323話 ドロップ品
「この辺りに来たら、もういないみたいだな」
「だね」
捨て場から出発して4日目。
魔力による凶暴化した魔物の姿がようやく無くなった。
1日目は最初に襲いかかってきた魔物3匹の他に合計6匹。
2日目には5匹の魔物が襲いかかってきた。
そして昨日、3日目は2匹。
今日はまだ1匹も遭遇していない。
通常の魔物はシエルの魔力を感じると逃げていく。
なので襲ってくるのは間違いなく魔力による影響を受けた魔物たちだ。
「しかし、凄いよな」
「うん」
襲いかかってきた魔物は見事にシエルが撃退。
というか、その強さは圧倒的だった。
それに、戦っている時のシエルの嬉しそうな事。
あれは完全に本能の赴くままって感じだったな。
「それより、マジックアイテムはどうする?」
「全て売ってもいいのでは?」
季節が違うのだが、魔物を倒すとマジックアイテムがドロップした。
といっても、岩山周辺で倒した魔物だけなのだが。
数としては7個。
最初にドロップしたのは魔力の指輪。
魔力切れをした時に、指輪に付いている魔石に溜めた魔力を使えるらしく冒険者に人気らしい。
他にも、マジックボックス、守護の指輪などもあった。
守護の指輪は残念ながら、ドルイドさんとも私とも相性が悪かった。
相性があるのも初めて知ったけど、相性が良かったら不意打ちの攻撃を防いでくれるらしい。
残念。
「いいのか?」
「うん。特に使えるものもなかったし。旅には邪魔になるし」
「そうだな。次の村で売るか」
「うん」
シエルが不意に立ち止まる。
もしかして、また?
周りを見回しながら気配を探るが、魔力によって凶暴化した魔物は気配が読めない。
これについてはドルイドさんも首を傾げていた。
今までも、凶暴化した魔物については調べたらしいが気配が消せるという情報はなかったそうだ。
ただ気配が読めないと、冒険者にとっては大変な事なので詳しく村で説明することにしている。
「シエル、魔物が来るの?」
「にっ」
この鳴き方は違うのか。
だったら何だろう?
シエルが向かっていた方向を横に変える。
そしてじっと私を見る。
「もしかして寄り道?」
「にゃうん」
この場所が何処かは分からないし、後どれくらいでハタヒ村に着くかは不明だけど面白そう。
「ドルイドさん、行ってもいい?」
「ん~、まだ日にちに余裕があるし、行ってみるか」
ドルイドさんの言葉に、シエルの後ろにあった木がミシミシと音を立てる。
きっとシエルの尻尾で攻撃をされているのだろう。
シエルの後ろにある木を見る。
けっこうな太さがある木が、左右に大きく揺れている。
さすが襲ってくる魔物を尻尾だけで仕留めるだけある。
「シエル、行こう。この近く?」
「にゃうん」
シエルの後を歩いて約20分。
「岩山か?」
「でも岩の色が真っ黒だよ?」
目の前に現れたのは大きな岩山。
ただし岩の色が黒い。
「何があるんだろう。楽しみ」
ここ数日は不意に現れる魔物に緊張が続いていた。
シエルが撃退すると分かっていても、やはり不安でドキドキしていた。
なので久々の楽しい気持ちに足取りも軽くなる。
そのせいなのか、久々に躓いた。
すぐ後ろにいたドルイドさんに支えられて、こける事はなかったけれど恥ずかしい。
「びっくりした」
「アイビー、落ち着いてくれ。驚くから」
「ごめん。ありがとう」
何かに足が突っかかった気がしたので、足元を見る。
岩山の癖に何もなかった。
小さな段差すらない。
「にゃうん」
「あっ、ごめん」
シエルが鳴いて、何かを知らせてくれる。
傍によってシエルの視線を追う。
「洞窟?」
黒い岩山にぽっかり空いた穴。
見た目で判断するなら、不気味だ。
が、シエルは嬉しそうに目の前の洞窟に飛び込んでいく。
「楽しそうだな?」
「うん」
あそこまで洞窟を楽しみにしているシエルは初めてだ。
何かシエルの感情を揺さぶる物でもあるのかな?
洞窟内に足を踏み入れるが何も見えなかった。
岩が黒いためなのか、異様に暗い。
ドルイドさんがマジックアイテムのライトをつけると、周りをふわっとやわらかい灯りが照らす。
「なんかキラキラしてる」
洞窟の壁に何かが埋まっているのか、光りを反射してキラキラと輝いている。
不思議に思い壁に近づく。
「小さいけど綺麗だね」
親指程度の小さな丸い石。
色は透明。
「魔石なのかな?」
壁に埋まった状態の石に触ってみる。
石から魔力は感じない。
「魔石じゃないのか」
だったら、これは何だろう?
石……魔石以外に石と言えば宝石?
でも、私は宝石を見たことがないから、これが宝石なのか判断できないな。
「アイビー、凄いぞこれ。たぶん宝石の中でも価値の高いダイヤモンドだ」
ダイヤモンド。
なんだか聞いたことがある名称だな。
「凄いの?」
「あぁ、このサイズだけでもかなりの金額だ」
ドルイドさんの掌を見ると、私の親指の先と同じぐらいの大きさの透明の石を持っていた。
そんな小さいのに価値があるのか。
「この石にどんな力があるの?」
「力はない」
力はないの?
それなのに価値がある?
「守護石とか?」
「いや、着飾る貴族ご用達だな」
着飾る……装飾品!
「装飾品?」
「あぁ、ダイヤモンドは王族や貴族たちがこぞって手に入れたい宝石だよ」
「へぇ~」
「興味なさそうだな」
「うん。ない」
だって、守りにも戦うのにも役に立たない宝石なんて。
あっ、でも売れると言っていたな。
これから王都や周辺の町に行くなら、もう少しお金に余裕が欲しい。
「売れるのなら、少し貰っていっても良いかな?」
「誰かが管理している様子もないし、大丈夫だろう」
「よかった。大きい石を探した方がいいの?」
「いや、大きさより透明度だ。この大きさでも、金貨2枚もしくは3枚だ」
「えっ! そんなに小さいのに?」
もう一度ドルイドさんの掌を見る。
やはり私の親指の先ぐらいの大きさだ。
確かに透明度は高い、でも魔力はない。
貴族の人たちって無駄に着飾っているんだな。
肩こりそう。
「でも確かに、王都に行くならもう少しお金を貯めておいた方が安全だな。なんせ王都やその周辺の町では物価が数倍だから」
数倍?
そんなに物価に差があるの?
「そんなに違うの?」
「あぁ、干し肉は今までどれぐらいで買ってた?」
「だいたい8個から10個入りで100ダルかな? 150ダルの所もあったと思う」
そう言えば、少しずつ値段が上がってきているような。
「王都に行くと、10個で500ダルだな」
「えぇ~! そんなに高いの? 高すぎない?」
「値段が高くても売れるからな。今ではそれが当たり前になってるよ。それに王都に行けば行くほど野兎や野ネズミなどがいなくなるから、仕方ない面もある」
そうなんだ。
王都って、なんだかお金がいっぱい必要な所なんだな。
150ダルでも高いなって思ったのに。
500ダル……王都での生活とか絶対に無理だな。
「さっと行って、さっと帰ろうね」
「クククッ。そうだな」
王都にちょっと滞在したいなって思っていたけど、止めよう。
あっ、広場で数日だけ泊まって王都を満喫するという手もあるか。
でも、食べ物とか……。
「あっ、王都とその周辺の村は広場で寝泊まりするにもお金がかかるから」
王都滞在は最短にしよう。
……ん?
「王都に滞在する必要ないよね? 行きたい場所は王都の隣町なので」
「行かないのか? せっかく王都の近くまで行くのに」
「ん~」
王都を見たいとは思ってはいたけど、絶対とは思ってないしな。
余分な出費をしてまで行きたいかといわれると『必要ないな』と考えてしまう。
でも、少し気にはなる。
「まぁ、王都に行くまでにゆっくり考えたらいいよ。さて、少し貰っていくか」
「うん」