325話 色が鮮やかな村
「シエル、ソラ、そろそろバッグに入ってもらっていいかな?」
ハタヒ村に近づいたため、シエルたちにバッグへ入ってもらう。
あの果物を見つけた日から7日目。
途中、洞窟で魔石を採掘し木の実や果物も収穫、そしてまた見つけてしまった不当な捨て場。
捨て場ではソルが大活躍してくれた。
ソルの体に浮かび上がった模様は、落ち着いた銀色に変わりかっこよくなった。
ただし体は丸い状態で維持されている。
元に戻る様子がなく、どうなるか不安だ。
「人の気配はあるか?」
ドルイドさんが、周辺に視線を向けながら訊いてくる。
「え~っと、無いよ」
かなり遠い場所に人の気配はするが、近くには魔物の気配もない。
先ほどまで、シエルがバッグから出ていたからだろうな。
「なら、村道に出ようか」
「うん、そうしよう」
シエルに訊いておいた方角へ歩くと村道が見えた。
さすがシエルだな。
「あと少しだな」
「そうだね」
「予定より15日ほど早いから、宿も選べるな」
「そんなに混むの?」
「あぁ、当日はすごい人が集まるからはぐれないように気を付けないとな」
「分かった」
どれだけの人が集まるんだろう。
ちょっとわくわくするけど、人が多いのはちょっと苦手だな。
ん~、楽しめるかな。
「皆楽しんでいる人たちだから、大丈夫」
私の気持ちを察してくれたのか、頭をゆっくり撫でてくれる。
「楽しもう」
「うん」
ドルイドさんもいるし大丈夫かな。
「えっ! あれが門?」
見えてきた門を見て驚く。
なんと言うか派手だ。
門全体に色がついている。
「この村はとにかく派手だから中も凄いぞ」
村の中も?
というか、門ってこんな派手でもいいのか。
立ち止まって門を見上げる。
木で出来ているのは他の村や町と変わらない。
なのに木に鮮やかな色がついている。
赤やら青やら緑、とにかくいっぱいの色が使われている。
「……何の絵なんですか?」
子供の落書きに見える。
ところどころ、何かをぶつけて色を付けたような場所まである。
「最初は何かの絵だったらしい。でも、祭りの度に色が重ねられていって今はこの状態だと聞いたな」
「祭りの度?」
「そうそう、色粉の団子を門にぶつける奴らがいるらしい」
だから不規則な柄なのか。
というか、賑やかな印象だもんね。
「そうだ、祭りの日は全員真っ白な服を着るからな」
「真っ白な服? そんな色の服は持っていないけど」
「大丈夫、祭り専用の服が売られるから。それを着て2日過ごすんだ」
「2日?」
「あぁ。説明の前に村に入るか。門番にちょっと怪しまれてるみたいだ」
門を見ながらずっと話していたからだろうか、門番さんに見られている。
近付くと、ちょっと警戒した雰囲気。
悪い事をしてしまった。
「すみません、村に入りたいのですが」
「そうなんですか? まずギルドカードかもしくは身元が分かるカードを」
門番さんが警戒しながら対応してくれる。
そんなに不審だったかな?
ドルイドさんがカードを出すので、私もカードをバッグから取り出す。
カードで私たちの身元を確認すると、門番さんが大きく息をついた。
「よかった。祭りの参加者にしては来るのが早いし、じっとこちらを窺っているから何かされるのかと警戒してました」
「すみません。この村は初めてだったので、門が派手な理由などを聞いてました」
「なるほど、そうだったのですか?」
「はい」
「確かに年々派手になりますからね」
門番さんが門を見上げる。
「そうだ、この村には何か予定でも?」
「祭りに参加しようと思いまして」
「えっ! まだ1ヶ月も先ですよ?」
門番さんの驚いた顔。
やはり、ちょっと来るのが早すぎたようだ。
「あ~、宿の心配があったので、早めに来ました」
「なるほど。確かに年々参加する人が増えて、宿が取りにくくなってますからね」
「えぇ、そうだ。お薦めの宿をご存知ないですか?」
「そうですね……。あっ、こちらの紙に滞在理由を書いて頂けますか?」
「はい」
ドルイドさんが門番さんから紙を受けとる。
「祭りに参加予定ということはほぼ1ヶ月の滞在ですよね?」
「そのつもりです。広場も考えたのですが、この時期はちょっと遠慮した方がいいかと思いまして」
「広場は駄目です。昨日も大暴れした馬鹿どもがいましたよ。可愛いお嬢さんが一緒なら、絶対に今の時期は駄目です」
「えぇ」
そんなにひどいのかな?
2回も駄目って言われてしまった。
「値段もそこそこの宿だと、大通りを奥に向かって4本目の角を右に曲がって少し歩くと『ココロン』という名前の宿があります。そこの店主は気さくで楽しいですよ」
「風呂はありますか?」
「このハタヒ村の宿には風呂は絶対にあります。宿を開業する時に風呂を作るのが条件なので」
お風呂を作るのが条件。
凄い村だな。
「初めて知ったな」
「『ココロン』のお風呂は広いので、ゆっくり出来ると評判です」
「そうか。期待できそうだな。ありがとう」
「いえ。祭り、楽しんで行ってくださいね」
「あぁ、宿の情報をありがとう」
「ありがとうございます」
「いえいえ、また」
門を抜けて町を見て立ち止まる。
確かに派手だ。
というか、色々な色が使われていて統一性がない。
「目が疲れそうな村だね」
「アハハハ、この村に来ると皆そう言うよ」
扉の色、窓枠の色、壁の色。
見事に家ごとにバラバラ。
しかもどれも原色に近い色を使っている。
大通り全体が、色とりどりで鮮やかな印象。
「大通りを奥に向かって4本目の角を右だよな。あっ、紹介してもらった宿はあそこかな?」
角を曲がって数軒先の壁が真っ青な建物。
そこが紹介してくれた『ココロン』という宿らしい。
「すごい、真っ青ですね」
「そうだな。真っ青の壁に黄色の扉か」
「窓枠は黒ですよ」
ココロンの扉を開けて、宿の中に入る。
「あれ? 全然違う」
外が派手だったので中も派手なのかと思ったが、ものすごく落ち着いた印象の家具で統一されている。
「いらっしゃいませ。ようこそココロンへ。店主のチッカルです」
声が聞こえた方へ視線を向けると、眼鏡をかけた男性が私たちを見て笑みを浮かべていた。
身長はドルイドさんぐらいだろうか、ただ体は細い。
「ドルイドと言います。こっちはアイビー。2人、泊まりたいのですが部屋は空いてますか?」
「えぇ、大丈夫ですよ。祭りまでまだ1ヶ月ほどありますから問題ありません。部屋は一緒で構いませんか?」
「はい。お願いします」
「期間は?」
「祭りに参加する予定です。出発する日はまだ未定なのですが」
「分かりました。宿代ですが、とりあえず1月で計算させていただきますね」
「はい」
「月7ラダルで朝食付きです。夕飯は別途料金が掛かります」
前の宿より1ラダル高いな。
祭りの時期は、宿泊費が高くなるって言っていたから、それかな?
「分かりました。夕飯が必要な時は朝に言えばいいですか?」
「えぇ、それで構いません。では3階の角部屋になります。調理場は各階にありますのでご自由にお使いください。では、案内しますね」
チッカルさんの後に続いて3階まで階段で上る。
「ここが調理場です」
3階の調理場を見る。
鍋なども置かれており、かなり使い勝手が良さそうだ。
「部屋はこちらです」
案内された部屋は、綺麗な少し広めの空間。
「問題ないですか?」
「はい、とても落ち着いた綺麗な部屋で安心しました」
共同スペースは落ち着いた印象の家具で統一されていたが、個別の部屋がどうなのか緊張していた。
外のように色がふんだんに使われていたら落ちつけない。
だが、心配は無駄だったようだ。
案内された部屋は、木のぬくもりを感じられる温かな印象。
良かった。
「ふふっ、それは良かったです。今日は夕飯はどうしますか?」
何を心配していたのか、ばれているみたいだ。
ちょっと恥ずかしい。
「お願いして問題ないですか?」
「はい、了解しました」
チッカルさんが部屋から出て行くと、ベッドに飛び乗る。
「面白い村だね」
「あぁ、後で村を見て回ろうか? 冒険者ギルドに情報も持って行きたいし」
「うん」
祭り楽しみだな。
2019年、最後の更新となります。
私の拙い作品を読んでいただき、本当にありがとうございます。
感想や誤字脱字など、とても感謝しています。
今年中に溜まった誤字脱字、修正します!
今年はこの作品が書籍化され、本当にうれしいそして変化のあった年でした。
購入していただいた方、ありがとうございます。
支えてくださった全ての方に感謝します。
ありがとうございました。
来年もどうぞよろしくお願いいたします。
1月には『異世界に落とされた』も書籍化されます。
こちらともども、どうぞよろしくお願いいたします。
ほのぼのる500