし」
「なるほど」
「では、俺たちは村に戻ります。お先に」
「大丈夫だとは思いますが、先ほど感じた魔力が気になるので気を付けて」
3人の自警団員に軽く頭を下げて村へと向かう。
しばらく黙って歩き、彼らが見えない所まで来ると小さく息を吐く。
「捨て場の場所が村から近すぎるな」
今までの村と捨て場の距離を考えるとおそらく半分ぐらい。
その為、村から出て捨て場に直で来られるとソラたちを隠すのが慌ただしくなる。
「気を付けないと駄目だね」
「あぁ。何か対策を考えるか」